第八章 霊媒師弥生-12
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峠を抜けた僕達は、街道を走り住宅街へと入り込み、その住宅もまばらに消えた細い道をさらに突き進んでいく。
すると見る見るうちに街灯が減っていき、暗闇を車のヘッドライトが数メートル先を双眼に照らすのみとなった。
徐々に不気味さゲージが上がりつつある……が、今はまださほど恐ろしさを感じない。
なぜなら温度の下がらない社長の車トークが炸裂しっぱなしだからだ。
峠道ではちょっと鬱陶しかったけど(だって、ねぇ……)今はむしろありがたい。
「なっ!車って男の最高のロマンだよな!今の若いヤツらは車離れしてるなんて言われてるけど、エイミーは30過ぎた大人の男なんだからよ、なんかイカしたカッチョイイの買え!俺が最高のカスタム教えてやるから!」
「はぁ、じゃあ、車買えるくらい給料上がったら考えます」
「おっ!言うようになったな、エイミー!だけどな、そういうのが大事なんだ!目標があれば仕事にもハリが出る!もらった給料みんな車に突っ込むくらいの気合を見せろ!よし!じゃあ、給料上がるように、まずはこの現場からやっつけるか!」
嬉々とした社長の ”やっつけるか!” とほぼ同時に車が停止した。
エンジンはまだつけたまま、ヘッドライトをハイビームに切り替える。
僕は少しだけ息を呑んだ。
その煌々としたライトの先に浮かび上がるのは、ガラスは割れ、外壁は黒ずんだシミと稲妻のような亀裂が数多に走る、今にも倒壊しそうな廃病院。
「ここが……現場の……心霊病院……」
枯れた草木がざんばらに、崩れたコンクリートブロックが不規則な小山を作り、外周を囲っていたであろう古いロープが蛇の死骸のように地を這っている。
その傍には “立ち入り禁止” と、擦れた文字が残るパネルのような物があった。
泥にまみれ複数の足跡がこびり付いているのは、肝試しに訪れた若者達の痕跡だろうか。
若者達と言えば__
この不気味な廃病院の門扉の前に、随分と場違いなセダン車が斜めに停められていた。
「今日は平日で水曜日だってのに、肝試しヤローが来てるみたいね。明日仕事じゃないのかしら?それとも学生?」
後部座席で寝ていたはずの弥生さんが、身を乗り出してセダン車を見詰める。
ああ、やっぱりか。
この廃墟の中にポツンと浮いた、ピカピカのあの車は肝試しに来た人達のものなんだう。
「まったくな。子供は風呂入って歯磨きして寝る時間だろ。俺らの仕事の邪魔しやがって。しかもなんだあの車。カスタムゼロのドノーマル車じゃねぇか。たぶん親の車借りてここまで来たんだろうな」
と、ため息をつく社長。
「ま、そんな事どうだっていいじゃない。一般人がウジャウジャいたらやりにくいけど、今夜のお客様は1組だけ。とりあえず誠、その肝試し野郎共追い出してよ。ガタイのいいツルッパゲのオッサンが吠えながら近づいて行けば、それだけで逃げてくれるだろうからさ」
と、ケラケラ笑う弥生さん。
「や、でも、あんまりやりすぎると通報されて、かえって仕事がしにくくなるかもしれません。社長、ここはひとつ満面の笑みで追いかけてみてはどうでしょう?ツルッパゲの大男が笑顔で追いかけてくる、これはこれで不気味だから逃げてくれると思うんですよ。だけど暴力的でない分、通報される確率は下がるかと」
と、リスク回避の為の代案を出す僕。
「ふぁあ~、よく寝たぁ~、なに?もう現場着いたの?」
と、ムニャムニャ目を擦り、寝起きで更に癒し度の上がる先代。
「うなぁん……ゴロゴロゴロゴロ……」
と、同じく寝起きで宇宙で一番の愛らしさを振りまく大福。キャー!カワイイ!!




