プロローグ
「ちょっとお前に聞きたいことがある」
「なに?」
「俺のプリン、食った?」
その日、俺は妹を尋問していた。
つい先程、由々しき事態が発生した。
俺が楽しみにしていたプリンが、冷蔵庫から突然姿を消したのだ。
プリンには自由意志がないので、何者かの手による誘拐事件と断定。
すぐさま脳内捜査会議によって、容疑者に目星をつけた。
真っ先に浮上したその容疑者こそ、目の前に座っている妹である。
そもそも、行方不明となったプリンは昨日この妹にせがまれて買わされた、町一番のお菓子屋さんの数量限定のちょっとお高くて美味なおやつ。
ねだった妹は昨日のうちに食べ終えており、残っているのは俺の分のみ。
それなのに、冷蔵庫に存在しないとなると、これはもうこの妹の犯行であるとしか思えない。
そんな個人的見解を多分に盛り込んだ推理に基づいて、重要参考人を聴取してみると、妹はあっさりゲロった。
「うん。冷蔵庫にあったから、食べた」
「ふざけんなっ!!」
言うに事欠いて、冷蔵庫にあったから食べた、だと?
だったらお前の嫌いなピーマンとかニンジンを生でバリバリ食ってろ!
憤慨した俺は、妹に説教を開始。
「人のプリンを食べたら駄目だろ!」
「だって、お兄ちゃんが早く食べないから」
「俺は楽しみを取っておくタイプなんだよ!!」
「それってもしかして、あたしとこうしてスキンシップするのが楽しみだったり? いや〜引くわ〜。 いい加減、妹離れしてよこのシスコン!」
「お、お前……俺に何の恨みがあるんだ……?」
こっちが叱っていたのに、何故かシスコン呼ばわりされて、心外の極み。
つーか、せっかく買って来てやったのに、こんな態度と仕打ちしていいの?
いや、良くない。
断じて、容認出来ない。
このままでは妹の将来が心配だ。
「あのな、世の中にはやって良いことと悪いことがあってだな……」
「つまり、今回の件はやって良いことなので大目に見てくれるの?」
「見ねーよ! これは明らかにやっちゃいけない暴挙だ!!」
舐めたことを抜かす妹に、嘆息して。
「頼むから、そろそろ善悪を判断出来るようになってくれよ……」
「あのね、お兄ちゃん」
「ん? 謝る気になったか?」
「そんなわけないじゃないの。寝言は寝て言って」
何やら改まって話がある様子だったので、てっきり改心したのかと思いきや、全然そんなことはなく、妹は偉そうにソファにふんぞり返りながら、全く関係ないことを話始めた。
「そもそも、正しい行いが必ずしも良い結果を生むとは限らないの」
「哲学的な話なら後にしろ。今は俺のプリンがだな……」
「うるさい。いいから黙って聞いて」
完全に我儘なお姫様モードになった妹に黙らされる兄たる俺。
普段の上下関係が完全に露呈してしまったが、こうなってはもうどうすることも出来ない。
気が済むまで付き合ってやらないと、癇癪を起こして何を仕出かすかわからないのだ。
この前など、俺の歯ブラシを便所掃除に使われた。
買ったばかりだったのに、すぐに捨てる羽目になった。
本当に勘弁して貰いたい。
というわけで、今日も今日とて脆弱な兄は強大な妹にひれ伏し、話を聞くことに。
「わかったよ。話してみろ」
「聞かせて下さいでしょ?」
「……聞かせて、下さい」
「仕方ないわね。それじゃあ、ここに座って」
尊大な口調で隣に座るように促されて、俺は怒り心頭でこめかみをピクつかせながらも、素直にそれに従い、腰を下ろした。
すぐさま妹がこちらに擦り寄り、肩に頭を乗せて、語り始める。
「昔々、遥か昔の話」
「昔話なのか?」
「というよりも、おとぎ話ね」
おとぎ話と言われ、げんなり。
しかし、すっかりその気の妹は、もう誰にも止められない。
俺は大人しく、妹が語るおとぎ話に耳を傾ける。
それは、善悪とは何かを紐解く、昔話。
お読み頂き、ありがとうございます。
10部分完結で本日中に全て投稿する予定です。
最後までお付き合い下されば嬉しいです。
それでは引き続き、お楽しみ下さい。




