筋肉質の魔法使い・その1
趣味ですので、少しずつ書きます。
人里から遠く遠く離れた、孤島「カイナ島」
その森の中の小さな集落「シドウ」
その村で元気な雄が産声を上げる
その赤子は【オグナ】と名付けられた。
シドウの戦士 オキナの息子。
その瞳は転生者の特徴である、金色であった。
〜オグナが生まれる1400前〜
世界の中央、人間族の聖地【聖都:ヌアダ】
かつて、魔の力に魅了され、
世界を我が物にしようとした魔王、死の瞳:ベオーラの居城
人間族の英雄達によって、ベオーラが倒された後
その場所に人々は聖都:ヌアダを建国した。
魔王討伐の英雄
魔導師:エウロン・カーズ
人類最高の魔力を持ち、知恵の賢者、美の化身と呼ばれた男
シルクの様な薄い桃色の髪に、魔力を浴びた深い紫の瞳
神々を描いた絵画や彫刻から抜け出した様な優美な姿
そして彼の持つ【絶対的魅了】の能力
女性でさえ憧れを覚えるほどの美しさは、
かの女神、美の神:タンレさえ嫉妬すると称えられた。
ー 許せないッ ー
実際にエウロンの美しさは、タンレを嫉妬に狂わせた。
ある日、1つの報が瞬く間に広がった。
英雄エウロンの訃報
魔王さえ打ち倒した魔術師エウロン
誰にも予想できない余りにも早過ぎる死
彼の死に、聖都ヌアダは悲しみで溢れた。
…………
……
…
「えっとー、そのー、ごめん!」
悪びれる様子も無い少女がペコっと頭をさげる
「…え」
「そのーーー…殺っちゃった!ごめん!」
ペロリと出した舌と、キラっと星が飛び出すウィンク!
「…お?」
「だってぇー私より、綺麗なんだもん!!」
頬を膨らませた少女こそ、美の神タンレ
「だから…………ヤッちゃった!」
再び星が飛び出る
「ヤッちゃったじゃねーーーーーよ!」
エウロンの怒号が空気を震わせる
「ヤッちゃったじゃねーーーーーよ!!!!!」
涙目の少女、美の神タンレに、エウロンの怒りは収まらない
「だって、だってー、もうヤッちゃったもん」
「歯ぁ食いしばれ!消し炭も残さず!消滅させてやるよーー!!」
「べー!!神様だから効かないもんねー!」
ブチっっと血管が切れる音がした
「ほほー良い度胸じゃねぇか!クソガキが!
本当に効かねぇか!!試してやるよー!!!」
太陽ほどの熱を放つ稲妻を纏った黒い火球が出現する
エウロンが力を込めてた腕を下ろす!
その時!!
「娘が申し訳ございませんでしたー!!!!」
雪崩のような轟音と共に
割って入ったのは、全能の神:ゼノン
神々の王にして、万物の父、
まさかゼノンほどの存在が、人間に頭をさげるとは…
「だってパパーこいつがねぇ、こいつがね…」
「うんうん良いの良いの、タンレちゃん!
タンレちゃんは悪くないよ、ここはパパに任せなさい」
「娘が申し訳ございませんでしたー!!!!!!!」
ゼノンの陰から、あっかんべーとタンレが舌をだす
(こいつ……)
完全な親バカ、娘を可愛い可愛いと育てて来たのであろう
全能の神のイメージとは、ほど遠いゼノンの姿
「ほら、タンレちゃん
ごめんなさいは?ごめんなさい!」
プイッとタンレはそっぽを向く
「娘もこう言ってますんで…」
「今、何にも言ってねぇーだろ!!!!」
(…こいつら…ダメだ)
エウロンの怒りは、諦めへと変わった。
ふっ と火球が消える
「で!どうしてくれんの?」
何が?と、お互いに神々が顔を見合わせる。
「どう責任とんの?」
知恵の賢者と謳われた男とは到底思えない悪辣な態度
エウロンは鋭い眼光で神々を睨め付ける。
現世に置いて、エウロンの寿命はあと60年以上はあった。
本来であれば、死者をも復活させる魔法があるが
エウロンは蘇生する事が出来ない
なぜならば……
「お前のせいでな!俺の体は、焼かれたちまって
存在しねぇーんだよ!」
事もあろうに、エウロンの死因は病死
それも、身体の肉がただれ落ち
ひどい悪臭の膿が全身を覆い、血液は腐って濁り
絶えぬ苦痛の中で醜く死へと到る疫病であった。
他者への感染を防ぐ為エウロンの肉体は
すぐさま火葬にかけられた。
器の無い魂は、最高位の蘇生魔法であっても復活出来ない
「なんちゅー殺し方してくれてんだ!!!」
「わータンレちゃん!そんな事したの!めっ!
タンレちゃん!めっ!」
(あぁ…頭痛が痛いって、こう言う事か…)
たまらずエウロンは頭を抱える
「では良かろう、そなたを転生させ新たな人生を与える」
ハっ! とエウロンは頭を上げる
「何か望みはあるか?」
ようやくゼノンが神々の王に見えた
「では神よ…」
少し考えてからエウロンは真っ直ぐな目で神に願う
「老いる事の無い美しい肉体を!
今世で得た魔力をも超える無限の力を!
そして!2度と神々に邪魔される事の無い
素晴らしい人生を!」
ゼノンが指で宙に何やら光り輝く文字を書く
「良かろう、その願い、全て受け入れた」
瞬間、エウロンの身体が輝き始める
「じゃなクソガキ」
「べー!!ほんとは、お前なんか地獄行きなんだぞ!!」
「んなわけねぇーだろ!」
「いや…それは、本当だ…」
「え?」
「お前は、生前あまりにも多くの女性を泣かせた。
いや泣かせ過ぎた、魔王討伐も霞むほどに…」
「マジか…」
(思い当たる事があり過ぎてツラい)
「だからこそ、次の人生では、
罪が消え、天国に行けるよう特別な生涯にしてやろう
それが私からの細やかな詫びである、許せ人間…」
遠のく意識の中
ごそっと、タンレが妙な動きをしたように思ったが
微笑むゼノンの顔を見た時
ぽろぽろと大粒の涙目が溢れ
エウロンの魂は、柔らかな光となった
……………………
……………
……
…
次の目覚め、おぼろげな視界のな中
エウロンは再び現世に産声をあげる。
魂だけでは、実感する事の出来なかった、様々な情報。
呼吸すると感じる空気の味、心臓の鼓動、
肌に当たる風の感触、音と光、五感の刺激
《命》の実感に涙が止まらない
エウロンは理解する
赤ん坊の産声は歓喜の声と涙なのか…と