第八章 霊媒師弥生-10
深夜の廃病院で時間外勤務?
それって心霊スポットで不特定多数の悪霊相手に殴り込みって事ですか?
や、ちょっと、それは、だって、ホラ、社長と行くならまだしも、弥生さんとって嫌な予感しかしない。
絶対悪霊相手に『全身タイツ野郎キターーーーーー!!』って言うに決まってる!
ダメですよね?ね?先代?止めてオネガイ!
「いいと思うけど、時間外手当については清水君に確認してね~」
あぁ……先代のOK出ちゃったよ……!
最後の砦、社長!今世の中は不景気です!深夜の時間外手当なんてダメですよね?ね?
「ああ、そこならいいよ。つかさ、それってS県のT市の廃病院じゃね?さっき会社あてのメール見てたら、ちょうどT市役所から問い合わせが来てたよ。最近ネットで騒がれてる廃病院だからよ、怖いもの見たさの若造がワラワラ集まって、近隣住民からゴミの問題とか治安や騒音の苦情が多くて頭抱えてるらしいぜ?依頼として受けりゃ儲けにもなるし、エイミーのOJTにもなるし一石二鳥だろ、コレ」
アウチ……決定だ。
くぅ!こうなったらヤケクソだ!
弥生さんが怒らせた悪霊のみなさまに、片っ端から謝罪してやる!
僕の華麗なジャンピング土下座を生者にも死者にも見せつけてやるんだからねっ!
◆
草木も就寝準備にかかる午前0時。
ここは東京都とS県を跨ぐ峠道。
山と言える程のものじゃないが、頂上にある県境を越えてS県に入り、連続カーブの下り坂を社長のソウルカーであるランサーエボリューションⅤで走行中だ。
目的地であるS県T市の廃病院は今ネットで話題の心霊スポットで、肝試しの若者達の増加で近隣住人からの苦情が相次ぎ、頭を抱えたS県のT市役所様からお祓いのご依頼を頂いたのだ。
市役所の職員様曰く、これまでもチラホラと肝試しをする若者が出入りしていたらしいのだが、ここ最近その数が急激に増えだしたのだという。
増加のきっかけというのが、廃病院で肝試しをした若者が書きこんだのであろう、
『ガチの悪霊と遭遇したんだが質問ある?』
と、いうネットの書き込みからだった。
それによると廃病院の幽霊というのは複数いて、その全員が元病院の看護師や医師らしく、怨み辛みを白衣に滲ませ、呪いの言葉を撒き散らしながら、肝試しの若者達を追いかけまわすらしいのだ。
たとえば血まみれの看護師、壁や床から身体の一部だけだしている看護師、割れた注射器で襲ってくる看護師、悲鳴のような呻き声を垂れ流す看護師等々。
そんな幽霊達の中で、もっとも遭遇してはいけないのが廃病院、医院長の幽霊だという。
もし出会ってしまったら最後、逃げられないようにアキレス腱を切られ、痛みと恐怖で泣き叫び、「助けてくれ!」と命乞いする若者を嘲笑いながら腹を切り裂き臓器を啜り喰らうというのだ……。
怖すぎる。
ここまで凶悪な悪霊達相手に突撃訪問&強制お祓いなんて絶対無理。
どんな怨み辛みでこの世に留まっているのか知らないけど……それでも彼らの話を聞き出す事ができればまだ望みはある。(と、思いたい)
けど、いつ弥生さんの爆弾投下が(”全身タイツ野郎”発言とかね)あるかわからない状況では、それも難しい。
僕の華麗なジャンピング土下座だけで夜が明けてしまうかもしれないし。
そりゃあね、格闘系霊媒師と呼ばれる社長や、強引に霊を縛り上げる事のできる霊力自慢ちからじまんの弥生さんなら、そんなに怖くもないだろうけど、放電と言霊しか習得してない霊媒師としてレベル2の僕じゃあ、逆立ちしたって勝ち目はない。
ふぅ、と小さく溜息をついて僕はルームミラーで後部座席を見た。
後ろのシートには弥生さんと先代、そして先代の膝の上でアンモナイトのように丸まった大福がぷーぷーと鼻を鳴らしながら熟睡していた。
ぷーぷーって……あのちっちゃい鼻にハナクソでついてるのかな?
鼻息でハナクソがブルブル震えて、鼻笛みたくなってるのかも。
って、ぐはっ!
大福かわいいすぎるだろ!
ハナクソすらかわいいって、もうプロだな。
職業は"カワイイ"だな。
……
…………
あぁ、そうか、そうだよ。
今夜、お祓いの現場に大福を連れてきてしまったんだ。
危ないから置いていこうとしたのに、着いて行くといってきかなかった大福は、僕の大事な大事な、世界で一番愛おしい幽霊猫だ。
連れてきたはいいけど、大丈夫だろうか?
また、大福になにかあったら、僕は生きた心地がしない。
あぁ!
しっかりしろ!岡村英海!
医療系悪霊軍団がどんなに恐ろしかろうと、大福を守れるのは僕しかいないんだ!
こんな弱気でどうする!
大福にかすり傷1つだってつけさせない!
そうだ、そのためには今この道中だって無駄にはできない。
対悪霊戦という事で社長にコツを聞いておこう!




