リンゴ嫌いの白雪姫
「鏡よ! 世界で一番美しいのは誰?」
『世界で一番美しいのは、白雪姫です。』
「なんですってーーー!」
白雪姫の継母である王妃は、毎晩魔法の鏡で、自分が世界一美しいことを確認していました。
しかしある晩、いつもと違う答えが返ってきたのです。
怒った王妃は、猟師に白雪姫を殺すよう命令します。
しかし、猟師は白雪姫を殺すことが出来ませんでした。
「姫様…。
私は、あなたを殺すよう、王妃様から命を受けています。
しかし、私に姫様を殺めることは出来ません…。」
白雪姫は驚きの表情で話を聞いています。
「どうかこのまま、王妃様の目の届かない所へ、お逃げ下さい。」
猟師は持っていた金貨と食料の全てを白雪姫に渡すと森の中に置き去りにしました。
そして城へ戻った猟師は、白雪姫を殺してきたと嘘とつきます。
置き去りにされた白雪姫は、森の中で7人の小人と出会い一緒に暮らすことになりました。
その夜、王妃はいつものように鏡に問いかけます。
結果、白雪姫が生きていることを知ったのでした……。
…
王妃は、嘘をついた猟師に罰を与えました。
暗闇ヶ森の奥深くに生えている暗黒リンゴの苗木を手に入れてくる事…。
猟師は、10日かけて苗木を持ち帰る事に成功します。
暗黒リンゴは、与えられた栄養を蓄えて、実がなる珍しい植物です。
この夜、王妃は暗黒リンゴの苗木にリンゴ1個分の毒薬を注ぎました。
…
翌朝…。
王妃は、物売りのお婆さんに化けると毒リンゴを持って白雪姫の元へ向うのでした。
…
そのころ白雪姫は、小人達と一緒に朝食をとっていました。
「白雪の作る飯は美味いな~。」
「うふふ…。 ありがとう。」
「今日の晩御飯は何?」
「何か食べたいものはある?」
「御飯は何でも良いけど、何か甘いものが食べたいな。」
「わかったわ。 考えとく。」
小人達との食事…。
城では味わえなかった賑やかな食卓、白雪姫は幸せを感じていました。
…
「いってきまーす!」
「いってらっしゃーい!」
小人達が仕事に出かけていきました。
残った白雪姫は、掃除に洗濯にと忙しく働きます。
そこへ、物売りに化けた王妃が遣って来ました。
「こんにちは、娘さん。
何か御入用の物は、有りませんか?」
「こんにちは、お婆さん。
うーん…、そうね…。
何か甘い果物あるかしら?」
王妃が笑みを浮かべます。
「はい、はい、はい…。
ありますとも。
このリンゴなど、いかがでしょうか?」
王妃は、背負ってた籠からリンゴを取り出すと白雪姫に見せました。
「リンゴか~…。
桃とかブドウは無いの?」
リンゴ嫌いの白雪姫は、眉間にしわを寄せます。
「申し訳ございません…。
他は全部売れてしまいまして、果物はこのリンゴだけになります。」
「じゃあ、リンゴ7個くださいな。」
白雪姫は、小人達の為にリンゴを買うことにしました。
「申し訳ございません…。
この1個しか残っておりません…。」
「ならいらないわ。 また、今度ね。」
そう言って、白雪姫は掃除に戻ります。
王妃は、苦々しい顔を見せ
「1個だけですけど、サービスで置いていきますね。
美味しいので、ぜひ味を見て下さいね。」
と、テーブルの上にリンゴを置いて逃げるように去って行きました。
「あっ!
お婆さん…、サービスなんてそんな…。」
白雪姫は、慌ててお婆さんを追いかけましたが、あっという間に姿が見えなくなります。
(お婆さんなのに、何て足が速いんだろう…。)
そんな事を思いながら、テーブルの上のリンゴを眺めます。
「どうしよう…?
これを7つに分けてもな~…。」
(!!)
何やら良い考えが浮んだようで、白雪姫は、リンゴをそのままに、再び掃除に戻りました。
…
その夜…。
王妃は、白雪姫が死んだ事を確かめるため鏡に問いかけます。
「鏡よ。 世界で一番美しいのは誰?」
『世界で一番美しいのは、白雪姫です。』
(…んっ!? 白雪の奴、まだリンゴを食べていないのか?…。)
念の為、鏡に尋ねます。
「鏡よ。 白雪は、毒リンゴを食べたかい?」
『はい、白雪姫は毒リンゴを食べました。』
「えっ! どう言うことだい!!
毒を食らって死んでないって!!」
訳が分からない王妃は、再び鏡に質問します。
「鏡よ。
白雪は、何で毒を食らって死なないんだ?」
『食べた毒が少量だったからです。』
「何だって!
ひと口で象が殺せるリンゴだよ!!
それで死なない…。
うーん…。」
王妃は、腕組みして考え込んでいましたが、数分後、暗黒リンゴの苗木に大量の毒薬を注ぎ始めます。
今回は、リンゴ7個分の毒薬が注がれました。
しばらくして、美味しそうなリンゴが7個実ります。
…
翌朝…。
王妃は、再び物売りのお婆さんに化けると毒リンゴを持って白雪姫の元へ向うのでした。
…
今日も白雪姫は、掃除に洗濯にと忙しく働いています。
そこへ、物売りに化けた王妃が遣って来ました。
「こんにちは、娘さん。
何か御入用の物は、有りませんか?」
「こんにちは、お婆さん。
昨日は、ありがとう!
リンゴとっても美味しかったです!!」
てっきり毒で苦しんでいると思っていた王妃は、元気な白雪姫に驚きますが、顔には出さず。
「それは、良かった。
そう思って、今日はリンゴ7個持って来ましたよ。
お買いになりますか?」
「はい! 7個全部頂きます!!」
王妃が笑みを浮かべます。
「じゃ、テーブルに置いときますね。」
王妃は、リンゴをテーブルの上に置くと白雪姫から代金を受け取り小人の家をあとにしました。
…
その夜…。
王妃は、白雪姫が死んだ事を確かめるため鏡に問いかけます。
「鏡よ。 世界で一番美しいのは誰?」
『世界で一番美しいのは、白雪姫です。』
(んっ!?
白雪の奴、まだリンゴを食べていないのか?…。)
念の為、鏡に尋ねます。
「鏡よ。 白雪は、毒リンゴを食べたかい?」
『はい、白雪姫は毒リンゴを食べました。』
昨日と同じ答えに驚いた王妃は、再び鏡に質問します。
「鏡よ。 白雪に毒は効かないのかい?」
『いいえ、白雪姫に毒は効きます。』
王妃は、嬉しそうに微笑みます。
「鏡よ。 白雪は、今、毒で苦しんでいるのかい?」
『いいえ、白雪姫は毒で苦しんでいません。』
王妃は、頭を掻きむしり
「なぜ?、なぜ?
なぜ?なぜ?なぜ?……。」
と、ブツブツ呟きながら部屋の中を歩き回ります。
…
昨夜…。
白雪姫は、小人達の為にリンゴのパイを作りました。
『何か甘いものが食べたいな…』
と言うリクエストに答えたのです。
しかし7人分のパイ生地にリンゴは1個。
白雪姫は、
(リンゴって気付いてくれるかな~…。)
と思いつつ、何のパイかは、ナイショにして小人達に出しました。
「うーん…、何だろう?
桃? いや柿?」
「これ、カボチャじゃない?」
「いやいや、チェリーだよ!」
誰一人、リンゴと答えたものは居ませんでした。
「何か分からないけど、すごく美味しいよね!」
「ああ、今まで食った食べ物の中で一番美味いな。」
「ねえ、白雪。 何のパイだか教えてよ。」
白雪姫が、
「リンゴのパイだよ。」
と答えると…。
「嘘だよ! 全然リンゴの味しないよ。」
「本当に?」
リンゴ嫌いの白雪姫は、疑いの目を向けますが、半信半疑で、ひと口だけ食べてみます。
もぐもぐもぐ…。
「わーっ! 何これ、美味しい!!」
白雪姫は、驚きの声を上げます。
確かにリンゴの味も香りも全くしません。
それと言うのも、暗黒リンゴは、成長の元となった物の味と香りがするのです。
王妃は、白雪姫が蜂蜜好きと知っていましたので、世界一美味しい蜂蜜に毒を混ぜてリンゴを実らせていました。
では、毒はどうなったのでしょう?
この毒は熱に弱く、オーブンで焼かれたことで、毒の成分が変質して、絶妙に美味い隠し味になっていました。
しかし、全ての毒が変質したわけでは有りません。
1億分の1だけ、毒が残りましたが、これは人体に全く影響が無いレベルでした。
…
今夜…。
白雪姫は、たっぷりのリンゴが入ったパイを作りました。
昨日より7倍多く毒が入ったパイ…。
もちろん、人体に全く影響が無いレベルです。
「美味しい! 美味しい! 美味しい!」
「昨日のパイより、数倍美味いな。」
「これ、絶対リンゴじゃ無いよね。」
小人達は、大絶賛。
白雪姫も小さい頃に食べて大嫌いになったリンゴの味とは違うな~って、感じていました。
…
食後…。
「ねえねえ白雪。
リンゴもう残ってないの?」
「ごめんなさい、全部使っちゃった。
今度買ったら使わずに取っとくね。」
「えっ! 買ったの? 誰から?」
「物売りのお婆さんよ。
昨日のリンゴは、そのお婆さんがくれたの。」
小人達は、顔を見合わせます。
「どうしたの?」
白雪姫が怪訝な顔を見せます。
「ここに物売りが来た事は、一度も無いんだよ。
ここは街道から外れているし…、他に家は無いし…。」
「あっ!
もしかして、白雪を助けてくれた猟師の知り合いが様子を見に来たんじゃないか?」
「そうかも、だから美味しいリンゴを持って来てくれたのかも…。」
「だったら良いけど…、もし王妃の手先だったら…。」
白雪姫と小人達は、お婆さんの正体について夜遅くまで話し合うのでした…。
…
翌朝…。
4人の小人が仕事に出かけていきました。
残りの3人は、遠目から白雪姫を見守っています。
白雪姫は、いつものように掃除に洗濯にと忙しく働いていました。
そこへ、物売りに化けた王妃が遣って来ます。
王妃は、元気に働いている白雪姫を見て、一瞬苦々しい顔を見せます。
「こんにちは、娘さん。
リンゴはどうでした?」
「こんにちは、お婆さん。
すっごく美味しかったです!」
「それは、良かった。
今日もリンゴ7個持って来たんですが、お買いになりますか?」
「はい! 7個全部頂きます!!」
王妃が笑みを浮かべます。
「じゃ、テーブルに置いときますね。」
王妃は、リンゴをテーブルの上に置くと白雪姫から代金を受け取り小人の家をあとにしました。
そのあとを2人の小人が追いかけます。
残った1人が、リンゴを調べました。
「これは! 暗黒リンゴだ!!」
「あんこくリンゴ??」
白雪姫は、初めて聞く名前に首を傾げます。
「ああ、暗闇ヶ森の奥深くに生えている。
幻のリンゴだよ。
ほら、リンゴのお尻のところが黒いだろ。」
「毒リンゴなの…?」
白雪姫は、恐る恐る尋ねます。
「心配しなくて良いよ。
これは毒にも薬にもなる果物なんだ。」
「どう言うこと?」
「与えられた養分をそのまま、実に蓄えるんだよ。
例えば、みかんジュースで育てると味と香りが、みかんのリンゴが出来るんだ。」
「じゃあ、食べても大丈夫なのね。」
白雪姫は、ホッと胸を撫で下ろします。
「でも、何を与えて育てたか分からないから…。
お婆さんの正体が分かるまで食べないほうが良いね。」
小人の言葉に、白雪姫は頷きました。
…
その夜…。
王妃は、白雪姫が死んだ事を確かめるため鏡に問いかけます。
「鏡よ。 世界で一番美しいのは誰?」
『世界で一番美しいのは、白雪姫です。』
(んっ!?
白雪の奴、まだリンゴを食べていないのか?…。)
念の為、鏡に尋ねます。
「鏡よ。 白雪は、毒リンゴを食べたかい?」
『いいえ、白雪姫は毒リンゴを食べていません。』
(3日続けて、リンゴは食べないか…。)
「さて、どうしよう…。
念のため、また違う毒でリンゴを作っておくかねぇ…。」
王妃は、最初の毒では白雪姫に効果が薄いと考え、違う毒でリンゴを作っていたのでした。
コン…。
ベランダから小さな音が聞こえました。
「んっ!?」
王妃は、急いで窓を開けて周囲を見回します。
何も変わりがありません。
「空耳か…。」
王妃は、窓を閉めると毒リンゴ作りに戻るのでした。
…
しばらくして、小人の家にフクロウが遣ってきました。
コンコンコン。
ホー…ホーホー…。
フクロウが、玄関の扉を口ばしでノックします。
小人は、扉を開けるとフクロウを招き入れました。
実は、お婆さんのあとをつけていた小人の2人は、変装をといたお婆さんの正体が王妃であることに気が付きました。
王妃は、そのまま城へ帰って行きましたが、小人達がついていくわけにはいきません。
小人達は、友達のフクロウを呼び出すと王妃の監視を頼んでいたのでした。
…
ホーホー…ホホーホー…ホー、ホー…。
「ふんふん、それで…。 ふん…」
1人の小人がフクロウと話をしています。
話が終わると、お礼を言ってフクロウを森へ帰しました。
「で、何だって?」
「王妃は質問に答えてくれる魔法の鏡を使って、白雪が毒リンゴを食べたか聞いていたそうだから、それは全部毒リンゴだと思うよ…。」
小人の言葉に白雪姫と小人達は青ざめます。
「じゃあ、今までのリンゴは…?」
「分からないけど…、普通のリンゴではなかったよね…。」
小人達は、腕を組んで考えます。
「それで、これからどうする。」
「白雪が死んだふりをすれば良いんじゃないか?」
「いや、魔法の鏡があるから死んだふりは効かないよ。
ここに白雪が居ることも鏡で知ったんだろうし…。」
「王妃をやっつけようよ!」
「暴力は、絶対駄目!
他に何か方法が有る筈よ!!」
白雪姫は、強く訴えます。
「…うーん…。」
全員が腕を組んで考え込みます。
(!!)
1人の小人が閃きました。
「魔法の鏡に聞いてみれば良いんじゃないかな!」
「あっ! それ良いかも!!
白雪なら城に入れるよね。」
「いや、きっと明日も王妃は来るよ。
白雪が居なかったら何してたか鏡に聞くんじゃないか?」
「そうだね。
もし魔法の鏡が教えてくれる解決方法が直ぐ実行出来ないものだったら王妃が警戒するかも…。」
「じゃあ、俺達で鏡を盗んでこれないかな?」
「城に忍び込むってこと…、無理だよ!」
(!!)
白雪姫は思い出します。
「王族しか知らない秘密の抜け穴があって、王妃様の部屋の暖炉に繋がっているわ。」
「じゃあ、こんな作戦はどうかな…。」
小人達と白雪姫は、鏡を盗む事に決めました。
…
翌朝…。
白雪姫は、いつものように掃除に洗濯にと忙しく働いていました。
そこへ、物売りに化けた王妃が遣って来ます。
チチチ、チュンチュンチュン…。
家を見張っていた小人が、小鳥のモノマネで合図を送ります。
白雪姫は掃除を止めて、リンゴを片手に休憩します。
そして…。
「こんにちは、娘さん。 リンゴは…」
と、王妃が家を覗いたタイミングで…。
シャリ!
白雪姫は、リンゴにかぶりつきました。
そして、もがき苦しみます。
その姿を見た王妃は、
「ほほほほほっ……。
白雪、苦しみながら死んでおくれ。
ほほほほほっ……。」
と笑いながら帰って行きました。
…
「白雪、大丈夫?…。」
王妃が居なくなり、小人が戻ってきました。
「うえ~…、美味しくないよ~…。」
涙目の白雪姫が、苦しんでいます。
白雪姫が食べたのは普通のリンゴでしたが、大嫌いな物を無理して食べたため自然に、もがき苦しんでいたのでした。
「あとは、他の皆が上手く盗んでくれるかだね…。」
白雪姫と小人は、皆の無事を祈るのでした。
…
そのころ、小人達は王妃の部屋に侵入していました。
「魔法の鏡ってこれかな?」
鏡は予想以上に大きく、抜け穴に入りそうにありません。
「よし、最初の計画通り、鏡に聞こう!」
小人達は顔を見合わせると頷きます。
「ねえ、鏡さん。
白雪を助けたいんだけど、どうすれば良いかな?」
「王妃様を倒せば、白雪姫は助かります。」
「鏡さん。
王妃を傷つけないで、白雪を助けることは出来るかな?」
「…」
答えが分からないのか、鏡は黙ったまま…。
小人達は、質問を変えます。
「鏡さん。
どうして王様は、白雪を助けてくれないの?」
「王様は、王妃様の魔法で白雪を無視するよう命令されているからです。」
小人達は、驚きます。
「じゃあ! 王様の魔法が解ければ白雪を助けてくれるんじゃないのか。」
小人達に希望の光がさします。
「鏡さん! 王様の魔法は、どうすれば解けますか?」
「王様の魔法を解く為には……。」
小人達は、魔法を解く方法を聞きだすと王妃の部屋を後にしました…。
…
夕方になりました。
小人達は、魔法を解く薬の材料を全て集め終わりましたが、解魔法薬を作るには時間がかかります。
今夜も王妃は魔法の鏡で、白雪姫の生死を確かめるはずです。
話し合った結果、
「ふえ~ん…、嫌だよ~…。」
と、白雪姫の悲しい叫び声が森に響きました。
…
その夜…。
王妃は、白雪姫が死んだ事を確かめるため鏡に問いかけます。
「鏡よ。 世界で一番美しいのは誰?」
『世界で一番美しいのは、白雪姫です。』
「なんだって!
まだ死んでいないって言うのかい!!」
王妃は、驚きました。
「鏡よ。 白雪は、まだ毒で苦しんでいるのかい?」
『はい、白雪姫は苦しんでいます。』
(しぶとい娘だね…。
まあ良い。
朝までは、もたないだろうからね…。)
…
そのころ、小人の家では白雪姫が苦しんでいました。
シャリ…。
「美味しくない…、もう食べたくないよ~…。」
白雪姫は、泣いています。
小人達は、王妃を騙すため、毒リンゴを作って白雪姫に食べさせていました。
鬼蓮華の蜜をリンゴに塗って作った毒リンゴ。
少し舌が痺れる程度の毒なので、健康に害はありません。
このリンゴを白雪姫は10分おきに、ひと口食べて続けていました。
苦しみ続けることで、王妃を騙そうとしたのです。
…
コンコンコン。
ホー…ホーホー…。
昨夜のフクロウが遣ってきました。
小人は、フクロウから話を聞くと…。
「白雪。 もう食べなくて大丈夫だよ。
王妃の儀式は終わったってさ。」
その言葉を聞いた白雪姫は、急いで、うがいに行きました。
入れ替わりに小人が遣って来ます。
「解魔法薬が出来たよ!」
「よし! じゃあ明日、決着をつけよう!!」
小人達は、頷きました…。
…
翌朝…。
王妃は、白雪姫が死んだ事を確かめるため鏡に問いかけます。
「鏡よ。 白雪は、もう死んだかい?」
『いいえ、白雪姫は死んでいません。』
「なんだって! 嘘だろ!!」
王妃は、少し考えると物売りのお婆さんに化け、白雪姫の元へ向いました。
…
王妃が出かけたのを確認して、白雪姫と小人達が暖炉の抜け穴から出てきました。
「鏡さん。 王妃は、今どこに居ますか?」
『王妃様は、城を出たところです。』
「よし、今の内だ!」
白雪姫と小人達は行動を開始。
暗黒リンゴの苗木に解魔法薬を注ぎました。
王様は、王妃の魔法で白雪姫を無視するように命令されています。
そんな王様に薬を飲ませる事は出来ないと考え、薬をリンゴに変えて食べさせる事にしたのです。
しばらくして、美味しそうなリンゴが実りました。
白雪姫にリンゴを託します。
「白雪! 頑張って!!」
白雪姫は、頷くと王妃の部屋を出て行きました。
「鏡さん。 王妃は、今どこに居ますか?」
『王妃様は、小人の家に居ます。』
残された小人達は、王妃の動きを監視して、何か問題が発生した場合に備えます。
…
そのころ王妃は、誰もいない小人の家で白雪姫を探していました。
(どう言うことなの?
毒が効いているから遠くには行けない筈だけど…。)
「仕方が無い…。
鏡で行方を調べるか…。」
と、王妃は城へ戻ることにしました。
…
「お父様、美味しいリンゴです。
食べて下さい!」
白雪姫は、王様にリンゴを勧めますが…。
「ええい! うるさい! 仕事の邪魔だ!!」
王様は、差し出されたリンゴを振り払います。
(リンゴにしていて良かったわ。
薬だったらこぼれていた…。)
白雪姫は、何度も王様にリンゴを勧めますが、食べてくれそうにありません。
そこへ、メイド長が遣ってきました。
「姫様! 生きておいでだったんですね。
私、王妃様から姫様が死んだと聞かされて…。」
「メイド長!
このリンゴをお父様に食べさせたいの!!
どうすれば良い?」
白雪姫の必死の訴えに何かを感じたメイド長は…。
「これからティータイム用のお菓子を準備するところです。
リンゴを使って何か作りましょう。」
メイド長と白雪姫は、連れ立って厨房へ向いました。
…
「鏡さん。 王様はリンゴを食べましたか?」
『いいえ、王様はリンゴを食べていません。』
「鏡さん。 王妃は、今どこに居ますか?」
『王妃様は、森の中…、城へ向って来ています。』
「鏡さん。 白雪は何をしていますか?」
『白雪姫は、リンゴのパイを作っています。』
小人達は、質問を続けていました。
「どうしよう。 王妃が戻って来ちゃうよ!」
「王妃が戻ってくるのを邪魔しよう!」
「駄目だよ!
暴力は駄目って白雪に言われてるだろ!!」
「ギリギリまで、待ってみよう。
もしもの時は、みんな良いな!」
全員が顔を見合わせ頷きます。
…
午前10時のティータイム。
テラスでは、王様に紅茶とリンゴのパイが出されました。
白雪姫はドアの陰からその様子を覗いています。
王様が、パイをひと口食べました。
王様の動きが止まります。
しばらくすると夢から覚めたようにキョロキョロと辺りを見回し始めます。
白雪姫は、泣きながら王様に近付いて行きました。
「お父様…。
おはようございます…。」
「おお、白雪! おはよう…。
久しぶり…?
???
んっ! 白雪、何を泣いている?」
王様は、記憶がハッキリしないようです。
白雪姫は、義母が自分を殺そうとした事。
魔法で父を言いなりにしていた事。
魔法の鏡の事。
7人の小人たちに助けられた事を王様に説明しました。
しかし、王様は半信半疑です。
そこへ、魔法の鏡を担いだ小人達が衛兵に連れられて遣ってきました。
「失礼致します!
姫様の友人だと申す不審者を捕らえましたが、いかが致しましょうか?」
「王様!
これが魔法の鏡です。
鏡に質問してください!
白雪の話が本当だって分かるから!!」
小人達は、魔法の鏡で、王様が白雪姫の話を信じていないことを知り、王妃の部屋から鏡を持ち出したのでした。
「衛兵さん!
この方達は私のお友達です。
解放してください。
お父様、これが魔法の鏡です。
どうか質問してください!」
王様は、半信半疑のまま質問します。
「鏡よ! 白雪の話は本当のことか?」
『はい、白雪姫の話は全て真実です。』
王様は、鏡が返事をした事に驚きます。
そして、全てを知るのでした…。
…
「あっ! 王妃様、お喜びください。
姫様が生きておられました。
元気にお戻りになりましたよ。」
城へ戻ってきた王妃にメイド長が報告します。
「なんですって!
姫は今何処に居るのです!!」
驚いた王妃は、急いで白雪姫の元へ向います。
…
白雪姫の元には、王様、大臣、親衛隊長…、それと魔法の鏡と見慣れない小人が7人…。
魔法の鏡を見た王妃は、自分の企てが全て終わった事を知りました。
王様が王妃を怒鳴りつけます。
「王妃よ! 何か弁明はあるか!!」
王妃は唇を噛み締めると何とか言い逃れをと考えますが、何も言葉が出てきません。
「衛兵、元王妃を引っ立てーい!」
王様の指示で、王妃は牢獄へと連れて行かれました。
…
全てが終わり、王様と白雪姫は、助けてくれた小人達に褒美を与えます。
新しいノコギリ、斧、カナヅチ、短剣、弓、鍋…。
小人達は大喜びです。
白雪姫は、魔法の鏡にも感謝の気持ちを伝えます。
「鏡さん、ありがとう。
あなたが居たから、お父様の魔法が解けました…。」
白雪姫は、何気なく魔法の鏡に尋ねます。
「鏡さん、何か私に出来る事はありますか?」
『…キスして…。』
白雪姫は、鏡の答えに驚きましたが、ニッコリ笑うと鏡に映る自分に向ってキスをします。
すると、鏡が光り始め、やがて光に包まれます。
そして、光の中から若く美しい青年が現れました。
「白雪姫様、ありがとうございます。
あなたのおかげで魔法が解けました。」
そこに居た全ての人々が驚きの余り声が出ません。
白雪姫は、キスしたことを思い出してか、顔が真っ赤です。
…
若者の正体は、100年前、魔女によって鏡に封印された賢者でした。
賢者は、言葉を続けます。
「王様、もし宜しければ、私をこの国で雇って頂けないでしょうか?
私には鏡の中で蓄えた膨大な知識があります。
必ずやこの国をより良い国に…、より発展した国にして見せます。」
賢者の言葉で、我に返った王様は大臣達と相談を始めます。
「よし、貴君を我が国に迎え入れよう。
存分にその力を発揮してくれ!」
「はっ! 必ずや!!」
2人のやり取りを聞いていた白雪姫は何だか嬉しそうです。
賢者は白雪姫に向き直り…。
「白雪姫様…。
この先も、どうかよろしくお願い致します。」
と、照れ笑いを浮かべます。
白雪姫は、賢者を見つめ…。
「こちらこそ、よろしくお願いします…。」
と、頬を染めるのでした…。
…
この後、この国はかつて無い繁栄のときを迎えます。
王様は、繁栄をもたらした賢者を高く評価し、出会いから3年後、賢者と白雪姫は結婚しました。
その後、王位を継いだ賢者は、白雪姫と2人、この国をますます発展させていったのでした……。
…
昔々、賢者は知識を欲していました。
世界中を旅して、ありとあらゆる物を見聞きして、ありとあらゆる書物を読み…。
そんな生活を続けるうち、生きている間に全ての知識を得る事は出来ないだろうと思うようになりました。
そんな時、魔女に出会います。
「世界の全てを知るすべをお前に与えよう。
その代わりにお前の知識を私の為に役立てておくれ。」
魔女の申し出を賢者は受けました。
薬を飲んで魔法陣に寝かされ…。
目が覚めた時、賢者は自分が鏡の中に封印されたことに気が付きます。
賢者は騙されたと嘆き悲しみましたが、魔女は嘘をついていませんでした。
鏡の世界では、賢者は年を取ることなく、ありとあらゆる人、場所、物…、全ての知識を得ることが出来たのです。
賢者は、貪る様に知識を吸収しました。
ときおり、魔女が質問を投げかけてきます。
賢者は、自分の意思とは無関係に答えを返していました。
やがて、賢者は知識の吸収に疲れ眠りにつきます。
眠っている間も無意識に知識を得ては、質問された事柄に対する答えを返していました。
数年後、魔女が亡くなり、賢者は質問に答えることもなくなり眠り続けます。
さらに数年が経ち、魔女の子孫である王妃が魔法の鏡を手にします。
つまらない質問をする女…。
つまらない答えを返す俺…。
賢者は眠りながら、そんなことを思っていました。
ある日、王妃のつまらない質問に対する答えとして得た知識が賢者を眠りから目覚めさせます。
『白雪姫』
賢者の一目ぼれでした。
それから苦悩の日々が続きます。
『世界で一番美しいのは、白雪姫です。』
真実しか話せない…。
嘘をつくことさえ出来れば、好きな人を助けられるのに…。
…
昨日、小人達が遣ってきました。
大好きな、白雪姫を助けることが出来る。
賢者は喜びに打ち震えました。
…
そして、今日…。
「鏡さん、何か私に出来る事はありますか?」
と、白雪姫が尋ねてくれました。
自分の封印を解く方法も知識として持っていた賢者は、涙ながらに質問に答えたのでした……。