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外伝、縛

 白井国白亜。

 薄明りの一室で五藤家の嫡男、飛鳥馬が窓際に立ち、鞘からそれを抜いた。


「これが縛刀【柄杓(ひしゃく)】か。禍々しいな」


「お帰りはいつになる予定ですか」


 刀を鞘に戻した。

 柄杓。

 刺すと行動、源力、内功。鼓動と呼吸以外の全ての動きを止めることができる。

 呪われた刀だ。

 それを片手に持って目の前の梅子を見た。


「一月くらいかかるかもしれないな。北の果てに遠征になる」


「……そうですか」


 心配そうに飛鳥馬を見る。


「心配はいらない。帰ったらしばらく休みをもらうよ。義父さんも子どもをもうけろってうるさいからな。一緒に温泉にでも行こう」


「そうですね」


「外壁が出たっていっても相手は子どもだ。どこかで(はぐ)れた飾家の悪戯だ」


「そうだといいのですが」


 ある日突然、白井の中心部に外壁が現れた。

 外壁は通常、その力の範囲は声を届けるまでしかなく、顔面を具象化するのは御力による強化がなされた場合のみで、それは外壁の同位改変のようなものであり、現在二人しかそれをできるものは確認されていない。

 初めて顔面の外壁が現れたのは二十年以上前であり、そのときには蒼い庭園の名主が数名殺されている。

 しかし、そのことはまだ飛鳥馬も梅子も知らず、新しいやり口をどこかの飾家が生み出したのだろうとしか考えていなかった。それを懸念に感じた惣領の五十六は顔面の出した僅かな情報から発生源を突き止めるために飛鳥馬に柄杓を持たせて調べようとしたのだった。


「明日から牙途だ。土産にブリキの人形でも買ってくるよ」


「はい」


 飛鳥馬は窓際で空を眺めた。


「外を見ろ、満月だ。たまには離れるのもいいだろう。帰るのを待っていてくれ」


 そう言うと飛鳥馬は黒い靄を湧き出す縛刀を抱え、梅子の部屋を出て行った。



 翌朝、早くに飛鳥馬は単身、牙途へと旅立った。

 携帯を持たせ、こまめに連絡を取るように伝えた。それで大分心配は減った。


 “今日は野宿だよ”。


 “今日は途中の町で宿を取れた。段々寒くなってきたな”


 そうやって一日に何度か連絡を取っていた。


 そうして一週間ほど経った日の夜。


 “口女に入った”


 “目標を見つけた。これから連れて帰る”


 元凶を発見したようだ。しかし、ここまでが飛鳥馬から送られてくる理解のできる内容のメッセージだった。


 “可哀想なやつだ”


 “女が数人いる”


 何のことを言っているのか、返事はなかった。


 “梅子、すまない”


 “帰れない。義父さんに伝えてくれ”


 相変わらず返事はない。話は一方通行だった。

 飛鳥馬の元で何かが起きている。それだけがわかった。


 “ラオペア、というのがやってくる”


 “時間がもうない”


 何度試しても通話には応えなかった。来るのは要を得ないメッセージのみだ。


 “街ごと落とすしかない、と言っている”


 “これで最後にする”


 その後しばらく連絡は来なくなった。

 何が起きているのだろうか。

 心配した梅子は私も行くと答えた。その後、最後のメッセージが来る。


 “お辞儀……、そして、なか……ま……”


 それきり音信は途絶えた。


 何かを伝えようとしたのだろうか。しかし、最後までその意味はわからなかった。


 その日、口女の郊外で住宅のみがいくつか破壊され、男が一人死ぬ事件が起きた。

 男は最後に空砲をいくつか放ち、その後に命を落とした。

 男の目には最後まで背中だけを向けて座っている青年の姿が焼き付いていた。


 飛鳥馬が殉職したことはメッセージが途絶えた後、再びあの顔面が現れたことで伝わった。

 顔面は終始無言だった。


 何かがいる。


 飛鳥馬のおかしなメッセージからもそれが伺えた。

 牙途に飾家の血を引く何者かがいる。しかし、実害がない。その顔面は外門スキルを使わなかったからだ。

 ただ一つ気になることは白井に顔面が現れたのと時を同じぐらいにして、世界の至るところで死兵が現れ始めたことだった。しかし因果関係についてはわからなかった。

 結局、飛鳥馬を失ったことは手痛いがこの件に関しては保留とされた。


 しかし、そのすぐ後にある事件が起きる。

 白井の町にその死兵が押し寄せてくるという事件だった。

 牙途の何者かによるものだった。

 それがわかったのは、その中の一体が柄杓を持ち、また、失われた飛鳥馬の自由技能(ディスオーダー)を放っていたからだった。


 【方閃箱(デスクエアー)】。

 飛鳥馬の持っていたスキルだ。

 四角い物体を破壊するという銃技だ。

 これにより、防衛街区青葉は壊滅的な損害を受けることになったが、由瑞を始めとした防衛専門の冒険者たちによってやがて静められた。


 今をさかのぼること数年前。

 雨の降る夕暮れの日のことだった。


 ――返しにいかなくては。

 縛刀と奪ったスキルを返す。

 蓮真はただその心に従ったのだった。

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