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外伝、六畳結界

 昔、あるところに飾正一(まさひと)という男がいた。その頃、飾家の集落は白井国にあり、地震災害の多いこの地方を静めるという意味でも古代の民から飾家はこの地を託されていた。そしてもう一つ、大きな役目として髄家の力を抑えるというのがあり、正一も幼い頃から髄家に関する話は聞かされていた。飾家は髄家を監視しているが、この二つがお互いに交わることだけは固く禁じられていた。しかし、正一は幼少期を飾家の集落だけで過ごし、外の世界を知らない。そこへ髄家の話だけを聞かされているうちに段々と髄家への興味が募っていった。外の世界をろくに知らないまま十八歳を迎えた正一はある日、固く禁じられていた掟を破り、一人で髄家の者たちが身を寄せているという隠れ里へ向かった。それは井黒のさらに西にある外地にあった。長い旅だった。やがて、外地の先にある森の中で、もう間もなく着くであろうというところで、一人の娘が魔物に襲われているところに出くわした。正一がそれを退けると、娘は礼を言ってきた。娘は名を髄織代(おりよ)と言い、年は十六だった。織代がぜひ礼をしたいから村へ来て下さいというので、正一はそれに従って後をついていった。

 やがて森が開けると、辺り一面に人家が集う町に出た。ここが外地の中にあるとは信じられないほどのかなり広い町だった。行きかう人の数も多く、そこにいるのは髄家の者ばかりではないということだった。正一は正直に名を明かすと織代の家は快く迎え入れてくれた。織代の父は町を治める名主の一人で、髄家の正当な血を受け継ぐ家柄の者だった。どうやら髄家側には飾家の存在は知られてはいないようだった。客人は珍しく、部屋も一つ与えられ、好きなだけここにいても構わないと言われた。織代は気立てもよく、美しい娘だった。やがて二人は恋に落ち、間には子どもも生まれた。二人の祝言は盛大に行われた。誰もが幸せそうな二人を見て、髄家の行く末も安泰だと心から思った。

 正一はこの隠れ里に身を寄せている間、一つだけ注意していることがあった。それは外門スキルの発動だった。万が一、発動させれば素性を探られる恐れもある。町には内地からの商人や旅人なども来ていたから、飾家の存在がいつか知られてしまうことにもなりかねない。しかし、自分だけが気をつけている限りはその心配はない。正一はそう思っていた。

 子どもが八歳になったある日、三人で河原を歩いていると、蜻蛉が草むらの中を飛んでいた。子どもが楽しそうに追いかけ、それを捕まえて二人の元にやってきた。よく捕まえられたな、と二人は感心していた。その後も何故か、子どもは蜻蛉だけでなく、蝶や蝉、あるときは雀なども捕まえて二人の元へ嬉しそうにやってきた。いったいどうやって捕まえているのだろう。不思議に思った二人は子どもの捕まえる様子をある日、観察することにした。すると子どもは二人の目の前で飛んでいた鴉を触れもせずに地面へ落としたのである。外門スキルだった。やがて子どものこの採集方法は町の人たちの目にも留まり、ついには町の領主にも知られてしまった。

 町の領主は二人を呼びつけて問いただした。やむなく正一は全ての事情を話し、子どもは結界の入った部屋へと閉じ込められる結果となってしまった。

 結界は領主の家の地下にある六畳の部屋だった。明かりもろくにない部屋で長い間、閉じ込められた。子どもには何故、自分がこのような目に遭うのかわからなかった。ただひたすら耐える時間が続いた。誰と話すこともできず、何もすることもできず、ただ時間だけが過ぎるのを待つしかなかった。やがて子どもは衰弱していった。意識が朦朧として現実と幻の境目もわからなくなりかけた頃、遠くで声が聞こえてきた。それは一人の男の声だった。男の声は大丈夫か、と子どもに語りかけた。それから意識を取り戻すと、声だけがはっきりと聞こえてくるようになった。私は飾遺六(いろく)。森羅という国で聖職者をしており、外壁という能力を使い、お前に話しかけている、と伝えた。それから、遺六は子どもの話し相手になり、色々なことを教えた。ここから出るためには、お前も外壁の力を使い、領主を殺して出るしかないと言った。子どもはそれに従った。そのために必要なことは教えられるままに全てこなした。御力の使い方やスキルのことも教わった。

 闇属性魔法九番(リカバー)というのがある。他者の生命エネルギーを利用して自身の怪我や体力を回復させるという禁断のスキルだ。その同位改変スキルをお前が獲得できれば、きっと有用になるだろう、と教えられた。闇属性魔法九番(リカバー)の同位改変スキルはまだ誰にも開拓されていなかった。子どもは言われるままに闇属性魔法九番(リカバー)を習得し、外壁スキルと合わせて領主へ放った。そして領主を殺すころにはスキルは同位改変へと引き上げられていた。教祖(デアボリスト)の誕生である。その後も、子どもは男と会話をし続けた、お前が恨むべきは次は母親を始めとした髄家だ。髄家を根絶やしにしろと言われた。子どもにとって男はもはや神のような存在だった。自分を救ってくれた唯一の神を子どもは信じた。

 男には昔から伝わる信仰の領域があり、それは(ほとけ)といった。男が説明したその姿は、どれも穏やかで馴染みのある風景ばかりで、子どもはすぐに虜になった。そして教えられるままに一つ一つ、子どもはその仏の名を心の中で具現化していった。男は私の元に来れば本物を見せてやる、と言った。つまり梵天の誕生である。

 子どもはまるで動物実験でも行うかのように領主である髄喪郎に続いて祖父である織代の父も殺した。町は騒然とし、その隙に救いに来た正一に抱かれて子どもは外へと逃げた。そしてそのまま正一に連れられ、全てを置き去りにして二人は町を出た。その子どもこそが後に全ての災いを生み出すことになる飾蒲生である。


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