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第22話


 22


 ジェニア、ヘルミネ、セリカの三人と従卒たち十八人がトマーヤとキッセイの間道に建つ隠し小屋に到着したのは、朝の八時にもならない頃だった。


「こんなに早く来てくれるなんて……」

 近づく呼び笛の音に起こされたシスティーユ・ラハーマは寝起きの無防備な頭に湧いてきた感激と安堵でわずかに涙をにじませていた。


「夜明けにはすっかり準備が整っていてね。でも牧場を空にするのも不安が残るからって、ちゃんと明るくなるまでは待っていたの」

 まさかこんなところで会えるとは思っていなかったセリカ・ソーラのその大きな胸にまず顔をうずめた後、広間のテーブルで向かい合って座る。一方では、こちらも再会を喜んでいたジェニア、ヘルミネ、コリンナの三人がお互いの情報を交換している。


「カミラとフェマがブリックに……なるほどね」

 昨日の夜に小屋の外で起きていた出来事を聞いたコリンナがしきりにうなずく。ジェニアはセリカのほうに視線を移して訊ねた。


「ソーラ博士、ただいまロブロスの位置はわかりますか」

「はい。あ、ええと……」

 振り返ったセリカが一度うなずいたが、ふと眉をひそめた。窓から顔を出して、朝日のまぶしい森をじっと見据える。


「変、です……なにも聞こえない」

「なにも聞こえない? どういうことですか」

 白いローブの長身を窓枠に傾けるハイエルフの背中に再び訊ねると、


「ロブロスが……いません。消えました」

 こんなことは初めて――こちらを向いた白磁の面差しがそう語っていた。


「回復して、また地面に潜ったんじゃないの」

 ロブロスの潜伏能力について話したばかりのコリンナの意見にセリカは首を横に振る。


「傷はとても深いはずです。直接……見たのではありませんが」

「じゃあ、死んだんじゃない。いや、それでも精霊が見ているはずよね」

「ソーラ博士、最後に確認したロブロスの位置はわかりますか」

 なにか奇妙なものを感じたらしく、ジェニアが広げた地図を差し出す。この見張り小屋から西北のあたりをセリカが指さした。


「他の狼の動きはわかりますか」

「ロブロスの周辺にいたのでしたら、わかったのですが、今ではもう……」

 自然に強い影響を及ぼすバフェットウルフならともかく、普通の狼に精霊はそこまで関心を示さない。セリカが感じ取ることができるのは、その関心の割合である。また、同じように精霊と一体となり、バフェット化した生き物なら、自然と溶け込み精霊たちの目をごまかす。傷づいたバフェットウルフという不自然な生物だからこそ、セリカは感じ取ることができたのだ。


「しかたないですね」ジェニアは小さなため息をついた。「進路としては我々を避けているようですし、予定どおりキッセイ牧場に戻りましょう」

「了解」

 ヘルミネの返事にシスティもうなずいた。一方、コリンナはそのどちらともとれない態度で腕を組んでいた。


「コリンナさん?」

「……うん、まあ、いいわ」

 背の低い白馬騎士があきらかに不満を抱いているのがわかったが、それは現時点では到底達成できない内容であろうこともまた全員が理解していた。コリンナの意識が一瞬だけ外に向いていた。システィの火精によって焦土と化した地面には明け方にテデリが発見して運んできた二人の従卒の遺体が麻布にくるまれて置かれている。一人はロブロスにと思われる大型の狼の顎によって首元を食い破られてほぼ即死だったとみられるが、もう一人は複数の狼に襲われて惨たらしく引きずり回されたようで、全身に引っ掻き傷や噛み跡が残されていた。見つけた従卒たちしか知らないことだが、下腹部には〝つまみ食い〟の痕跡もあった。

 システィの前でも「必ず殺してやる」と息巻いていたコリンナの気概は今も消えていないが、それが個人的な感情である以上は隊長の決定を優先するべきと考えたのだった。


「急ぎましょう」

 僚友の納得を受け取ったジェニアはあらためて指示を出し始めた。すぐに全員が小屋を引き払う準備をして、昼前には出発した。初めてシスティが通った時には密林かと思うほど鬱蒼としていた隠し道も、数十人に踏みならされてはっきりとした道に変わっていた。


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