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その2


柔らかで優しい母の温もりを感じる

周りで喜ぶ大人達の声も聞こえる


まだ薄っすらとしか、周りは見えないが

ふっ とエウロンの体が浮き上がる

背中に大きな大きな手の平の温もりを感じる


そのささえ上げた大きな人の手が

父の腕だと、すぐにわかった


「オキナ様、()()でございます」

母の声は、賛美歌のように美しい。

「この子に、名をつけてやってください」


「オグナ!そなたは、我がオキナの子、名はオグナだ」



〜それから80年余り〜



すくすくと育ったオグナは、成人の儀を迎えていた。


シドウの者は、

人間族の中でも取り分け、長寿であり

平均的な人間の年齢に換算するならば、18〜20歳程であろう。


前世のエウロンの人生より、すでに四倍は生きている


シドウの長老:オサの進行のもと、

成人の儀はおごそかに進む


10メートルほどの御神体

熊をかたどった石の像にオサは祈祷を捧げる

シドウの者達、その先祖は、

それはそれは巨大な青い毛並みの熊であったと言い伝えられている。


成人の儀式の為、オグナは伝統にのっとり

青く染め抜かれた上下の衣を身に纏い

肩の口まである伸びた髪は、1つに束ねた丸い髷に結われている


神妙な面持ちであぐらをかいて

座るオグナら4人の新成人の前に

板に乗せられた熊型の魔物の遺体が運ばれてくる


板は数人の大人衆に担がれ、ゆっくり丁寧に

その魔物を狩った者達、新成人の前へと一体ずつ並べられていく


仕留めた個体が大きいければ大きいほど、

参列者からの歓声もワーワーと大きくなる。


そしてこの日、1番の歓声を集めたのがオグナであった。


村の奥、森の木々が揺れる

木の上で休む鳥が、バー!と一斉に飛び立つと

参列者の後方、人の波を割るように巨大な魔物が運ばれてくる。


ズシン!ズシン!と地響きを立てながら

魔物は、こっちにやってくる


他の、どの個体よりも大きい姿

御神体に迫るほどの巨躯、動く小山にも見えるそれを


ズシン!と一歩、また一歩


よく見ると、支えているのは、たった1人の運び手だ。


運び手の頭には、玉の大汗と細いねじり鉢巻き

儀礼用の正装の上着は、肩まで捲り上げている

紅潮した顔に、太い血管が浮かぶ。

丸太の様にこれでもかと膨らんだ手と脚の筋肉は、

今にも、はち切れんばかりだ。


運び手が歩くたびに地面が揺る


ワーワー!キャーキャー!上がる歓声、賛美の言葉

揺れる地面の、拍子に合わせて

歓声は、より一層に盛り上がる


運び手の表情ときたら、この上なく誇らしげだ


ドンッ!と置かれた大きな魔物!


オグナは深々と頭を下げる

下を向いたオグナの顔はどこか小ッ恥ずかしい様な、

むず痒い様な表情だ。


((この!派手好き親父(オヤジ)が…))


我が子のオグナの晴れの舞台!

この一斉一代の大舞台!

父オキナは、彼なりのやり方で盛大に盛り上げる。


これより新成人達は

自らの手で狩った魔物の肉を、骨を、内臓を、

1人で食べ切る


これには、

先祖の魂とその力の全てを身に宿す意味がある


しかし、この食事こそが大苦行なのだ


成人の儀式では、狩り途中で命を落とす若者も少なくない

だが最も危険なのが、ここからであった


シドウの周りに生息する熊型の魔物:キングナイトベア

村民から「山喰らい」

と呼ばれる魔物は


肉質そのモノが非常に硬く、

常人からすれば、鉄の塊や岩石を食べ

消化しするようなものであり

また

非常に高い魔力・魔素を含んでいる為、

過剰な摂取を一度に行えば人間の身体は、

魔素への拒否反応を起こし死にいたる。


しかし、シドウの成人として認められるためには

この試練を乗り越えなければならない


夕刻から始まった儀式も、今や深夜となっている。


オグナ達は黙々と肉を喰らい続けた。


彼等の身体には狩りで出来た生傷が痛々しく残っている


そんな弱った身体に

とにかく肉を詰め込んでいく

自らの手を喰い千切りそうな勢いで

バリバリ、ボリボリと口にいっぱい頬張る


すでに胸や顔の血管には、

許容量を超えた魔素の影響で青紫の筋が浮き立っている


体の毒へと変わった肉。

しかし、口に運ぶその手は、一向に衰えない。


その時


オグナ達の体が

ドクンっ!ドクンっ!と

膨張を始める

油汗が滴り、膨れ上がる筋肉、結った髪は弾けて逆立ち、

身体自体が、ひと回りも、ふた回りも大きくなる。


ビリビリと肉体が服を押し破り、青い衣が弾け飛ぶ


隆起した筋肉、盛り上がる力こぶ!!!

丘を思わせる発達した胸板!!

大砲の砲身よりも太い首筋!!

ロッククラムが出来るほどにそびえ立つ、広い背中!!

深い渓谷を思わせる腹筋の割れ目!!

太ももは大地を締め上げる世界樹の根の様だ!


この世の筋肉!

それを一点に集約した様な猛き姿!

沸騰した血液に!筋肉が喜び勇む!


これぞ!シドウの者の証【益荒雄(マスラオ)】の姿!!


______________________________________________

人間族:亜人種[バーサーカー]

数多くの亜人種の中でも巨人やオーク、オーガなど

と近いとされる

戦闘時や身の危険を感じた時など、

身体を大きく膨張させる、特に筋肉量を変化させるのが特徴。


生涯に渡り筋肉が、すくすくと成長し。

元々多い筋肉量に加え、筋力が異常発達するため

それを支える骨格は金属に近い。


角や牙や尻尾は無く

通常時の見た目は、一般的な人間の体躯とさほど変わり無い

※それでも屈強な体付きの為、判断出来る事が多い


しかし

身体膨張させた時には、体高も増え2.2〜2.6メートルほどとなる。

とりわけ

険しい岩山に囲まれた南東の島:「カイナ島」

そこに住む少数部族には

部族の者が【益荒雄(マスラオ)】と呼ぶ

特別な身体変化がもう一つあり

体高は3.5〜4.5メートルの巨大化を見せる。


通称

【蛮族、熊族、脳筋、筋肉ダルマ】※侮蔑の意味を含める。

____________________________________________


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