第七話 編入試験
編入試験が終わりました。
観閲ありがとうございます。
実技試験会場は円形の闘技場のようになっていて、周りを囲む席に審査官らしき教師が並んで座っている。
『あー、聞こえてますね。
はい、僕は魔法科の教師でジルアと申します。
これから皆さんには魔法科の編入試験を受けて頂きます。
ルールは簡単、三十秒の間其方に並んでいる的に魔法を当てます。その時、魔法の詠唱は三十秒に数えられますので、詠唱した状態でのスタートは記録になりません。
何回チャレンジしても良いですが一番最後にの記録が最終的に威力が数値化されて皆さんのポイントになります。
試験を全員が受けた終わった時に、威力のポイントが大きい順で五人が魔法科の合格者となります。
三十分ごとに僕がその時点での一位から五位の記録を読み上げます。
編入生の枠は二枠なので一科目で合格を採っていれば、編入出来る可能性があります。
皆さん頑張ってくださいね。』
拡声器の効果のある魔道具を使っているのだろう。何だか気の抜けた声と共に試験の内容がアナウンスされる。
確かに、会場には的と思わしき人と同じくらいの大きさの灰色の立方体が有った。
それにしても、魔法科は五人しか合格を出さないらしい。最初の科目からなかなかシビアな数字である。
三十秒間か、普通に魔法を詠唱していたら一発の魔法で終わってしまう。むしろ、大威力の魔法など詠唱しきれない可能性もある。
だが、私は水属性と光属性の魔法なら殆どの物を無詠唱で発動させる事が出来、連続発動も苦ではない。
これは些か私に有利過ぎではないだろうか? この試験、無詠唱で魔法が使えない時点で詰んでいるのだから。
勿論、油断はいけない。無詠唱で魔法が仕える人物が私を入れて五人しかいないとは限らない。
だから、この有り余る魔力に任せて的を破壊するつもりでぶっ放そうじゃないか。
『1935番 ラヴィウス・ユトア・シロワネア』
「はい」
最初から本気でいこう。
『準備は良いですね。それではいきますよ。』
『5』
緩く編み込んでいた髪をほどき、目を閉じて魔力を集めるために集中する。
『4』
じわじわと前進が暖かくなっていき、指先まで鋭い感覚が行き届く。
『3』
母さん譲りの腰まである銀の髪が魔力によって毛先から根元まで黒く染まり、ふわりと浮くのがわかる。
『2』
魔力が瞳にまで届き紅く光る銀の瞳が黒くなっているのがわかった。
『1』
ゆっくりと目を開ける。全てがスローモーションだ。
『スタートです』
魔力を高速で練り上げ、水を生み出す。
生み出された水は凍りつきながら自ら竜を形作り、的に全力で攻撃をあたえはじめる。
氷竜が消える前に光属性で光弾を生み出し的を打ち抜いた。
竜が消えたと同時に的に巨大な氷槍と細い光槍を無数に突き立てた。
『ストップー、終了です』
どうやらもう終了したようだ。もう少しやりたいことがあったのになぁなんて事を考えながら集中を解く。
髪と瞳が元の色へ戻っていった。
『今回のポイントは58624で、現在一位です。因みに先程までの一位は6230ポイント、二位は5892ポイントです』
「「「「桁が違ぇ(違うわ)!!!」」」」
「今の何だよ」
「む、無詠唱だと」
「瞳まで魔力に染めるなんて」
何だか騒がしいが、私は下ろしてしまった髪を見て途方に暮れていた。
せっかく長年勤めてくれている使用人が編み込んでくれたというのに、随分と勿体ない事をした。
少し迷ってから背中で一括りにした。
「あら、髪を編み込むの諦めたわね」
「不器用だな」
「もうちょっと、なんとかならないの? 」
別に良いんですよ、これで。
さぁ、次は筆記試験だ。さっきの会場まで戻ろうか。
『後半の筆記試験を行います。
筆記試験では成績一位から十位が合格者となります。
不正は魔法で察知されるので、一発で退場です。
気を付けてくださいね』
何だか軽い説明で筆記試験が始まった。
問題は雑学から専門知識まで様々な分野から出題されていた。
これは本当に父さんに教えて貰っていて良かったなぁ。
やっぱり、卒業生だからわかる物も有るのだろうか。
何とか十位以内に入れただろうか? 不安は不安だが、もう試験は終わったのだ。
あとは案内を待つしか無い。
『はい、皆さんお疲れ様です。
これで今日の試験は終了です。特別試験も終了しているので、今日はお帰り頂いて大丈夫です。
結果発表は明日の朝十時からです。
遠くからお越しの方は学園内の宿を使われるとよろしいでしょう』
え、宿? 結果発表って明日だったんだ。
知らなかったよ。
どうしよう、お金、持ってきてない。
行きは父さんの転位魔法で一瞬だったから忘れてた。
え、えっと、そうだ、困ったときのクロノ・シレイル・グレステラ。
彼に連絡してみよう。
私は早足で編入試験の受付に向かった。
「済みません。
私、結果発表が明日だと思って無くてお金持ってきてないんです。
学園に私の遠縁の幼なじみが居るのですが、連絡取れたりしないでしょうか? 」
受付の女性は柔らかな笑みを浮かべたままだったが、少し戸惑っているのが見て取れた。
「済みません、私では判断しかねますので教師の方に連絡してみます。
すこし、お待ち下さい。因みに幼なじみの方のお名前を伺っても宜しいでしょうか? 」
彼のネームバリューに期待しよう。
幼なじみ扱いで良いと言っていたし、学園でも遠縁が来るって吹聴しているらしいし。
「シルフィ、クロステア・シルフィア・グレステラ嬢です」
周囲から一気に声が聞こえなくなる。
王太子殿下の婚約者の幼なじみ、これには流石に受付の彼女も驚いたようで、口を開けて呆然としていた。
だが、すぐに正気に戻ったのか、恐る恐るといった様子で話し掛けてくる。
「し、失礼ですが、お名前を伺っても宜しいでしょうか? 」
まぁ、そうなるだろう。だが、嘘はついていない。
「あぁ、私はラヴィウス・ユトア・シロワネアと申します。
えっと、大使の家系のシロワネア家と言えば通じますかね? 」
彼女は真面目な顔になるとぼそぼそと呟いた。
「シロワネア侯爵家、隣国への大使の家系、グレステラ公爵家、現当主の叔母が嫁いでいる。つまり、彼はクロステア公爵令嬢のはとこ。
家間の関係は良好、説明はつくかな」
流石、王立学園の在学生だ。彼女もなかなかの才女であるらしい。
これで、彼に継いで貰えるだろうか。
暫くすると、彼と連絡が取れたのか、彼と一緒に入学したという使用人の一人が来ることになった。
「もう、ラヴィウス様、またですか? 何時も何時も何の準備もせずに家を飛び出すんですから。
元々、体が弱いのに、お嬢様がいなかったらどうされる予定だったんですか?
まさか、野宿とか言いませんよね。流石に怒りますよ。健康には気を遣って頂かないと。
また倒れたりされたら嫌なんです。私もお嬢様も」
彼の所から来たと言う使用人の彼女は、ショートカットの赤毛に明るい緑の瞳をし、溌剌とした雰囲気が特徴的だった。
これが初対面な筈なのだが、昔からの知り合いのように振る舞う彼女、しきりに目を見つめてくる。
これは彼女に合わせろという事だろう。彼の使用人と知り合いという所をを見せる事で私がクロステア公爵令嬢の幼なじみであるという事に信憑性を持たせようとしているのか。
「あぁ、済まない。何時も色々と世話になっている。
今日は如何したら良いだろうか? 」
口調を変えて、親しさを演出してみる。何時も敬語を使っているので、余計に差がわかりやすいだろう。
「はい、ここに宿代を持ってきました。心配なさらなくても、後日請求させて頂きますから。
では、また今度。合格祝いをさせて頂きますね」
彼女は去り際に悪戯っぽい笑顔で、これから宜しくお願いします。
と囁いて主人の下へ戻っていった。
ーーーーーーー次の日ーーー
合格者
351番 レアン・ディディアン
1935番 ラヴィウス・ユトア・シロワネア
ご・う・か・く!!!
見事にたったの二枠を勝ち取った!
編入試験に合格したこの日、私は感動に打ち震えたのです。