【第79話】遠征の計画(4) 出発の挨拶とポーション作成
「シルバーゴールド工房」
付与装備のガワを作っているフトコロさんの店。
訪ねてみるとドアには木の札が掛かっていた。
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今日は午後からの営業。
~ 店主 ~
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「・・・また後から来ようか」
「そうにゃね」
「しかしこんな木札を作ってしまうなんて」
「常習犯にゃ」
職人兼、販売も行っているから仕方ないんだろうけど。
しかしこの木札、色々パターンがありそうだ。
今度聞いてみよう。
帰ろうと踵を返したところで、鍵が開き、ドアが開いた。
「どうした」
「あ、フトコロさん、いらっしゃったんですか」
「ああ、工房はここではないんだが、中で作業をしてた。気分を変えたくてな。
また買い足しか? お前が来るかも、とも思っていたんだ」
「そうでしたか。いえ、実は少しの間、首都を離れるのであらかじめお知らせしておこうと思いまして」
「そうか・・・じゃあ戻ったらまた訪ねてくれるか?」
「はい。わかりました」
「ふう・・・ちょうどいい、休憩にするからちょっと付き合え」
「はい」
店の中に通される。
中を見ると、いつもは無いテーブルがお客さん側のスペースに置いてあり、上にベストの形に配置された魔石が置いてあった。
「連結処理自体は終わっているんだが、今のままでは均等にMPが行きわたらないし、回収が出来ない。
なので1つづつ、うまく流れていくように線の太さやバイパスを作って丁度良いところを見つける作業をやっているんだが」
反対側の手を肩に置き、腕をゆっくり回しながら現状報告が始まった。
「20個を一気に、というのがなかなか難しいな」
難しいという割に、充実した顔でフトコロさんがそう言った。
「ゆっくりでいいですよ、急いではいないし」
そもそもこのベストは、俺がどこまで出来るかという、一種の遊びの延長のようなノリで作ることになったものだ。
でもこれが出来たらきっと俺の強い武器(防具?)になるはずだ。
「まあな。大丈夫だ。焦って、適当な仕事はしないさ。
だからと言って何か月も掛けるつもりもないがな・・・」
フトコロさんは気分を変えるためにか、詳しくやっていることを教えてくれた。
同じ魔石と言っても微妙なクセがあり、まずはなるべく均等になるよう並べ、連結をする。
後は微調整を魔石同士を繋ぐ線だけでして行くらしい。
調整は全部の魔石が連結していないと分からないらしい。
後は太くしたり、長くしたり。
「そうだ。この仕事が終わった後で、もう1、2仕事、噛んでもらうかもしれない」
「いいですよ」
「いいのか? まだ話をしていないぞ」
「出来る範囲で協力しますよ」
「そうか!」
俺の左肩を強めに叩いて喜びを表すフトコロさん。
結構な音と、ちょっとの衝撃が来ている。
これは防御力アップの腕輪が無かったら普通に痛いやつだ。
性能テスト的な事は既にやっていたけど、身近なこういうシーンでも実感できて、ちょっと面白かった。
「それ、どういう仕事なんですか?」
「おう、じゃあ一回扉を施錠するぞ」
「はい」
まあフトコロさんからの仕事の持ち掛けだから付与関係だろう。
ドアから、ガチャンと鍵が掛かった音がした。
「何か飲みますか? 屋台にある飲み物なら大体ありますよ」
「おお、じゃあブドウジュースを頼む」
「了解です」
俺はオモチに目配せをしてから、テーブルにブドウジュースが入ったコップを出した。
「いいコップだな」
そう言いながらブドウジュースを一口飲む。
「冷たくてうまい。それに新鮮だ。
・・・時間停止の空間収納まで持っているのか。
お前いいものもって生まれたな」
そう言った後、美味しそうにブドウジュースを飲む。
俺とオモチもブドウジュースを出して飲む。
「はい、いつも助けられていますよ」
そう言いながらオモチの頭を撫でる。
「うに・・・」
長いすに座って、話を聞く。
「仕事っていうのは付与装備の作成だ」
「なるほど」
まあそれしかないか。
「前に職人ギルドのギルド長が、販路について調べて置くって言っていただろう?」
「はい」
「さっきギルドに材料を取りに行ったときに、ギルド長に呼ばれて話をしたんだが、
もともと、ある取引先と付与装備についての構想があったらしい」
「へぇ」
「詳しい店の名前とかは分からないが、貴族街にある防具店だと言っていたかな?」
「付与装備があってもおかしくないという事ですね」
「多分な。」
「貴族も防具買うんですかね」
「いや、やっているのが貴族だから、貴族街にあるらしい。
場所は貴族街に入ってすぐで、やはり行くのは冒険者がメインだ」
「なるほど。わかりました」
「これいくらだ?」
フトコロさんがブドウジュースが入っていたコップを返してきた。
「それはおごりです」
「お、サンキューな」
「これからもよろしくです」
「おう、こちらこそな」
握手して立ち上がる。
コップを洗浄魔法で綺麗にして、収納してから店を出た。
◇◆◇◆◇◆
オモチをふにふにしながら教会に向かっていると、職人ギルドの前を通りかかる。
「あ・・・そうだ」
「にゃ?」
「まだお昼までには時間があるし、初級ポーションを作って納品して行こうかな」
「了解にゃ」
「東の森から帰って来て、一度も作っていなかったのでそろそろやっておこう・・・」
「そうにゃね・・・」
オモチの頭を撫でながら俺は職人ギルドへ入っていった。
「こんにちは、ケイタさん、今日はどのような御用ですか?」
職人ギルドに入ると、いつものように入り口に待機して居た男性職員のキースさんから挨拶をされた。
「こんにちは、今日も部屋を借りて作業がしたいです」
「わかりました、では1番カウンターへどうぞ」
キースさんは1番カウンターまで誘導してくれた後、
受付嬢さんに貸し調合室の受付をお願いしますと告げ、
入り口へ戻っていった。
この人いつもすごいなと思う。
というのは、この誘導が有るのと無いのとでは、使う時間が全然違うからだ。
この人が要件を聞いて、カウンターまで案内して、簡潔に受付嬢さんに伝えてくれるから職人の手間や時間を相当短縮して、かつ、このロビーが混雑しない。
いつもここのギルドが物静かなのはこういう所が関係しているのだろう。
「こんにちは、ケイタさん」
「こんにちは」
「貸し調合室は1時間1500円です。
このカウンターに鍵を返しに来られた時間までをカウントいたします」
「分かりました」
お昼までは1時間ほどなのでゆっくりやろう。
「お待たせしました、貸し調合室4へ案内します」
「はい、お願いします」
受付嬢さんは
”CLOSE
空いているカウンターへお回りください”
の立札を机の上に置き、後ろを振り返る。
「ギルド長、ケイタさんを貸し調合室4へ案内しますね」
「はい、ケイタさんこんにちは、何かあれば遠慮なく声を掛けて下さいね」
「はい、後で大量納品しますので、よろしくお願いします」
「わかりました、準備しておきますね。
あと、その後にちょっとだけお時間貰えると助かります」
「分かりました」
◇◆◇◆◇◆
「それではごゆっくり」
「ありがとうございました」
受付嬢さんを見送ってからテーブルに移動する。
周りを見渡すと、色んな調合道具などがありアトリエ感がしてテンションが上がる。
無骨な機械が1つも無くて、ガラス製の容器が木製の枠にはめ込まれたりしているのがいい。
「俺が使うことはないけど、これほしいなあ」
「使わないのに?」
「うん、インテリア的な感じで飾るのも悪くないよね」
「へぇ~・・・いいんじゃないかにゃ?」
ちょっと適当な感じでオモチがそう言った。
この世界で生まれて、ポーションなんかが当たり前のオモチには分からないところだろう。
うまく伝わらないだろうし、これを説明するつもりもない。
「それではさくりとやってしまおうか」
「うに、ボクは何を出したらいいにゃ?」
「まずは空のポーション容器を1箱、フタを外した状態で出してもらおうか」
「どうぞにゃ」
「ありがと、じゃあこれをこちらにおいて・・・」
「あとは、まな板とナイフかにゃ?」
「うん」
「どうぞにゃ」
「ありがと。薬草って今どのぐらいある?」
「薬草は全部で、81束あるにゃ」
1束10本、81束あるので810本の薬草があることになる。
色々やりたいことが多くて後回しにしていた付けが回ってきた。
「よし、じゃあとりあえずやってしまおう。」
「うに」
「・・・洗浄」
自分とまな板とナイフ、ポーション瓶の順番で洗浄する。
薬草を刻んでいき、両手に山盛りにして持つ。
これで大体ポーション50本分になる。
「ウォータークリエイト」
目の前に水球を生み出す。
続けて水球の上部から中心までの形態の維持を解く。
お椀のようになった水球の上部から薬草を投入する。
上部の形態の維持を再開させてふたをし、軽く水流を発生させかき混ぜる。
「加熱」
ウォータークリエイトの応用技で、水球の温度を上げる。
水球がボコボコと音を立て一瞬でに沸騰し始める。
この状態で20秒。ゆっくり水が赤く染まり始めた。
「冷却」
いつもの色になったところで加熱をやめ「冷却」する。
今回もしっかりと薬草の葉が溶けており、残りカスはない。
続けて空きのポーション瓶に、出来立てのポーションを注いでいく。
俺は工場の機械になったつもりで注ぐ作業に没頭する。
室内にはツー、ツーと、瓶の中にポーションが入っていく音だけが響く。
今回も1回の作業で50本分のポーションが完成した。
「よし、じゃあフタと封シールを出してもらおうかな」
「どうぞにゃ」
コルクのフタが上向きに並んで出現した後、さらにその横にパサリと封シールの束が出てきた。
封シール、コルクのフタ、ポーションの箱、という順番で並んだ。
「ありがと」
またもや俺は、工場の機械になったつもりで一定のスピードでフタを拾ってははめていく。
「だいぶ早くなっているにゃね」
50本のフタを終わって、ふたが置いてあったスペースに木箱をずらした時にオモチがそう言ってきた。
オモチはタイミングをわきまえており、こういう所に好感が持てる。
そう考えた後に、どんな子猫だと思わず笑ってしまった。
「やっぱ、何事も慣れだよね」
「そうにゃね」
シールを貼りながら少し雑談をする。
「・・・前は空中に水球を浮かべて、それを維持するのに結構神経を使っていたんだけど・・・」
「うに」
「この前のポーション瓶が沢山来たときに連続でやってからはさ・・・」
「うに」
「あれは思い込みだったなって、今は思うよ」
「思い込み?」
「うん」
手を止めてちょっと考える。
「魔法は俺を裏切らないって事だよ」
俺は1つ頷いてから、封シール貼りを再開させる。
ポーションも鮮度が命だからな。
「・・・へぇ?」
「魔力操作LV10の効果で、俺の思った通りにしか動かないから、
ミスった時どうしようっていう、不安が魔法に反映されるんじゃないかって、思って、ビクビクしていたんだけど、意志をもって、こう動けって思わないと動かないのが、身をもって分かったからさ」
「にゃるほど。
魔力操作は7以上になると、ほぼそういう失敗はなくなるにゃよ。
それ以上のレベルになると、そういった操作の精巧さが上がって行くと言われているにゃ」
「そういう指標があるのか」
「うに。とはいっても、この世界で生まれ育った人って、魔力操作が7行けば超人とあがめられるにゃ。
そこが普通の人の限界だろうから、そこが事実上の上限として、そこまで行ったらその練習は止めて、それ以外を鍛えなさいと教えられるにゃ」
「へぇ。まあ俺はそこの所が噛み合ったみたいだな」
「うに、この前言っていた話にゃね」
この前の話とは、転移者のレベルが上がりやすい、というのに、俺の職業の効果が恐らく足し算ではなく、掛け算されているという話だ。
だから俺は基本のレベルはそこそこだけど、中級以下の魔法はすぐ覚えられて、練度も上がりやすい。
自分で選んで得たものではなかったけど、結果的に俺にマッチしたものを贈られている。
昔と違い、今ではこの贈り物でよかったなと感謝さえしている。




