第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー103
『ったく、コレだから素人は、』
とかなんとかブツブツ言ってるトモさんに、先代達は肩を震わせ笑ってる。
慣れたもんだな、この霊、いつもこんな感じなの?
てか何を持って”素人”なのか。
手ぶり身振りのオーバーアクション、迫力があって、口が悪くて、それでいて言ってる事は割と正しい(てか、霊媒師になってから高確率で口の悪いヒトに出会うよ)。
そういや息子さんがいると言ってたな。
どんなヒトだろ……あ、いや、きっとこんなヒトなんだろな。
『とにかくな、謝りに行け。一人一人直接謝罪に行くんだよ。アンタらなら視付けられんだろ? なんたって揃いも揃って霊媒師だ。霊視で探し出せばいい。まさか、”霊視が出来ませーん”なんて言い出さないだろうな。ミエミエな嘘はつくなよ? 霊視が出来ない霊媒師がいたらツラを拝みたいわ』
あぅ……ちょ、みんな、そんな顔で僕を視ないで、チラチラ視るとかもヤメテ、どうせなら突っ込んで、笑い飛ばしてくれぇ、……ぐは。
みんなはザワついていた。
衝撃を受けた顔で(ガガーン!的な)一斉に喋り出す。
『た、確かに! 悪い事をしたら謝るべきだ』
『当たり前の事なのにな、まったく頭に浮かばなかった』
『えぇっとー、森木もです、はい。思いつきませんでした』
『だけどさ、俺達幽霊だし大丈夫かな。視えないんじゃないのか?』
『それは心配ない。相手に霊力がなければ”非常用チャンネル”を使えばいい。要は夢枕に立つんだ』
『被害者……何人くらいいるだろう。全員をまわったら数年単位でかかるかもしれん』
『だがお嬢さんの言う通りだ、謝りに行くか、』
『そうだな。ならば計画を立てよう。なんてったって数が多い。闇雲じゃあ駄目だ』
あ……みんなの表情が変わった。
目的が出来たというか、悲痛なだけの暗い瞳に力が宿り始めてる。
いいなぁ、こういう雰囲気、嬉しいなぁ。
トモさん、まさかこうなる事を予想してたのかな……?
「トモさん、……あの、ありがとうございます」
僕が言うのも変かもだけど、お礼を言わずにはいられなかった。
トモさんは『んー?』と僕に振り返る。
『なにがアリガトなんだ? アタシは何にもしてねぇよ。悪い事をしたらキチンと謝れ、当たり前の事を言っただけだわ。にーちゃんもそう言われて育っただろう?』
「はい、言われました。母だけじゃなく父にも。そういえばトモさんには息子さんがいらっしゃるんですか?」
みんなは丸く輪になって謝罪計画を立て始めた。
その間、チャンスとばかりの質問タイム(3ターン目)。
『ああいるよ。これがまたクソ可愛いんだ』
「あはは、クソ可愛いって。なんだか愛情を感じるなぁ。息子さんはおいくつですか? ご健在です?」
聞いて良かったかな、言った後で少しドキドキ。
トモさんって視た目は若くて20代の前半だ。
でも死者の容姿は実年齢と直結しない。
実はすっごいお年を召されて、息子さんもこの世の人じゃないかもしれない。
なのにこんな聞き方、悪かったかな?
僕の密かな心配は杞憂に終わった。
『ははっ! チョーご健在だよ。仕事も真面目にやってるし、風邪一つ引かない健康体だ。年は、……あれ? 年はいくつになったんだ? アタシの中では二十歳でとまっちゃってるから……んーんー、とりあえずイイ大人だよ! それよりな、……ふふふ、アイツ最近結婚したんだ。相手の子がまたスッゲー良い子でさぁ! もー最高にハッピー! なんも言う事ねぇや!』
ぱぁ!
トモさんが満面の笑みを浮かべた時、咲き乱れる百色華がぶわんと一気に赤く染まった。
すごいっ、嬉しい気持ちがリアルタイムで反応してる!
「それはおめでとうございます。良かったですねぇ」
『うん、すっっっっげーーーーー嬉しいよ! 本当はさ、アタシもお嫁さんに挨拶したかったんだけど……そうもいかないだろ? だからコッソリ陰から視てた。いつか黄泉で会えるから、その時の楽しみにしようと思ってな』
そっか……という事は息子さんやお嫁さんに霊感はないのかな。
それなら非常用チャンネル、夢枕に立てば良いのに……と思ったけれど、そこまで言うのはお節介かと、前を視たまま頷いた。
『んー? んー。あのさ、さっきから気になってたんだけど、何でにーちゃんはアタシを視ないの? 下視てるか首元視てるかだよなぁ。なんかヘンじゃねぇか?』
「え゛っ!?」
いきなりそんな質問が来ようとは思ってもみなかった。
当然のあばばばば、当然の挙動不審、理由はあるけど言いにくい。
恥ずかしいから出来る事なら言いたくない。
「そ、そんなコトないですよ。気のせいじゃないですか?」
曖昧に笑いつつ煙に巻こうとしたけれど、トモさんは口を尖らせ食い下がる。
『その態度、怪しいな。もしかして、隠し事でもあるんじゃないのか? やましいコトがあるから視れないんだろう。それ、もしかしてアイツらに関係する事か? もしそうなら全部言え、隠すと痛い目に遭うぞ』
声に凄みが加わった。
痛い目って物騒だ、てか飛びすぎ、話をややこしくしないでー!
「やっ! 違いますって! みんなはまったく関係ない、完全に僕自身の問題でして、その、あの、やっぱ言わなきゃダメ?」
圧がすごい、迫力で詰め寄られ、僕は泣く泣く理由を話した。
すると、
『はぁ? そんなコト? 原因はパイオツか。マジか、にーちゃん、純情じゃねぇか』
理由を知ってカラカラ笑うトモさんは、バシィッと僕の背中を叩いた(2回目キターーーー! 力強ーーーー!)。
「ちょっと! そんな、パ、パ、パ、パ、……! ダメだ……これ以上言えないよ。と、とにかく! なんか上着を着てください! てかそのタンクトップ! どこでそんなの売ってるの。もしかして黄泉? 黄泉の国なの?」
気恥ずかしくって話を逸らそうと試みる。
その服どこで買ったのー? コレ、女子の話の定番!(と思ってる)
トモさんは定番話に答えてくれた……のだが、その答えはトモさんの正体へと繋がっていたんだ。




