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その3


夜が明ける頃。


あれだけ巨大だったキングナイトベアの姿は消え

横たわるオグナ達の姿があった。


狩りの疲労、単純な食べ過ぎ

魔力・魔素の過剰摂取に加え

初めての経験した益荒男(マスラオ)への身体膨張

その事が原因で、激しい筋肉痛に似た痛みが、

全身を駆け抜ける


今は、起き上がる事も出来ない

しかし

無事、成人の儀式を終えた喜びで気持ちは満ちていた。


(変わったなぁ俺も……)


オグナはしみじみ噛み締める。





〜80年前オグナが生まれた日〜



母の温かな胸の中

お腹いっぱいに乳を飲む


だんだんとハッキリしてきた視界


エウロンの顔を大きな影が覗き込む

「どうだ?母の乳はうまいか?」


父の声にエウロンが見上げた、その瞬間!


ブゥーーーーーー!!!!っと口から母乳が飛び出した!


(熊だ!!!!!!!!なぜここに熊が!襲われる!

俺は赤ん坊!抵抗出来ずに喰い殺される!

畜生ーーーー!!!!転生したばかりなのに!

何か!何か策は?考えろ!考えるんだ!俺!)


エウロンは、ハッと我に帰る


(父親はどうなった!背後から一飲みにされたか?

クソっ!どうなってるんだ?)


「はっはっはっは!!いいゲップをするじゃねぇか!

それでこそ俺の子だ!」


緊張を破る豪快な笑いが聞こえる


(ん?)


「もうゲップじゃありません!オキナ様のお顔が

怖いものだから驚いたんですよ!ほーらもう大丈夫ですよ。あなたのお父様ですよー」


(ん?ん?)


母乳を浴びて真っ白の熊が、ぐいッと顔を拭う


(ん?ん?ん?)


「いいねぇ!オレの顔に乳をかけるとは、

度胸があっていいじゃねぇか!ガハッハッハッハ!!」


乳を拭った熊の顔、それは人の形をしてる


(ん?ん?ん?ん?)


大声で笑う熊がエウロンに手を伸ばす、


エウロンは体をぐっと硬くする


「デカくなれ、オグナ!誰よもデカくな」


エウロンの警戒心とは裏腹に、熊は優しく頭を撫でる


(……まさか)


赤子の顔が引きつっていく


(……まさか!!)


エウロンは母の顔に目を向ける


麻の衣に、毛皮のベスト。

膨らんだ風船のような恰幅の良い身体つき

その首は恐ろしく太い、ふっくらと見えるが

それは脂肪では無い、この皮膚の下

皮をめくれば、筋肉の大群衆が顔を覗かせるであろう。

髪は黒く、頭の上で2つの輪を作る様にゆわれている。


(…間違いない…この姿は…)


もう一度、父親を見返す


四肢の生えた2メートルほどの巨大化な壁

体の至る所には、戦闘で出来たであろう大きな古傷

これでもかと発達した筋肉!

体の何処を見ても筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!

視界全てが筋肉で埋め尽くされる!


(バーサーカーだーーーーー!!!!!!)


赤ん坊は絶句のする

まるで口から魂が抜け出たかの様に

ヘロヘロと、全身の力が抜ける


エウロンは知っている、この種族がどうゆう存在かを

そして自分が、バーサーカーに転生したのだと

いや、してしまったのだと絶望した。


(ぁああ…おわった。)


エウロンの中で何かが音を立て崩れていく

過去栄光、自らに言いよる女性達、

前世よりも強く気高く美しく、

周りからチヤホヤされる未来の展望…

その全てが消失していく…


エウロンは泣いた、泣いて泣いて泣き崩れて眠り。

目が覚めても、また泣いた。

周りには、元気に泣く赤ん坊に映るだろう。



まだまだ涙は溢れてくる

(あいつら…許さない…何が…「全てを受け入れた」だ…)


が、同時にだんだんと怒りが湧いてくる


(バーサーカーだぞ…蛮族だぞ…魔法など使えない…

醜く汚い…原始人に…この俺が…世界を救った…この俺が…あいつら…わざと…)


エウロンの頭に浮かぶのは、ニタニタと笑う神達の顔。


(…クソったれ!あぁ美しく無い…まったく…美しく…ない…)


エウロンはバーサーカーが苦手だった。

もとい、エウロンの美意識にそぐわなかった。


バーサーカーのイメージは、

ズバリ3K(汚い、臭い、気持ち悪い)

これは、エウロンのみではなく、ほぼ人類共通のイメージであろう。


力以外には何の取り柄も無い戦闘狂、

過去エウロンも、街に住むバーサーカーを稀に見かけたが

そのほとんどが、力に目を付け買われて来た

用心棒や奴隷達だった。


その昔、


人間同士の戦争がまだ絶えない頃

それぞれの国に雇われたバーサーカー達は、

戦場で出会えば、同族や家族、親友とも喜んで殺し合ったと言われている。


亜人種の中でも、生息数こそ少ないが

山や森、街道に現れる盗賊や海賊などには、

バーサーカーが多く、蛮族と忌み嫌われていた。


戦闘になれば、

その巨体と筋力に任せて、猪突猛進に向かってくる

力は凄いが、その強力な打撃にのみ気を付けていれば、

遠距離からの弓や魔法で簡単に圧倒出来る。


魔法を捨て、身体能力のみを武器とした種族

それがバーサーカー


そんな認識。


なお、コレは個人的な好みにもよるのだが


ー あのギチギチの筋肉が生理的にムリ!ー

※極々一部の人間からは人気がある模様。


そう声を上げる者が多かった。


エウロンも同様で


(あぁ…俺が…蛮族…きっと…

脳みそまで筋肉になって…醜く老いていくんだ…)


やっぱり涙が流れてきた。


(生きてるだけで…セクハラだ…そうだ…死の…)


我が子の異変に気付いたのは母親:ウタだった。


ーガツン!!と大きな音が鳴る

疲れで寝ていたウタは響く打音に飛び起きた!


その隣!

いるはずの我が子オグナの姿が無い。


焦るウタの耳に、もう一度とガツンという衝突音が聞こえた。


音がする方向に走るウタ、あまりの事態に思わず叫ぶ


「オキナ様!オキナ様ー!」


妻の叫びにオキナが慌てて駆けつける!!


「何があった!!!!!!!!」

「オ、オグナが、オグナが…」


わなわなと妻が見つめる先、オキナは大きな唾を飲み込み

ゆっくりと首を回す、妻の顔は焦りで満ちていた。

最悪の考えばかりがオキナの頭の中を埋めていく。

無事であってくれ!我が子への祈りが脳内でこだまする

目に映ったのは、産まれたばかりの我が子の信じ難い姿であった。


(クソ!クソ!クソ!クソ!)


家の外、裏手の庭で生後間も無い赤ん坊が自身よりひとまわり程大きな岩に掴まり立ちをして、一心不乱に岩に頭をぶつけている。

ガツン、ガツン!!

と大きな音がする度に岩に亀裂が走って行き、ついには岩さえ壊してしまう。

支えにしていた岩が砕けた赤ん坊は、そのまま、前のめりに転びそうになりながらも足を踏ん張り、眼光鋭く辺りを見ては、隣にあった更に大きな岩を見つけて、やはり頭を打ち付けた


「なんと…」それ以外の言葉が出ないオキナ


岩はどんどんひび割れていく

エウロンは、バーサーカーの体の作りを舐めていた。

岩の方が赤ん坊の頭より柔らかかった…


(なんじゃこの体ー!!!)


出血はおろか、傷さえ付かない屈強な肉体

もしかしたら、エウロンが肉体が少し特殊なのかもしれない


「オグナ…お前…」


父親の声に、ようやく我に返ったエウロンは

両親の強烈な視線に気付く

流石に不自然な行動をしていたんだろう

産後間もない赤ん坊が出来る行為ではない、

どうなる?どうする?とエウロンは焦った。


「すげぇーーじゃねぇか!!!流石はオレの子だ!」

駆け寄って来たオキナに担ぎ上げられる。


(褒めらたー!!気になるコトねぇのかよ!)


「見たかウタ!もう戦いの稽古をしてやがる」

「はい、しかと」


エウロンを抱えたオキナは、満足気な顔でウタに近いて

愛妻の瞳を見つめた。


「ウタ…よく俺の子を産んでくれた」

「…オキナ様」

「ありがとうよ。」

オキナはエウロンを片手に抱き直すと

空いた腕でヒョイと妻を抱え上げ

「ウタのお前の子は、立派なシドウの戦士だ。」

「はい!」

オキナに寄りかかり、ウタは頬を赤らめて嬉しそうに

ポロポロポロポロ涙を流した。


「元気に産まれて来てくれてありがとう。オグナ…ありがとう」

ウタの丸い頬から涙がこぼれて、赤ん坊のまだほんの小さな手の平に落ちる。


(まぁ…もう少しだけならバーサーカーでもいいか…)


エウロンは思う。

蛮族などと呼ばれているが、子供誕生を喜ぶ涙は美しいと


次の日からエウロンは死のうとする事をやめた


しかし


「よし!オグナ!稽古だ稽古だ!」

父親が岩が持ってくるようになった


(やっぱり、嫌だーーー!!)


……………

………


バーサーカーに転生し

バーサーカーとして育ったこの80年

その事に誇りさえ覚える

今の自分と、前世の自分とのギャップに

笑みがこぼれた。



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