【第37話】薬草採取と拷問鬼魔法
朝、目が覚めるとオモチはまだ布団の中にいた。
ちょっと幸せな気分になる。
オモチが居なかったら初日で死んでいただろうな。
・・・とこれは時々考えることだ。
あんなだらけきった体で森の中を方角もわからずに、
かなり距離があった首都までたどり着けなかった。
あの山の近くには、あの首都しかないらしい。
食べ物も無い森だったし本当に危なかった。
それにレベルも1で、ゴブリン周りにちょいちょい居たからな。
枕元に置いていたメモ帳を見る。
ページが開いた状態で、
”大切な人を守るために、今考え準備をする。
その時になって、自分にはどんな手札があるか考えて、
何かを閃いて勝てるのは漫画の主人公だけ”
と書いてある。
大切な人を思い浮かべる。
手札は、初級、中級の魔法・・・。
そういえば格上のモンスターや人には、低位の魔法が効きづらいっていうけど
魔法が当たる直前とかに霧散するのかな。
漫画なんかで時々見た、水で顔を覆うとかをやるとどうなる?
もし霧散するなら覆えないな。
もし水で顔を覆うとしたらウォータークリエイトかな?
TODOに、”グランさんに、強い相手との魔法の関係について聞く。”と書く。
ふとオモチを見るとこちらを見ていた。
「おはよう」
「おはよう、ケイタ」
「宿の食堂だとご飯まで時間があるから、保管してあるもので済ませてしまおうか」
「いいと思うにゃ」
「じゃあ、梨ジュースとサンドイッチ2種類だして下さいな」
「はい、どうぞ」
ベッドに腰掛けたまま二人で食事を開始する。
オモチはひざの上で、飲み物は机のイスを持ってきてそこに置いた。
「さて、じゃあ村の入り口に向かいますか」
「にゃあ」
オモチはケットシーの形態になり、胸の前で左手を軽く握り、
右手を上に突き出す手前で止め、俺を見る。
「行くぞぅ」「「おー!」」
早朝の宿の中だ。二人、小声でえいえいおーっとやる。
しっかりと装備を整え、宿を出る。
「さむい」
森の中の朝は冷える。
手は皮の手袋で何とかなるが、日本でつけていたマスク的なものがないので
鼻の中が冷たいし、なんだか中からお腹が冷えてしまいそうだ。
吸った冷たい空気で、お腹を内部から冷やしてしまう感じ。
人が全然いないメインストリートを歩き南へ向かう。
キョロキョロしながら歩く。
この町は森の中にあり、モンスター除けで2メートル程のどこか良い雰囲気の石垣に囲まれている。
有事の際に、壁を乗り越えられるように内側には階段状にも石が詰んであったり、
向こう側に下ろすハシゴがあったり、ジャンプで飛び降りれるようにか、束ねて作られたワラのクッションのような形状にしてあるものなどが、備えてあるのが見える。
雨に濡れないようにか、屋根だけの東屋のようなものの中に綺麗に積まれている。
この町でまともに出入りができるのは北門と南門の2つだけだそうだ。
南の門番の人に狩りと薬草採取をしてくると伝え村を出る。
「できれば、壁の周りにいるやつらを何とかしてもらえたら助かるよ」
夜勤明けなのか、ちょっと疲れた笑顔でそういう門番には、
差し迫ったような様子はなく、いつも冒険者へ言っているセリフなのが分かった。
外に出てから右側を見ると100mほど先にモンスターが居た。
壁には魔物除けの加工がしてあるようで、ゴブリンやスライムが乗り越えたいけど、
近づけないといった感じでうろうろしている。
「ウォーターバレット」
さくりと一か所に溜まっていたモンスターを倒していく。
倒した後壁を見てみたが、特に異常は見られなかった。
魔物除けか何かが薄れているか、壁の向こう側にいい匂いがするのか。
でも結局モンスター達は壁に触れる事が出来ていないので問題はなさそうだ。
「これは壁を一周するだけで、そこそこの魔石が手に入りそうだな」
「そうにゃね」
壁に群がるモンスター達を倒しつつ、ふと、ここは人間というエサが詰まった、
モンスターホイホイなんだなと考えてしまう。
それをオモチに話してみる。
「まあ。そういう言い方もできるかにゃあ」
「森と隣接しているから本当に危険と隣り合わせだよね。
ここは陸の孤島という表現がぴったりだ。」
「陸の孤島? まあそう言えなくもないかにゃ・・・」
「せめて上からでも、槍でつついたりしたらいいのに。
ああ、でも間違えて落っこちて、それで亡くなってしまったらアウトだな」
「そうにゃね、そうなったら本末転倒にゃね」
オモチとしゃべりながら1時間ほどで東側の壁はきれいになった。
今度は壁から離れ、森に向かう。
「そういや、杖を使ってみるか」
俺は自分の杖を取り出す。
「ウォーターバレット」
素早そうな大きなトカゲのモンスターも出てきたが、魔法の餌食だ。
水の弾丸に反応できていない。
「ん~」
俺は歩みを止め、自分の杖を見ながら思わずうなる。
「どうしたのにゃ?」
「・・・なんていえばいいのかわからないんだけど、
昨日おばあちゃんに借りた杖あったでしょ?」
「あったにゃあ」
オモチはこくりとうなずいた。
「あれに比べたら、この杖って、なんていうのか、
・・いくつか部品足りてない、って感じなんだよね」
「ああ・・・なるほどにゃ」
オモチの「ああ・・・」からは、やっと気づいたの?という副音声が聞こえる。
俺はこちらの常識ないし、杖これしか持ってないんですけどね。
とは言わない。
「もう、伝導率がいいだけの棒って言ってもいい。意味がない。モノが全然違う」
デザインだけの棒に、急に怒りがわいてくる!
「じゃあケイタもいい杖を買うといいにゃ」
「まあ・・・そうだな。首都になら杖専門店もあったから相談しにいくか」
「それがいいにゃ。そのためにもお金貯めるにゃ」
「そだな。よし。」
俺はオモチを見ながら、左手を胸の前でぐっと握りしめ・・・
すぐにオモチが気づき、嬉しそうに笑って同じ仕草をする。
「お金をためて杖を買うぞー」「「おー!」」
二人で大声でえいえいおーをやった。
オモチはかわいいからいいとして、
年甲斐もなく満面の笑顔で右手を突き上げる俺はやばい。
「ここの薬草も手付かずみたいだな」
背が高く葉が多くなった薬草を見てそうつぶやく。
現在、森の深いところまできている。
薬草はある程度育つと成長が緩やかになる。
そして1mほどまで大きくなったら葉を多く出して円の形になる。
緩やかになるのは、葉を多くするためのタメだと何かの本に書いてあった。
もう自分で使うから納品はしない予定だが、いつものクセで納品用の規格で採取する。
結局最後には人間側の都合になるが、薬草側からすれば復活がしやすく、
人間側からすれば十分な効能を出せるこの量がちょうどよいのだ。
この1つの薬草の株からは、納品規格で4本分が収穫できた。
1週間後に見に来れば、また再生しているはずだが、その頃にはもうメルスの町を
出発しているはずなのでまた放置されるのだろう。
とりあえず地図にペンで薬草採取ポイントとして、バッテンのしるしをつけておく。
それから3日ほどで森の奥一帯の薬草、毒消し草、スタミナ草、その他素材を採取した。
その際、ふと凶悪な魔法の使い方を思いついてしまった。
それは沸騰させた状態を維持したお湯を、
相手の口の中に放り込むという鬼のような魔法だ。
「拷問鬼魔法・・・」
「そんな魔法はないにゃ」
まあ実際は初級魔法のウォータークリエイトなんだけど。
魔力操作レベル10で放った後も干渉して沸騰を維持してる。
放った後は沸騰も形の維持もあまり長くは出来ないからスピード勝負な魔法だ。
ゴブリンに試し撃ちをしたらかわいそうな感じになった。
詳しい描写は避けるが、ビックーンってなって、もんどりうったりなんだりだった。
ちょっとやばい。人に見せられない。悪用厳禁。
見ているこっちがしんどい。
そしてこの魔法はのちに更なる進化を遂げ、俺の切り札となった。




