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第3話 『偽勇者の葛藤』

「こんにちは、勇者様」


日夜、魔王軍の襲撃から国を守っていた勇者の暮らす宿舎に、来訪者。

ノックに応じて顔を出すと、王女が居た。


「王女殿下……護衛も伴わず、何用でこのような場所に……?」

「今日はお忍びで王都を散策しようと思いまして。それに護衛なら、この国で最も頼りになるお方が、目の前にいらっしゃるではないですか」


金髪碧眼で街娘の装いの王女。

完全に遊びまくっている女である。

そんなビッチに連れられて、街に出た。


「だいぶ復興が進みましたね」

「……そうですね」


街を歩きながら、弾んだ声で感想を口にする王女に、勇者は当たり障りのない返答をしたが、内心は複雑だ。

復興が進んでいると言えば聞こえはいいが、街の住人たちの顔は暗い。

住むところを確保する為に仕方なく仕事に勤しみ、家を建て、物を売る。

そんな彼らの心情など御構い無しに、聖女はバザーを冷やかし、そして何やら不満そうに頬を膨らませた。


「勇者様、私の手が空いてますよ?」

「は?」

「せっかくのデートなのですから、手を取りあって歩きましょう」


まるで意味のわからないことを抜かして、勇者の手に穢れた王女の手が触れる、その直前。


「痛ッ!?」


バチッ!と、勇者の指先に静電気のような痛みが走り、咄嗟に庇う。

その仕草を見て、王女は避けられたと誤解し、憤慨。


「私と手を繋ぐのが嫌なのですか!?」

「いえ、決してそのようなことは……」


勇者としては、手を繋ぐことで有事が発生した際に素早い対処が出来なくなる可能性があった為、両手を自由にしておきたかったのが本心であったが、王女の怒りを買うのを避けて誤魔化すことに。

しかし、王女の怒りは収まらない。


常日頃からチヤホヤされて育った王女は、誰もが自分にかしづいて当然であると信じて疑わない。

そんなやんごとなき自分が御手を許したというのに、この態度。

完全に頭に血が上った彼女は、鈍感な勇者を置き去りに裏路地へと向かう。


「お、お待ち下さい、王女様!」


慌てて後を追ってくる勇者を見て、少しは溜飲が下がった。

勇者としては裏路地は治安が悪いので万が一のことを心配して止むを得ず後を追っただけなのだが、王女はやっぱり自分に気があると思い込み、人目を忍んで押し倒して魅力しようと目論んでいたのだが。


「あら? こんなところに、幼子が」


裏路地に幼い少年を発見。

すぐに追いついてきた勇者に対処を命じる。


「もしかしたら孤児か迷子かも知れません。保護してあげましょう」

「いえ、あの子は……放っておいたほうが……」


少年を一目見て、言い淀む勇者。

その煮え切らない態度と、何より王女である自分の命に背いたことに激昂して、彼女はヒステリックに怒鳴った。


「何ですって!? 勇者ともあろう者が、子供1人も助けられないと仰るのですか!?」

「申し訳、ございません……」

「もう結構です! 今日のことは私からお父様に報告しておきます! それでは御機嫌よう、偽勇者様!」


反論することなく、頭を下げる勇者をまるでゴミのように睨み、偽勇者呼ばわりして立ち去る王女。

手を叩くと、どこからともなく馬車と共に護衛が現れて、それに乗って王宮へと帰っていった。


残された勇者は、自分がするべきことをすべく、路地の奥へ。

すぐにさっきの少年を見つけて、背後から口を塞ぎ、取り押さえました。


「もがっ!?」

「動くな。盗んだ物を出せ」


勇者は身体検査を実施。

すると出るわ出るわ盗品の数々。

この少年はスリと万引きの常習犯。

そうでなければ、このような場所でコソコソとしている訳がない。

他にも盗品がないかと身体を調べていると、急に少年が暴れだして、勇者の拘束から抜け出した。


「さ、触るなっ!!」


何故か胸を庇って金切り声をあげる少年に首を傾げつつ、勇者は厳しい口調で余罪がないか尋ねた。


「盗ったのはこれで全部か?」

「ああ、そうだよ! あんたのせいで飯も食えず、餓死する羽目になった! 死んでも恨み続けるからなっ!!」


王女の推察は半分は正解で、少年は孤児であり、そして盗人でした。

先日の襲撃で親と家を失い、ろくな仕事にもありつけず、生きる為に盗みを働くしかなかったのです。

本来ならば、そのような孤児は国が面倒を見るのが道理なのですが、先程の王女の発言の通り、国王は救済策を検討することもなく、あくまで現場任せ。

助けろとは命じるものの、面倒を嫌い、自ら助ける気はないのです。


孤児の境遇は確かに同情に値します。

しかし、罪は罪。

盗人は盗みを働いた分だけ、指を切り落とされるのがこの国の法律でした。

ざっと見ても、少年が盗んだ盗品の数は10点以上。

両手の指を全て切り落としても拭えぬ罪は、その命を以って償うこととなるでしょう。


法治国家において、法律は絶対。

だが、果たして、それが正義なのか。

勇者は悩み、そして決断しました。


「金なら俺がくれてやる」


王国から支給された最低限の給金の入った袋を、少年を渡して、言い含める。


「だからもう盗みはするな」

「……わ、わかった」

「なら、もういい」


次は見逃さん、と。

言外に念を押してから、勇者は立ち去る。

これが正しいことなのかはわからない。

それでも、このまま情け容赦なく警察に突き出すよりはマシに思えた。


《君は悪い子だね》


含み笑いと共に勇者を咎める謎の声。

そう言われることは、わかっていた。

いかに信条を優先したとはいえ、罪人を見逃したのだ。

王女に偽勇者と詰られても仕方ない。

これで勇者としての力を失うことも覚悟の上だった。


《力はこれまで通り授けてあげるから、安心しなよ》


勇者を覚悟を汲み、許す声。

その声は、上機嫌ながら不機嫌そうに、勇者を褒めて、そして責めた。


《君は未だに高潔さ。だから、あの幼子の身体を触ったことは許してあげる》


そんな、よくわからない責め方。

明らかにおかしい着眼点。

首を傾げる勇者をよそに、謎の声は予言とも取れる発言をした。


《あの幼子は利用価値があるしね。おっと、そんなことよりも、気を引き締めなよ? これからが正念場だからね》


健闘を祈ると言い添えて、声は消えた。

そしてその予言の通り、勇者の物語はここからが正念場。


王宮から広まった偽勇者との声が、勇者を追い詰め、彼を死地へと導くことになるのでした。

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