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第2話 『王宮での戦闘』

「せいっ!」

「ギャアアアアアアアッ!!」


勇者の快進撃は止まりません。

巨大な鳥の魔獣をバッサバッサと切り捨てて、一路王宮を目指します。

その途中、彼が暮らしていた貸家に通りかかりましたが、それは既に住居とは言えぬ瓦礫の山と化してました。

破壊の状況から途轍もない強風にさらされたことがわかります。

まるで竜巻の通り道だったかのように、辺り一面が薙ぎ払われていました。


住む家を失った青年ですが、今は途方に暮れている場合ではありません。

1人でも多くの人を救うべく、彼は授かった力を振るい、多くの敵を屠りましたが、襲われた人々に生存者はおらず。

街の中心部に近づくにつれて死体の数は増え、そして巨大な鳥の死骸が勇者が歩んだ道を示します。


死体と死骸の花道を築いた青年の身体は魔獣の返り血を浴びて真っ赤に染まり、その手に握る牛刀はドス黒く変色しています。

それはただ血が乾いたからだけでなく、殺した魔獣の怨念によるものです。

血を流した怪鳥の恨みは、さらなる血を望み、より鋭い刃を生みます。


血に飢えた牛刀は呪いの剣と変わり果て、勇者の行く手を阻む魔獣を悉く惨殺し、道を切り拓き、ついに王宮へと辿り着きました。


しかし、どうやら一歩遅かったらしく。


高い城壁は見るも無残に崩壊して。

王宮を守っていた軍隊は死に絶え。

絶命した兵士を食い散らかす魔獣の群れ。


そのような地獄絵図にも、取り乱すことなく、勇者は死体を漁る魔獣を殲滅。

息一つ荒げることなく、作業を終えて、城門をくぐり、城内へ。


力を手に入れたのなら、それを正しく使わなければいけない。


まるで感覚が麻痺しているように、機械的に敵を屠り続ける彼は、それが自分の使命だと信じて、城内を進みます。


「キャアアアアアアアアア!!!!」


突如響き渡る、女性の悲鳴。

良かった、まだ生きている者がいる。

ようやく、自分の力で人を救えると思い、急いで声がする方へ。


するとそこは玉座の間。

大きな両開きの扉は無残にも壊されていて、開け放たれています。

その破壊の仕方は、街で見かけた彼の借家の周辺と似通っていました。

それを裏づけるように、部屋には強風が吹き荒れています。


「だ、誰か、助けてっ!?」


玉座の間で助けを求める若い女。

部屋の中央には鳥のような翼を持つ魔人が佇んでいて、魔法と思しき力を使って、女を宙に浮かべています。

そして、目の前に浮かぶ女が身に纏う極彩色のローブを掴み、それを引きちぎりました。


「これは、返して貰うぞ」

「キャアアアアアアアアアッ!?!!」


女を半裸に剥いた魔人は、ローブを大事そうに抱え、片手を振り払いました。

その動作に伴い、烈風が吹き荒れ、女は大理石の床に投げ出されました。

転がる彼女に1人の老人が駆け寄って。


「おのれ、余の娘に何をする!?」


身に纏っていたマントを女にかけて庇うその老人には見覚えがあった。

よく見ると、娘とやらも見た顔だ。


何を隠そう、彼らはこの国の王族。

国王と王女でした。


「貴様らは許されざることをした」


魔人は国王を見下して、告げます。


「だから、この国ごと抹殺する」


どうやら、国王とその娘はこの風を操る魔人の怒りを買ったらしい。

それがどんなものかは知らないが。


「させるかぁあああああっ!!」


今まさに国王とその娘を手にかけようとしていた魔人に、勇者は斬りかかりました。


「むっ!? な、なんだ貴様は!?」


気づかれるのは、想定内。

敢えて背後ではなく側面からの襲撃。

目的は生存者の救助。

狙い通り、魔人は距離を取り、乱入者を睨めつけ、その異様さに驚く。


「き、貴様、我が配下を倒したのか?」

「だったらどうした?」

「あり得ぬ……我が配下は強力な魔獣ばかり。到底、人に倒されるとは思えん」


そこまで疑問を口にして、魔人は気づく。


「あ、赤い瞳……? そんな、まさか」


意味不明なことを口にして、狼狽える魔人。

それを勇者は好機と見た。

魔法を使われる前に、仕掛ける。


「ふっ!」


ノーモーションでの踏み込み。

一足で間合いを詰め、袈裟斬り。

しかし、魔人は間一髪で逃れた。


「ちぃっ! なんという速さだ! しかし、残念だったな! 私は魔王軍の中でも最速の、風を司る四天王……」

「遅い。背中がガラ空きだ」


初撃はフェイント。

それを躱して勝ち誇る風の四天王とやらの回りこみ、牛刀を振り抜く。


「ぐわあああああああああっ!?」


それは、致命傷だった。

風の四天王は倒れ伏し、絶叫。

その血を吸った牛刀が風を纏う。

どうやら、相手の魔法を吸収したらしい。


新たな力を得たことに感慨はない。

勇者は黙して、魔人の最期を見届けた。


「こ、この私を倒すとは、その力……どうやら本物らしい。だが、もういい……目的は果たした。すぐに、あなたの元へ……」


王女から奪った極彩色の衣を胸に抱き、美しき鳥人の四天王は、死んだ。

その哀しき末期の言葉の意味はわからぬまま、跡形もなく風となって消えた。


「おお、やったか!」


魔人が死んだことに安堵する国王。

居住まいを正して、威厳を取り繕う。

そしていかにも偉そうに玉座に腰を下ろして、青年を労った。


「余と余の娘の命を救ったことに、まず礼を言おう」


上から目線の国王の傍には上目遣いで勇者に熱っぽい視線を送る王女様。

王のマントがはだけて、胸が露わ。

どうやら、見せつけているらしい。


この手のビッチは大抵腹黒なので、お兄ちゃんも気をつけてね。


国王と王女の腹の中は、真っ黒です。

魔王軍の四天王の一角を退けた勇者の力を、我が物にしたい様子。

しかし、今回の活躍はまぐれである可能性もあるため、様子を見ることに。


「其方には我が王国の剣として、これからもその力を振るって貰いたい」

「はい。元よりそのつもりです、陛下」


国王の一方的な物言いに文句を言うことなく、勇者はその使命を受け入れた。

てっきり褒賞をねだってくるかと思いきや、何も要求する素振りのない彼を国王は不審に思い、尋ねた。


「国を守る代わりに、何か欲しいものはないか?」

「見返りはいりません。ですが……」

「なんだ? 申してみよ」

「この度の襲撃で家を失ったので、住むところを頂ければ、ありがたいです」


勇者は見返りが欲しくて国王と王女を助けたわけではない。

ただ、降って湧いた力を、正しいことに使いたかっただけ。

その方針には変わりないので、今後も無償で国と民を守る覚悟だ。


しかし、戦いが終わった今、家を失ったことが問題だった。

生活に直結する衣食住は最重要。

住処がないのでは、国を守る使命に支障が出る。

そう判断して、国王に嘆願すると。


「ふむ……それは困ったな」

「お父様、私に考えが」

「申してみよ」

「はい。私の部屋に住めばいいかと」

「なるほど、それは名案だ!」


腹黒の国王と王女は一瞬目配せ。

すぐに勇者を取り込む作戦を開始。

王女の部屋に住まわせて、既成事実を作ろうとしたのだが。


「恐れながら、国王陛下」

「むっ? なんだ?」

「国を守るのならば、王都の外壁の門の傍に建つ警ら隊の宿舎で充分です」


王都の周囲は外壁で囲われている。

東西南北にそれぞれ門があり、そこには門番として守衛が置かれていた。

それに加えて、外壁の上には交代で見張りが立つ警戒監視体制。

それらを担う警ら隊は、今回の襲撃でだいぶ数を減らしている筈。

4つの門全てに残りの守衛を立たせるのは、人員的に困難だ。

それを踏まえての、勇者の申し出。


力を持つ彼が外敵に睨みを効かせる。

それは理にかなっていて、合理的だ。

これには流石の国王も反論出来ず。


「わかった。水と食料は追って届けよう」


渋々その提案を呑む国王。

悔しげに下唇を噛み締める王女。

勇者はそれに構うことなく一礼して、その場を立ち去った。


《勇者くんは、いい子だね》


宿舎へと向かう道中、またあの声が聞こえて、何故か褒められた。


《君が高潔でいる限り、ボクは力を貸し続けよう》


だから、間違いを犯すなと。

暗にそう釘を刺されたが、構わない。

正しいことをする為に、力を得たのだから。


ゆえに勇者は、授かった力を正しく使うべく、この日から国を守り続けました。

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