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外伝4、火と水と(4)

 9月17日

 初めて出会った日。髄家の子を背負う、内地の者。

 火の刻印(源力)を感じる。


 9月20日

 今日もあの人はべランダで歌をうたう。

 「風に吹かれて」。

 野生の猿が屋根を伝いベランダに下りて来て私たちとその歌を聴いていた。


 9月24日

 斧は刃が弱いと言って、町でチェーンソーを買ってくる。

 スターターロープを引く瞬間に間違いなく火の刻印が閃く。

 火のスキルを身につける気がする。


 10月15日

 朱里、生まれる。

 名前はあの人が付けてくれた。


 10月17日

 私たちの家、完成。

 俺は百姓になると言った。町から近くに移住したいという人が何人かいた。

 いつかこの辺りを村にすると言っていた。


 11月5日

 私を先に殺してほしいという願いをのんだ。

 慶一は死なせるわけにはいかないから。


 11月14日

 夜、湖に散歩に行く。

 火の民の原書はもうどうでもいい。

 ごめんなさい。


 11月15日

 精神症状は治らない。

 あの人を困らせたいと思ってしまう。

 でも一緒にいてはいけない。

 私はいつかここを出なくてはならない。


 11月27日

 外壁が時々襲ってくる。

 気づかれないようにしないといけない。


 12月7日

 (欠如、塗りつぶしている)


 2月23日

 (欠如)


 5月9日

 (欠如)


 6月28日

 (欠如、義一たちとのささやかな暮らしの様子が全て塗りつぶされている)


 9月4日

 火の民のことと私の素性を打ち明けようと思う。

 どうかお許しください。



 義一はただ黙ってそのノートを閉じた。

 七尾美のつけていた日記のようだった。


 町で七尾美の葬儀を終えた。

 墓だけは家のそばにつくった。


 七尾美は慶一の肩代わりをしていた。

 愕然とした。

 どおりで慶一に外壁が来ないはずだ。


 日記の最後の方には義一に思いを寄せる記述がある。

 叶うならずっとそばにいたいと書いてあった。それが今胸に突き刺さってきた。


 全ての言葉が義一に重く伸し掛かった。


 何もできない日が続いた。

 七尾美がいなくなって、世界の何もかもが色を失って映るようだった。

 冷たい風が吹いた。


 義一は七尾美の死の瞬間、恐怖の瀬戸際でスキルを身につけた。

 七尾美を抱きながらあの顔面に抗った。

 火と水が一緒になったスキルだ。


 世界が終わってしまったような気がした。

 秋の景色が空しく映った。


 これから、秋が来るたびに義一は七尾美のことを思い出すようになる。

 慶一と朱里があとに残された。


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