12、狂犬と狼
「ガアガガガがガガガがッッ!!」
ドゴォ
杉の幹が耐えきれずに弾き折れ、義一は後方に二十メートルほど吹き飛ばされた。
カウンターだ。
闇属性魔法【段落】。
何番かわからない。ディスオーダーだ。
慶一は最初の派生【四落】の一撃をくらい同じように幹に叩きつけられ気絶した。
四落の広範囲単発攻撃を何とか受け流した他の二人は、そのまま追撃で入れられた段落により、深山は崖下へ転落。義一は四連撃をもろにくらい、肋骨を折られ暴れ狛犬を強制解除された。
何とか身を起こし、腰に手をやり予備の短剣を掴んだ。
赤い目が前方に不気味に光っている。
何という力の差だ――。
あいつはまだ一歩も動いていないんだぞ。
義一は遠距離からの攻撃手段は持たない。同じく深山も慶一も持っていない。
まさかカウンター持ちだとは思わなかった。
戦闘に及んだ人間はみな死んでいるのだから情報がないのは当たり前のことだ。
段落は勝てば反発を相殺できる。
つまり、威力で上回ればその段階衝撃を打ち消して懐まで踏み込むことが可能だ。
義一はプラクティスを全て捨て、最後の構えを取る覚悟を決めた。
炎、氷、布陣、三属性ディスオーダー、
――――【氷炎混合】。
炎と氷の属性を極限まで高めて合わせ、最後の布陣を展開する。しかしそこまで持っていくのに数分かかる場合もあるため、深山をそのための時間稼ぎとして同伴させている。
深山は高い防御スキルを持つが慣れない連携のため、慶一のことをかばいきれなかったようだ。
一人でやるしかない。
あとがないこの局面で、義一は僅か十四秒で陣の展開をどうにか成功させた。
そして――。
九番体術【練気】。
八番体術【殴殺】。
短剣を捨て、手持ちの残りスキルを同時発動させた。
あとはこれでやるしかない。
「ガァアアアッ!!」
九番で練った気を八番に乗せて防壁を粉砕した。
闇が払われる。
老狼サウザンド――。
ついに目の前にその巨体が広がった。
――壊す。
十数年、抑え続けてきた力を全てそこに叩き込んだ。
ドゴォォ……
気がつくと義一は大木に体を打ち付けられていた。続けて放たれた段落が全てのスキルを弾き返した。
誰にも勝てない――。
氷炎混合はプラクティスに高い源力を乗せる。
この状態で暴れ狛犬を発動させれば奥義にも匹敵する破壊力を瞬間的に出すことができる。
しかし、それを可能にするためには誰かのサポートが必要になる。
目の前では、赤い光がさらに強い方円を用意し始めた。
【八落】。
放たれたら終わりだ。
山の神に手を出した報いか――。
義一は、限界を迎えた意識とともにその目を閉じた。