第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー102
重い沈黙が流れる。
先代も瀬山さんも黙ったままで、ただジッと僕らを視ていた。
みんなは霊体を強張らせ、唇を噛む者、目をギュッと瞑る者、爪が喰い込む程拳を握る者……それぞれだったが、辛さと後悔、あとはこれでもかと自分を責める悲痛が伝わった。
僕は……僕はさ、なんだかすごく腹が立ったんだ。
トモさんは空で視てたって言ってたよね?
どこからどこまで視ていたのか知らないけど、それでも、視てたんでしょう?
それなのにそんな言い方ないじゃない。
生者を襲ったこの霊達は、襲った分だけ苦しんだ。
今だって苦しんで、だからこそ、救われようとしないんだ。
…………クソッ!
先代、瀬山さん、大福、トモさんとは友達なんだよね?
なのにごめんなさい。
僕はこれからみんなの友達に生意気を言います。
「ちょっと良いですか?」
思い切って話しかけた。
緊張するな、手のひらに汗が滲む、でも強張るみんなをそのままにしたくない。
『あぁ? なんだよ』
返事をしたトモさんは、目から力をフッと抜くと真面目な顔を僕に向けた。
話、聞いてくれるみたいだ。
「あの……僕らの事、空から視てたって言ってましたよね? もしかして全部は視てないですか? さっきの間違ってます。みんなは”悪霊”じゃない、”元悪霊”です」
トモさんって背も高いんだな、僕を余裕で視下ろしてる。
迫力、ハンパないや。
でも大丈夫、おくりびの面子でそういうのには慣れてるからね。
後ろからはいぶし銀の慌てた声、『岡村、良いんだ、本当の事だ』とかなんとか言ってるけども、軽く手を上げお黙り頂く。
「確かにみんなは生者を襲いました。そのせいで怪我人も沢山出た、でもね、長は『生者を殺せ』と命じたんです。だけど1人も殺さなかった。本当に悪霊なら迷わず殺したはずだ。でもそうしなかったのは、良心と、霊媒師としての誇りがあったからです」
ふうん、微かに頷くトモさんは、僕とみんなを順に視た。
だけどなにも言ってこない。
僕はかまわず話を続ける。
「被害者からすれば、そんなのは言い訳だと言われるかもしれない。だけどみんなは脅されてた。長は霊力の強い悪霊で、逆らえば魂を喰われ、毒の実験台にされ、命令に背けば家族を殺すと人質に取られ……そんな状態が何年何十年と続き、強い恐怖に支配されたんだ。誰も助けに来ない絶望の中、発狂したっておかしくない。それでもみんなは生者を殺さず、歯を食いしばって耐えてきた。そして今日、みんなは長を滅して未来の惨事を食い止めたんだ。だから……”悪霊”なんかじゃない、”元悪霊”です」
思わず力が入る。
僕は自分でも驚くような大声を出していたんだ。
話し終えた沈黙に、僕はなんだか落ち着かなかった。
トモさんは怒っているかな、一方的に喋った僕に呆れてるかもしれない。
まともに視れば胸元が気になっちゃうから、僕はトモさんの口元ばっかり視てたんだ。
ツヤツヤした赤い色、唇の両端が上を向いた。
『ははっ! にーちゃん熱いねぇ! そっか、”悪霊”じゃなくて”元悪霊”か。モッチー達も言ってたよ、『今は良い子になった』って。疑って悪かった、本当だったんだな。だってさ、にーちゃんの目がマジだし、すっげー必死だったし。それにソッチのアンタら。アタシの挑発に乗らないのな。『脅されたからだ』とか『仕方なかった』とか言わねぇし』
さっきの圧はなんだったんだ? そう言いたくなるくらい。
トモさんはガハハと笑ってノリが軽い。
ギャップにちょっとビックリするけど、分かってくれて嬉しくなった。
てか先代達、トモさんにみんなの事話してたんだな。
いつの間に? ……あ、もしかして、途中でいなくなった時か?
僕がそれを聞いてみるとアッサリ肯定された。
『特にジョージがな。オヤジに脅されただけで根は悪霊じゃないって力説してよ。でもなぁ、情報部の調査書読んだら、それ差し引いても被害者の数が膨大で、ホントは悪霊じゃねぇの? って疑ったんだ。そしたら『じゃあ証拠を視せるから』って____腰抜かすかと思ったわ。だってよ、ジョージは現世に百色華を咲かせたんだぜ? この花は黄泉でしか咲けないはずなのにさ』
手ぶり身振りのオーバーアクション。
トモさんは楽し気な声でそう言った。
僕は花の下りが気になっちゃって質問タイム。
「百色華が現世に咲くってそんなにスゴイ事なんですか?」
『そりゃそうだ! 黄泉の国にあるモノは、花でもなんでも電気で構築されてるんだ。黄泉なら電気がそこいらじゅうに溢れているけど、現世じゃそこまで電気はない。じゃあココに咲く花の電気はどこから調達したんだよってなるだろう? コレ、全部ジョージの霊力だ。この量で、しかも時間で色を変える構築式を完全再現してやがる。フツーは出来ない、無理にやったら霊力が尽きて倒れちまうわ』
「マジか……やっぱ瀬山さんレジェンドだわ、パネェっすわ。……ん? でもなんでそれが証拠になるの?」
頭に疑問符、質問アゲイン。
『百色華はさ、時間で色を変えるだろ? その色は霊の幸せな気持ち、優しい気持ち、感謝の気持ち、そういったものを分けてもらって色をつけるんだ。善の心が傍にあればいつまでだって綺麗に咲く。だが反対に、悪の心が近寄れば、たちまち花は枯れてしまう。色を失くしドロドロに溶けてしまうんだ。だが視ろ!』
バッと両手を広げたトモさん。
その手の先には果てまで広がる百色華。
どの花も虹色で良い香りをさせている。
僕は……僕はさ、その綺麗な花を視てたら、どうしようもなく泣けてきたんだ。
やっぱりそうだ、今のみんなに悪い気持ちは微塵もない。
優しくて、強くて、その分過去を悔いているんだ。
『百色華、いつまでたっても綺麗なままだ。アタシがアイツら煽った時も、一輪だって枯れなかった。コレ視ちゃったらな、悪霊なんて言えねぇや。ほら、にーちゃんもう泣くな。それとアンタらさ、』
泣いてる僕の背中を叩き(って、凄い力が強いんだけど……うん、まぁいいや)、みんなに向かってこう言ったんだ。
『アンタらさ、不本意だったよな。だけど生者を襲った過去は消えない。罪は罪だ』
圧はない、でもやっぱり、そう言われてしまうのか。
救いたい、滅したくない、そう思うのは僕だけなのか。
『分かっています。充分だ。岡村だけじゃない、彰司さんにも、持丸にも分かってもらえた。それからお嬢さんにも。罪を償おうと思ってます。我々は此処で【闇の道】を待ちます』
中村さんはそれだけ言うと頭を下げた。
後ろのみんなもそれにならう。
やだ……やだよ、僕はまだ教えてほしい事がいっぱいあるんだ。
霊視もそれから口寄せだって出来ないの。
だから消えるなんて言わないで。
『ふぅん、そっか。やっぱり消えるつもりなんだな。でもさ【闇の道】っていつくるか分からないぞ? それまでココでボケッと待つのか?』
ボケっとって……トモさん、良い人っぽいんだけど、今一つデリカシーに欠けるんだよな。
でもなんか憎めないけど。
『はい、此処で待つつもりです』
『あ、そう。ふぅん、ふぅん。………………』
トモさん?
どうしたんだろ、トモさんは何か言いたげに、何かイラっとした感じに、腕を組み、中村さんをジッと視る。
『あ、あの……なにか?』
ははーん、中村さんも胸元が気になるみたいで、目を逸らししどろもどろになっている(ナカーマ!)。
で、おそらくだ、オトコの純情を理解しないトモさんは、顔を背けた中村さんにガチギレした。
『あーーーーーーっ! もうイライラすんな! アンタが一番年上? アンタが責任者? だったらシッカリしろよ! さっきから滅される滅されるってそればっかだな! それより先にやる事あんだろ!』
『や、やる事ですか……?』
え、ちょ、わからない、なに? なに?
やる事ってなに?
そのキレっぷり、そのまま中村さんを滅するんじゃないかといった勢いで、叫ぶように言ったんだ。
『ああそうだよ! アンタはガキの頃、母ちゃんに教わらなかったのか? ”悪い事をしたらちゃんと謝れ”ってよ! アタシは息子に口が酸っぱくなるほど言い聞かせたわ! 消えるんでも何でもいい、好きにしろ! だけどな、その前に被害者達に謝りに行け!』
あ……ごもっともです。




