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悪役令嬢、断罪への手引き  作者: 翠雨
第一章 王立学園生活の始まり
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第二話 降臨、グレステラ公爵令嬢

長めになりました。

観閲ありがとうございます!


投稿二日目ということで、今日だけ二話投稿させて頂きます

父から驚きの知らせを聴いてから、早一ヶ月。


なんとか、自費で留学している兄と姉から借金したり、コネを使ったり、領民の協力を得ながらやっと、服や、使用人を揃えることが出来た。


そして、今日。

ついにクロステア・シレフィア・グレステラ公爵令嬢がやってくる日がきたのだった。


屋敷も隅から隅まで磨かれ、見慣れない使用人が大量に居る。

いつも使っていない部屋までも、豪奢に飾られていた。

厨房近くでは料理の仕込みをしているのか、良い匂いが漂い、厩ではしなやかな四肢をもった馬たちが、誇らしげに立っていた。


そんな中、私は

退屈だ。出掛けたい。外の山を駆け回りたい。

なんてことを考えていた。


無理もないだろう。

私は、朝から何時間も掛けて、侍女に体を洗われ、香油をすりこまれ、ドレスを着せられ、髪を編まれ、薄く化粧までされた。

その間、動くことは許されず、鬱憤がたまっていたのだ。


まぁ、これは母さんも父さんも同じはずなので、我慢しなければ。


全てのしたくを終えてリビングに入ると、

母さんは瞳の色にそっくりの生地に銀糸で刺繍のしてあるベルラインのドレスを、

父さんは薄い灰色の母さんと揃えた銀糸の刺繍のジャケットを着ていた。


「ヴィオレット!なんて君は美しいんだ!何時も美しいが、今日は神々しさまで感じるよ!」


確かに、着飾った母はとても美しかったが、父の台詞はいちいち暑苦しい。


実際、ずっと褒められていた母はうんざりとしているようで、父を見る目が虫けらでも見るような目になっている。


そんな二人に近づいていくと、私の姿を見た父が首をかしげた。


「何故だろう?顔立ちはヴィオレットそっくりで、スレンダーで背も高い。かなりの美人な筈なんだけどなぁ。

なんで、そんなにドレスが似合わないんだい?

まるで、凛々しい少年が女装してるみたいだよ。」


酷い言い様である。

何が悲しくて実の父から女装しているようだ、つまり、女に見えないと言われなければならないのだろう。

しかも、悪気が無い分、余計に虚しくなる。


約束の時間が近くなると、父さんも外行きの顔をして、何時もの喧しさもなりを潜めている。


そして遂に、約束の時刻が来てしまった。

大勢の使用人がクロステア・シルフィア・グレステラ公爵令嬢が到着したことを告げ、一列に列んだ。

私達もその一番奥で待機する。


暫くし、家にクロステア嬢が入ってきた。


雪のように白く透き通る肌、ベリーの果汁を塗ったかのように血色の良い唇、母よりも薄い色合いの切れ長な紫の瞳。

そして、魔力が特別多い証拠である、毛先に向かって、藤色に染まる白金の髪。

背は女性の平均より高く、私と殆ど変わらない。

手足は長く、全体的に引き締まったスレンダーな体型だ。

すこし、きつめな感じもするが、お伽話に出てくる、美しいお姫様を実物にしたらこうなるだろうという容姿だ。

そして、その美しい肢体に紙の色と合わせた白金のシンプルなドレスに菱形の紅玉が特徴的な片耳だけのイヤーカフをつけた装いだった。


正直、公爵令嬢を見くびっていた。絶世の美貌って言ってもたかが知れてるだろうって、思ってた。

これは、もの凄い造形美だ。

神が造ったとしか思えない。


クロステア嬢が、その美しい唇を開いた。


「初めまして、レイデル辺境伯家当主、ノア・ドゥーン・レイデル伯。

その奥方、ヴィオレット・テトニア・レイデル様。

そして、御息女のラヴ・ユトリア・レイデル嬢」


鈴の鳴るような声だった。

女性にしては低めの声であったが、その澄んだ響きが彼女の声を鈴のように感じさせた。

楚々とした所作もまた、彼女の魅力を引き出していた。


父は彼女の挨拶に少し驚いたようだった。


「ふーん、流石は公爵令嬢って所かな。ラヴは王立学園にも通ってないし社交界デビューもしていない。

殆ど、存在を知られてないからね。家の事を調べては来たってことか」


ボソッと呟き、少しだけ口の端を引き上げた。


珍しいこともあるもんだ、外行きの父さんは滅多に無表情を崩さないのに


そこまで私は目立たないだろうか、確かに兄と姉に比べたら活動範囲は狭いが、魔法の腕前はかなりあると自負している。


そんなことを考えている家に父と母の挨拶が終わったようで、クロステア嬢が屋敷に案内される流れになった。


一瞬、私は挨拶をしなくていいのか?なんてことを思ったが、求められてないのだから良いのだろう。

母が当主以外は挨拶を求められる、又は紹介された場合に挨拶をするのが一般的だと言っていた覚えもあるし。


彼女を食堂に案内して、遅めの昼食を摂る。

久しぶりの貴族らしい豪華な食事だ。テーブルマナーなど殆ど忘れてしまった気がしないでもないが、優雅に見えるようゆっくりと、だが黙々と食べ続ける。


父も母も彼女と七日間の予定を話し合い、社交辞令なんかを言い合うと、食べるのに集中し始めた。


彼女は、明日は護衛を連れて、魔物の討伐をしに行くらしい。

視察の他にも、魔物を相手にすることで魔法と剣術の鍛錬をするという目的が有るんだとか。


クロステア嬢は旅の疲れが残っているということで、夕食を辞退すると、さっさと客室にこもった。


夕食も食事に集中したいという、思いは通じたようで、特に両親と会話はなかった。


その後もこれといった事は無く、いつも通りに入浴して……いや、変わっていたことが一つあった。なんと、夜着が高級な絹製の物になっていたのだ。

誰に見せるわけでもないのに、もったいないな、なんてことを思いながら寝ようと寝ようとしたときだった。


自室の扉が控えめにノックされ、侍女の一人が入ってくる。


「ラヴ様、クロステア・シルフィア・グレステラ様がお呼びです。

失礼を承知で、安全のためクロステア嬢の客室で話したいそうです」


うん? 私、何かやらかしただろうか? 何故、呼び出しをくらっているのだろう?

気が乗らないけど行かないと駄目なんだよね。


「わかりました。今向かいますと言っておいてください。あぁ、あと夜着で失礼しますと」


見苦しく無い程度に身支度を整え、客室に向かう。


あ、夜着も見せる事があるのか


どうでも良いことに気付きながら客室の扉をノックした。


「はい」

相変わらず鈴の鳴るような声だった。


私は扉を開き、椅子に座っている彼女に会釈した。

「こんな格好で失礼致します。どのような用件でしょうか? 」


彼女はお座りになってと、優雅な所作で自分の向かいの椅子を指すと微笑んだ。


彼女の穏やかな様子からして、お叱りの呼び出しじゃ無いらしい。

ひとまず安心だ。


私は、指された椅子に座り、侍女が運んできた紅茶に口をつけた。


「本当は、私がラヴ様のお部屋に伺うべきなのでしょうが、防犯の都合上、こちらに呼び立てることになってしまい申し訳ないですわ。

時間帯も考える必要が有ったと反省しております。

私、二つほどラヴ様にお伺いしたいことがあったんですの。

少しお時間よろしくて? 」


いきなりの名前呼びに驚いたが、そういえば食事中に名前で呼んだ下さいと言った覚えがある。


「あぁ、はい。

特に問題はありませんね。私で答えられることなら、幾らでもどうぞ」


幾らでもは言い過ぎだっただろうか。でも、相手は大貴族、腰が低いに越したことはない。


「安心いたしました。私、レイデル辺境伯領に来たことはあるのですが、ここ数年で随分ご様子が変わられたようだったので、少し不安だったのです。

ラヴ様が相談に乗ってくださるなんて、とても心強いですわ」


彼女は恥ずかしげに俯き、頬を染めた。

こうしていると、さっきまでの凜とした公爵令嬢が嘘のように年相応の少女に見える。


こういう所が、庇護欲をそそるからクロステア嬢は、王太子殿下から愛されるのだろうなぁ


こんな辺境でまで、噂が広まるほど彼女と王太子殿下は仲睦まじいそうだ。

この姿を見ていると仲睦まじさにも合点がいくという物である。

この姿も、彼女の一部であるのだろう。

大貴族の子息や令嬢は計算高い者ばかりだと言うが、今の彼女の

全てが演技だとは思えなかった。


「早速ですが、お伺いさせて頂きますわね。

まず、周りの森のことですの。当主のノア・ドゥーン様からラヴ様がその森で鍛錬していらっしゃるという話を聞いたので、魔物の接近に気付きやすい場所など、詳しいのではないかと思いまして、知っていることがお有りでしたら、教えてくださると有難いですわ」


確かに、身体強化魔法の訓練や魔物の討伐で近場をかけ回っている。

その辺の地形に詳しいのは事実だった。


「確かに詳しくないと言えば嘘になりますね。

例えば、草原が広がっていれば見晴らしは良く、魔物の接近に気付きやすいです。

ですが、それは魔物にも同じ事面と向かって戦って勝てる自信があるのならそれでいいでしょう。護衛の力を借りるのも良いかもしれません。

ですが、あくまで安全に倒したいのであれば木が密集している場所で木の折れる音を頼りに接近を察知するのが良いでしょう。

魔物は総じて体躯が大きいですからね。

貴女様は自分の実力に何処までの自信をお持ちで? 」


少し、嫌味な言い方をしてしまったかな?

逆恨みかもしれないが、彼女のせいで家の家計は大変なのだ。

この位の仕返しは許して欲してくれても良いのではないだろうか。

しかも、家の領地で行方不明にでもなられたら此方に責任が来るのだ。

自己評価ぐらい確認しても罰は当たらないだろう。


彼女は一瞬、目を細めた。


「私は、王立学園の剣術科で上位の成績を修めています。

それは事実ですが、私はまだ一学年生、決して驕れる事はありませんわ。

ご心配は無用です」


あぁ、きっぱりと言われてしまった。

まぁ、それなら心配は無いかな……と、思いたい。


「では、この屋敷から北西の杉の密集地帯が宜しいと思います。

私が言う必要はないかもしれませんが、細心の注意をお払いください」


それから、暫く雑談をしてからお開きになった。


ーーーーーーー次の日ーーー


今日は、どしゃ降りの雨だった。


何だか屋敷が静かだ。雨音がとても大きく聴こえる。


はぁ、最悪の事態が起きたかもしれない。

昨日の夜の私の行動は全くの無駄になったか…………。


しょうがない、しょうがないなぁ。


起きようか。


段々と夏が迫ってくるこの季節、我が家はまたまたピンチです。

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