第八章 霊媒師弥生-8
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「どうぞ、」
人数分の熱いお茶を先代から順番に出していく。
大福には持参した紙皿(小)2枚に、それぞれ水と猫用高級カリカリを数粒。
大福はいつだって猫用ごはんの前でうにゃうにゃと咀嚼の素振りを見せる。
よくわからないけど喜んでるならそれでいい。
みんなのお茶が出揃ったところで、弥生さんの講義が始まった。
「エイミーちゃんがお茶淹れてる間に誠から聞いたんだけど、なによ、すでに幽霊の飲食はOJTで実際に見たって言うじゃない。じゃあ、もう、説明するまでもないか」
えぇ!
始まって早々、なんで撤収ムードなんですか!
「いや、待ってください!確かに先週の現場で霊のみなさんとケーキとお茶を頂きましたが、復習の為にもう一度教えて頂けるとありがたいです!あの時はなにがなんだかわからなかったし、」
「そお?つったって、たいした話じゃないけどさ。まあ、せっかくココに霊体である先代もいる事だし、一応説明しとくか」
んじゃあ、と、オフィスチェアーをクルリと回転させて、隣に座る先代に身体を向けた。
一方先代はというと、キラッキラに目を輝かせ「はよ、はよ」と弥生さんを急かしてる。
どんな時でもニコニコと動じない先代にしては、そわそわと落ち着きがない、よほど芋饅頭が好物なのだろう。
「いい?生者は生きる為、身体を動かす為にカロリーを消費するでしょ?そのカロリーは肉、魚、野菜、といった食べ物から摂取するの。だけど死者は?肉体のない死者がこの世に留まる為、その幽体を動かす為にカロリーのかわりに電気を使う、逆に言えば単純に動くだけなら食物は必要ない、ここまでは覚えてるかな?」
「はい。霊体はその電気信号を核にして、個々の抱える怨み辛み、心残りを燃料に動き回るんですよね?」
「そうよ。生者と死者、両者それぞれ必要とするモノは違う。でもね、死者だって元は生者。好物だったもの、思い出の詰まった味、生前最後に食べたもの、それぞれ思い入れはあるでしょう。肉体を失って実際に食べる事はできない、でも叶う事ならもう一度って願うのは自然な事だと思わない?」
弥生さんの講義を聞きながら、その横で「はよ、はよ」と身体を揺らす先代が気になって仕方がない。
どうやら先代だけで芋饅頭を食べるのはできないみたいだ。
さっきから弥生さんをせっついている事から、彼女がなにかしないと食べられないのだろう。
だけど弥生さんの講義はまだ続き、先代はおあずけを食らったままだった。
「エイミーちゃんは実家暮らし?」
「いえ、今はアパートで猫と暮らしです」
「そう、ご実家にお仏壇はある?」
「ありますね」
「お仏壇にお供え物するでしょう?毎日のごはんとお水の他に、果物や仏様が好きだったお菓子とか」
「します、します」
「お供えしてお線香上げて手を合わせて、その時、なんとなくでも『生前これが好きだったよなぁ』とか『生きてたら喜んで食べただろうなぁ』とか思わない?」
「そういえばそうですねぇ。実家ではウチの母親がよく言ってました。『お婆ちゃんは柿が大好きだったから』とか。もちろん僕も思いましたけど」
「そう、それ!そこ!なんとなくでいいの。生者が死者を思い出し、目の前の食べ物と死者を思考の中で結びつけてあげる。そうすると仏様にも食べさせてあげたかったなぁという想いが生者の脳内で電気信号に変わるから、受け取り側の死者が持つ電気の力で一気に引っ張り引き寄せる。すると物理的に食べ物を食す事はできなくても、死者の中にある味の記憶が口の中で再現されるのよ」
なるほど……。
そういえば藤田家と一緒にケーキを食べた時、それぞれの前にケーキは出したけど、みんな口をモグモグさせながら、甘い!とかおいしい!とか言うだけで、実際に口の中に入れて食べるという行動はなかった。(ケーキはそのまま残り僕とユリちゃんで食べた)
さらに言えば、生者であるユリちゃんは「ママ!ケーキだよ!これね爺ちゃんがママに買っていこうって言ったんだ、」と、確かに言っていた。
そうか、あの時あの一言があったから、お父さんもお母さんも田所さんもケーキを食べる事が……いや、正確に言えばユリちゃんの家族に食べさせてあげたいという気持ちが電気信号となり、その気持ちを受け取った家族みんなの口の中にケーキの味が再現されたんだ。




