第4話 記憶とドレス
「ひさしぶりとおっしゃられましても」
キョトンとするディノ姫。
「わたし、あなたのこと知りません」
黒髪の少年は寝っ転がっていた体を起こして、ディノを見つめた。
「覚えてないのか」
「ん?」
少年は、ディノの腕を掴んだ手に力を込めた。
「いたいっ」
ディノが腕を引き離そうとした瞬間、ある風景が頭の中に浮かんできた。
黒い鎧をまとった男と、剣を交える自分。
それはパッと消えてしまったが、確かに残る記憶の様だった。
少年は愛らしいディノの顔をそっと撫でる。
「いいね、随分俺の好みに生まれ変わってくれたものだ。」
「生まれ変わって?さっきからあなた、なにをいってるの・・・?」
黒髪に少年のただならぬ様子にディノは少し怖くなっていた。
「ディノ姫様、ディノ姫様~!」
意を決して草むらに入ってきたアナイスが呼んでいる。
その声にディノが振り向くと少年は手を放し、アナイスがディノを見つけた時にはもういなくなっていた。
「・・・ということがありました」
ディノは正直にアナイスに、今あった出来事を話した。
「まあああああ~・・・・」
アナイスは今にも気絶しそうである。息も荒く地面に両手をついた。
「わっ、だいじょうぶ、アナイス?!」
思った以上の反応に心配するディノ。
アナイスはグリーンの瞳からボロボロと涙を流した。
「なんということが・・・、よくぞご無事で、姫様・・・!もし、姫様に何かあったら、王様やお妃さま方、そして7人の王子様たち・・・もちろんこのわたくしも、どうしてよいのか分かりません、この世の終わりです!
いえ、このことをお知りになっただけでも国中の警備を強化なさるでしょう・・・。
ああ姫様、どうか王様たちにはご内密にしてくださいませ。」
ディノもその方がいいような気がしたので、父や兄たちには言わないでおくことにした。
思い出しては涙ぐむアナイスを慰めつつ、サンドイッチの簡単なお昼ご飯を食べて、ディノは夜に行われるパーティーの準備に取り掛かった。
その頃にはアナイスは元気を取り戻していた。というか、パーティーのきらびやかさにもう興奮を隠しきれなかった。
「ささっ、姫様、ご覧ください!これが今晩お召しになるドレスです~!」
おおげさにドレスを登場させる。
「わあ・・・」
そのドレスはとても綺麗なピンク色で、上等なシルクのリボンと手の込んだレースで飾られていた。
「ね、ね、綺麗でしょう姫様!女の子なら誰だって憧れるドレスですわ・・・!王様がこの日のために、国で一番の仕立て屋に最高の材料で作らせたのですよ!」
アナイスはうっとりとドレスを眺める。
7歳のディノのお世話係をしているためにしっかりして見えるが、中身はまだ13歳の、夢見る女の子なのだった。
「うん、すごくきれいね!」
ディノははしゃぐアナイスに合わせてそう言ったが、内心ちっとも心が動かなかった。
(あれ?どうしてだろう私・・・。こんなに素敵なドレスを見ても、何にも思わない・・・。)
それは、ディノ姫の変化の始まりだった。