第八章 霊媒師弥生-5
「岡村くぅん。ちょっとちょっと」
その声に振り向けば、先代が僕に向かってちょいちょいと手招きをしていた。
「なんですか?」
「うん、あのね、大福ちゃんの事なんだけど、」
「あ、はい!なんか騒がせてしまってすみません。……あれ?僕、この子の名前が大福だって言いましたっけ?」
「ううん、聞いてない。霊視して名前がわかったの。勝手に視ちゃってごめんね。この子が社内に入れる方法を探るのに必要だったんだ。それでね、もう大丈夫だよ。会社の結界はもちろんだけど、余所で張られた結界もよほど強いものでなければ出入りできるようにしたから」
「本当ですか!?」
「うん、本当。大福ちゃんってただの幽霊猫じゃなかったんだねぇ。まだなりたてホヤホヤだけど二尾の猫又だよ。普通の幽霊猫と違って人の言葉もわかるし、知識と力をどんどん吸収する器を持っている、この子伸びるよぉ、楽しみだねぇ」
「えぇ!大福ってそんなにスゴイ猫だったの?尻尾の先が割れてたから猫又だとは思ってたけど……」
「本当にこの子すごいよ。霊視でそれがわかったから私の霊力を少し分けてあげたの。普通の幽霊猫なら人の霊力なんて拒絶反応起こしちゃうけど、大福ちゃんはあっという間に自分の中に取り入れちゃった。だからもう結界の通り抜けなんて朝飯前。これで会社でも一緒にいられるよ」
「うわぁ先代!ありがとうございます!僕絶対無理だと思ってた!大福、良かったなぁ!」
嬉しい!すごく嬉しい!
新人のクセに猫連れて出勤しちゃった事を咎められるどころか、一緒にいられるように助けてもらえるなんて!
この優しさには仕事でお返しさせていただきます!
今週も研修頑張ろうっと!
◆
「事務の人また辞めちゃったの?」
紙コップに淹れたコーヒーをグイッと飲みながら、交通費の清算をセルフでしている弥生さんが呆れた声を上げた。
そっか、ウチって今、事務員さんいないのかぁ。
そう言われてみれば面接の時も、座学中も、社内にいたのは先代と社長だけだったな。
「そーなんだよ。この建物はしっかり結界張ってるし霊が社内に入る事もないのによ。入ってしばらくすると『やっぱりなんか怖いです』とか言って、すぐ辞めちゃうんだ。今はまだいいけど早く誰か来てもらわないとヤバいよなぁ。これから夏で繁忙期になるっつーのに、俺だけで受付から事務処理とかできねぇよ。誰かいねぇか?幽霊にアレルギーがなくて、すぐ働けて、長く勤めてくれるようなヤツ」
やれやれみたいな両手を上げるリアクションで溜息をつく社長。
腕組みをして唸る弥生さん。
大福とキャッキャと遊んでいる先代。
僕はそんな中、おずおずと手を挙げた。
「あのぅ……社長、いいですかね?事務の求人の件なんですが、幽霊にアレルギーのない現在無職で求職中の子が1人いるんですが……」
「マジか!そんなヤツがいるのか!?なぁエイミー、そいつにすぐ連絡取ってくれよ!今無職なら他で仕事決められる前に捕まえときたい!」
「そうですか?じゃあラインしてみます」
「頼む!つか、そいつ野郎?できればカワイイ女の子がいいんだが……いや、贅沢は言わねぇ!たとえゴッツイ野郎でもウェルカムだ!」
「あははは、ゴツイ野郎じゃあないです。とてもカワイイ幽霊慣れした女の子で……って、わかりませんか?ユリちゃんですよ」
「マイガーッ!!そうか!ユリか!そういやアイツ、上京したての無職だったーっ!よし!すぐラインしていつから来れるか聞いてくれ!弥生!安心しろ!事務員すぐに決まるからな!」
歓喜の社長の横で、弥生さんも両手を上げて喜んでいる。
「良かったー!私、細かい仕事、苦手なんだよね!ユリちゃんだっけ?もう明日から来てもらってよ!そしたらエイミーちゃんの分も一緒に歓迎会しよ!飲むぞーっ!」
すごい盛り上がりだ。
だけど嬉しいのは僕も同じ。
お父さんにユリちゃんを守ってくれって言われてるし、同じ会社で働ければ安心だ。
僕はさっそくユリちゃんにメッセージを送る事にした。
良い返事がくるといいのだけど。




