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その5


オグナが産まれてから

100年が過ぎた。

成人の儀から20年、シドウの者は独り立ちを迎える


ある者は村の戦士に、ある者は冒険の旅に、

「百の時を鍛え、万の(イクサ)を駆ける」

古くから伝わるシドウの教え


オグナもまた、シドウを旅立つ若者である


村の門前には、見送りのため

父や母、友人らが集まっている


オサが良き旅と良き戦いに巡り会う為、祈りを送る

「より猛き戦士となって帰って来なさい」

オグナはオサに深く深く頭を下げる


「ほれ!持っていけ!」


グイっ!と父のオキナが腕を前に出す

その腕には、大きな包みが握られていた。


受け取ったソレはズシリと重い


「父上、コレは?」

「神木から切り出した、この世のどの鉄よりも固く重い」

中身は、スッと削り出された木の棒だ

「ありがとうございます」

「達者でな」

「はい」


足取りも軽く、オグナが村の門をくぐる

後ろを振り返り

「行って参り…


オグナの足元がビカッと光った



おお…成功でござい


まさか姫さまの魔法が1回で成功するなんて…


失礼ね!



まだ、先ほどの光に若干目がくらむ中

オグナは複数の声を耳にする


不意に誰かがオグナの手を握る


「あぁアナタ様が伝説の英雄エウロン様ですね?」


久しく呼ばれた、その響き


「私達を、この国を、その偉大な魔力でお救いください!」


オグナの目の前に美しい乙女が立っている


(ん?どこかで……)

オグナの脳裏にかすかに記憶が蘇る


……

…………

『…また、私に会いに来てくださいね…』

『えぇ…多分…いいえ…必ず……』

……


ー「姫さま!エウロン様!!」ー

危険を知らせる老人の大声、

ハッと我に帰った直後!

目の前でドカンと猛烈な爆発が起こった


荒れ狂う爆風と轟音!それと焼け付く様な猛烈な熱気


だんだん砂埃がおさまると

先ほどまで横手にあった、城の壁は吹き飛び

大きな横穴が空いている


その横穴の断面

石材は赤く溶け、黒く煙が上がっている

強烈な熱魔法が使用された形跡は

城の中庭を超え、外壁の向こう側まで一直線に伸びていた


(…この威力、第4界魔法【火霊の大矢(ファイヤエレメントアロー)】辺りか…)


「姫さま…お…お怪我は…」


弱々しい老人の声が聞こえる


「私はなんとか…平気…爺ぃやありがとう、それにユッケ助かったわ」


ユッケと呼ばれた神官風の男

「いえ、玉座の結界のおかげで、なんとか【風の(エアーウォール)】のみ発動できました…エウロン様は…」


神官風の男がオグナに目を向ける


オグナは先ほどの場所から一歩も動いていない

それ以外の者達は爆風に煽られて

大穴と反対側、壁辺りまで飛ばされている。


大穴の向こうに

甲冑を身に着けた40人程の兵の姿が見える

その中央、ニタニタと笑う男

大きな錫杖を手に、黒衣のローブ

痩せこけた顔立ちは蛇を思わせる。


「な!なんと!あの男は!!」

しわ枯れた老人の目が大きく見開かれた


「コレは、コレは、イスリールの皆様!」


錫杖の先に大きな火の玉を作りながら

黒衣の男が近づいてくる


「キコル!!!!貴様ーーー!!!」

神官ユッケは怒りに任せ、怒鳴りつける


「おーや!豚のクソにも劣る、神官殿!まだ無駄に生きておられましたか」


「この裏切り者!」

少女が涙交じりに叫ぶ


「いけませんよ姫君とあろう者が、

そのように はしたなく大声を張り上げては!」


「お黙りなさい!!!」


「また大声を…はぁ…さすがは、あの阿婆擦れの血を引くお方だ、品性のかけらもない。」


「母様に向かって、なんて言葉を!」


「それで…何です?この男は?」


キコルは虫でも見るようにオグナを睨め付ける


「エウロン様!今すぐ!その男を…」


老人が声をあげた瞬間!


「【火衣(クリムゾン・)蟒蛇(ウロボロス)】」


「ぎゃーーー!!!!!!!!!!!」


キコルの錫杖から火の蛇が飛び出し

老人の体を炎が飲み込んだ


「爺ぃや!!!!!!!」

姫の悲鳴

老人の焦げる匂いが鼻をつく



「ハハハ!!エウロン?コレがあの?伝説の?伝説の英雄エウロン・カーズ?」

「そうよ!私が英雄召喚を行いました!正真正銘の英雄エウロン様よ!」


「ブハハハ!!!!!!!これがエウロン!ブハハハ」

再び錫杖から火の蛇が放たれ、オグナの体は大きな炎に包まれる。


「嫌ーーーーー!!!!!!!!!!!」


「なんと愚かな!エウロンは遥か昔に死んでおります!

やはり姫様の魔法は、いつも失敗ばかりですな!

ハハハハハ!!肉体の無い死者を、どの様に呼び出すと言うのです?それに見なさい!本物のエウロンならば

これぐらいの魔法など難なく対処出来るはず!どこが英雄なものか! 知恵の無いバーサーカーでもわかるコトでございますぞ!!」



…バーサーカーで悪かったな


「え?」


キコルの首へ目掛けて、炎の中から何かが伸びた!


「…ぐ!」

キコルの首に伸びた腕!

万力の様な力で、グイと締め上げる!


「バーサーカーで悪かったな」

ググググと、キコルを首を掴んだ腕がみるみる大きくなっていく


「ぐ…ば…バカな…」


炎の中の人影は、小山程に膨れていく


ビリビリと肉体が焼け焦げた服を押し破り、

身体を包む炎が弾け飛ぶ


隆起した筋肉、盛り上がる力こぶ!!!

丘を思わせる発達した胸板!!

大砲の砲身よりも太い首筋!!

ロッククラムが出来るほどにそびえ立つ、広い背中!!

深い渓谷を思わせる腹筋の割れ目!!

太ももは大地を締め上げる世界樹の根の様だ!


この世の筋肉!

それを一点に集約した様な猛き姿!

沸騰した血液に!筋肉が喜び勇む!


これぞ!シドウの者の証【益荒雄(マスラオ)】の姿!!


まだキコルの炎がくすぶるオグナの体から

キコルに炎が燃え移る


ギャーーーーーーーーーと、強烈な悲鳴

炎がキコルの体を焼いていく

自らオグナに放った炎が、腕を伝わり首から燃え移ったのだ

すぐさま消し炭となっていく、キコル。


「キコル様ー!」

ざわめく、どよめくキコルの部下達

「かっ!かかれー!!!」


40人の敵兵が一斉にオグナに襲いかかる!


瞬間!


バチャン!!!


と、音と共に

甲冑を身に着けた大の大人達が紙切れの様に宙を舞った

甲冑ごと敵兵が燃えていく


へしゃげた甲冑には、

燃えるキコルの遺体が食い込んでいる


オグナがぐわんと、木の枝を軽く振るように

キコルを横に払ったのだ


「化け物めー!!」

「距離をとれーー!!」


残りの敵兵が後ろに下がる


と、その秒瞬!

「えっ!!!!!!」

と敵兵が驚いた


向かってくるのは、黒い塊

投げ付けられるキコルの遺体!


ぶつかり、ミンチの様に飛び散った兵士

彼が最後に見た光景は、哀れな上司の焦げた顔であった



「慌てるな!たかが蛮族だ!魔法で一気に畳み掛けろ!!」

数人の兵士が腕を前方に構え、一斉に魔法陣を展開させる

「放て!【魔力(マジック)(アロー)】」


バババババと、光りの弾幕がオグナを襲う

大気は震え、強烈な閃光と、けたたましい爆発音が辺りを包む


しかし!しかし!


まるで何事も無いようにオグナが姿を現して、筋肉の壁が敵兵に向かって行く


「嘘だーーーーーーー!!!!!!!」


戦意喪失、幾人かは、ぺたりと腰を抜かし

「逃げろー!!」と、手足をバタつかせる!

さぁ今から逃げようと、後ろを振り返ったその瞬間!


オグナが敵兵の中を走り抜けた。


そう!単純にただ走り抜けた!


走り抜ける、ただそれだけであったが

全速力の戦車の、その車体がほんの少し擦っただけで、人や建物が粉微塵になる様に

触れた敵兵達は辺りに吹き飛び無残な最後を迎えた。



あまりの出来事に声も出ない

少女と神官



その目の前に、現れた救世主


朝日に照らされ、そびえ立つ筋肉の巨塔


炎に焼かれ、服はすでに焼け落ちて


一糸まとわぬ、その雄々しい姿


後にイスリールの王女

エレナ・リズ・イスリールはこう語る


「あの姿は、セクハラだった」と





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