91、VS釈迦(3)
火の民に形を似せている釈迦は異次元の身のこなしと打撃力を持っている。
本体は戦闘経験のない飾蒲生だが、まるで格闘ゲームさながらの遠隔操作で彼らを圧倒することができる。
一人称視点と上空からの見下ろしで、微細な動きに至るまで忠実に再現される。釈迦を操作するときはまるで別人になったかのような動きになり、戦闘能力が跳ね上がる。
火の民がどのように動いていたかが手に取るようにわかるようだった。釈迦と繋いでいるときばかりはまるで戦闘民族そのものだ。
復元されたときにさらに火の民の形に近づいたのだろう。動きの精度が更に上がるようだった。本体は初老だが、暗い部屋の中で流れるように立ち回る細い体は美しかった。
ヒュン――――ドゴォ
釈迦は真後ろに飛ぶと木に着地し溜めをつくった。
その後跳躍し、前方宙返りをしながら樹一たちの元へ飛び込んできた。
一撃が比べ物にならないほどに重いはずだ。
力を使い切り、源力を纏えない彼らは一発食らっただけで致命傷になる。
ドゴォ
受け止めたのは浦須だった。
飛び込んできた釈迦を両腕で防いだ。
骨が軋む。ダメージが体の芯まで残る。しかしこれは攻撃ではなく準備だ。これから始まる殺戮のための。
そのまま釈迦は殴打を浴びせる体勢に入った。
食らったら一人死ぬ。
「ぐっ」
全員が身構えた。狙いは誰だ。
そのとき――。
ダァン
横から釈迦の眉間めがけて銃撃が放たれた。
勢いが止まり、僅かに仰け反った。
冬士郎の眼砲だ。敵の標的が切り替わる。眉間が少しだけ削り飛んだ。
「このままこま切れにしてやるよ」
ダン、ダン、ダン、ダン
ビッ、ビッ
銃撃の反動で何度も仰け反りながらできるだけ重い眼砲を打ち込んでいく。
「ち、頑丈だな」
体の表面をほんの少しだけしか削れない。
仕方なく戦術を切り替えた。
詠唱が入る。
――寝ずのとりでを挟み込む。
【土塁土】。
同じ地面の上で対象を縛る。
危険項目は自身も動けなくなる、土属性魔法三番だ。
魔法が発動すると対象を無力化する代わりに一切の行動ができなくなる。
喋ることもできない。
冬士郎は最後に手で払う仕草をした。
「……一度退くぞ」
そういうと樹一はその場から離れようとした。
「何だって!?」
駆が反対する。冬士郎を置いて離れるわけにはいかない。
「ここはやつの場力の中にある。回復も遅れる」
樹一の攻撃しか現状では有効打がないからだ。
「回復って、どれくらいかかるんだ」
「三日はかかる」
「そんなに待てるか!」
「しかしそれしか方法はない」
「くそっ」
離れるしかない。自分も回復しなければならない。
今ここでできることはない。
冬士郎の横顔を最後に見た。
ただ正面の釈迦に視線を据えていた。
――三日。
元々土塁土は長期戦のためにあるスキルだ。燃費はいい。
しかしどう考えても三日は持たない。
「冬士郎さん……」
この状態で俺が隕石を叩き落とすしかない――。
駆は何とか早く回復する手立てを取った。
思わず携帯に手が伸びた。
――慶一。
ここから三日間、苦しい時間との戦いが始まる。