序
私の気持ちなど無関係にエレベーターのドアは開いた。上にある展望台に向かおうとする数名の客は涙を流しながら展望台から降りてきた私を好奇の目で見ていた。このロマンチックな展望台できっと彼氏と喧嘩別れでもしたのではないかと推測しているに違いない。全く恥ずかしい限りだ。事情も知らないすれ違っただけの赤の他人たちにそんな下らない推測をされるのが嫌だったからこそ私は逃げる様にその場を去った。
建物の外に出た私はふと夕日に目をやった。エレベーターから見たあの夕日も地上からだともう沈む寸前で微かに赤い光を放つのみだった。
一日がこうやって終わるように私の恋も儚く終わってしまったという事だろうか?「陽はまた昇る」と誰かが言っていた。でもそれは本当だろうか?太陽だっていつかは寿命が来る。それにたとえ太陽が昇ろうともそれを見る前にその人が死んでしまう可能性だってあるのだ。それは私自身、身を持って十分分かってる筈だ。
そう、輝かしい未来がいつか待ってるという保証はどこにもない。
だからこそ、このまま私はこの痛みを負い続ける事だってあり得るのだ。
私は憂鬱な気持ちを抱いたまま自転車を漕いだ。向かう先の空はすっかり暗くなり、夜が来た事を知らせていた。