第八章 霊媒師弥生-13
そんな僕らを見て社長は盛大に舌打ちをしながらこう言った。
「おまえら勝手な事ばっかり言ってんじゃねぇぞ!もっと真面目にやれ!いいか!よく聞け!まずジジィはこの病院の外で待機!肝試しの若いヤツらが新たに来たら、適当に脅かして建物内に入らないように追い返せ。いっぺんに複数来たとしてもジジィなら分身すれば対応可能だろ?それになんかあったらすぐに俺らに連絡取れるしよ」
あっ、アレだ。
先代の得意技、脳内に直接話しかけてくる無線みたいな連絡方法だ。
「それから弥生とエイミーは俺と一緒に建物内に入る。だが場面に応じて別行動になるかもしれんから必ずスマホ持ってくように。それと悪霊達の情報なんだが、元看護師の霊が複数で性別は男女混合。日によって人数にばらつきがあるらしい。今夜何人いるかは現時点では不明。まあ、でもこいつらは適当に流せばいい。問題はここのラスボスの元医院長の霊だ。コイツは男で60代から70代くらいの爺さんだ。爺さんと言っても動きは機敏、臓器を狙って襲ってくるから気を付けろ。油断してると腹を裂かれるからな」
ひ……!
お腹裂かれたくない……!
「それと悪霊どもに遭遇しても、いきなり滅さない事。ダメ元で成仏の意志があるか確認を取ってくれ。できれば穏便に成仏してもらいたい。だが、もしもだ。こっちの言う事に聞く耳を持たず、生者に害を成すようなら……その時は、跡形もなく薙ぎ祓え!」
ゾク……ッ
跡形もなく薙ぎ祓え____その言葉を聞いた途端、僕の背中に冷たい汗が流れた。
いつもふざけてばかりの社長の眼が、本気だった。
◆
「それじゃあ、みんな、中は暗いだろうから気を付けて行ってきてねぇ」
ニコニコと笑いながら両手をヒラヒラさせる先代と、その足元で古いロープにじゃれる大福に見送られ、僕らは廃病院内に足を踏み入れた。
入り口で社長から渡されたペンライトを手に、足元を照らしながらゆっくりと進む。
正面玄関入ってすぐにあるのは受付だ。
患者さん達が順番を待つ間、座って待っていられるように設置されたであろうソファが乱雑に置かれている。
もはや元の色がどんなだったかはわからないほど泥と埃にまみれ、所々裂けた箇所からはスプリングが飛び出していた。
そして床に散らばるのは謎の骨……ではなく、大量のゴミの山だった。
クシャクシャになったお菓子の空き袋に、ジュースのペットボトル、それからお酒のカンやビン、うわぁ、お弁当の空容器まで捨ててある。
よくこんな所で食事をする気になるなぁ。
それらがゴミの層となっているのだが、ペンライトで照らして良く見ると、その中に紛れタバコの吸い殻がそこいらじゅうに落ちていて、それを見た僕は呆れると共にゾッとした。
この病院が無人になってどのくらいの時が流れたかは知らないが、営まれていない建物に消防設備がある訳でなく、あるのは燃えやすいゴミの山。
この中で煙草を吸って、その吸殻を捨てていく事がどんなに危険な事なのか、まるでわかっちゃいない。
もしこの廃病院から出火したら……足元にゴミと瓦礫が散乱する建物内から逃げ出す事は容易ではないだろう。
いや、たとえ火災が起きなかったとしても、酒に酔った若者達がこの足元の悪い暗がりを歩き回るなんて、いつケガ人がでてもおかしくない状況だ。
さっき外で見た、社長の言葉をかりるなら “カスタムゼロのドノーマル車” 、少なくとも今夜、あれに乗ってやってきた肝試しの方が数人はいるはずだ。
早く見つけ出して、お帰り頂いたほうがいい。
それにしても、今までよく火事にもならず、大きなケガ人も出ないでこられたもんだ(T市役所の方の話だと、今まで肝試しが原因でケガ人が出たという報告は無しとの事)。
だけどそれは、たまたま今まで運が良かっただけの話なのだ。




