第八章 霊媒師弥生-1
駅を背中に真っ直ぐ100m。
僕の足で歩けば1分程度で到着できる好立地に会社がある。
レンガの外壁に蔦が絡まる三階建ての古いビルで、玄関口の横には『株式会社おくりび』の看板が、春の陽射しに鈍く反射していた。
「あぁ、着いちゃった。休みってあっという間に終わるんだよなぁ……」
この会社に入って初めての休みは充実していた。
なんとなく出かけた散歩で猫又のお姫様と運命の出逢いを果たし、”大福”と名付けさせていただいて一緒に暮らす事になったのだ。
同棲開始からこの2日間、そりゃあもうイチャイチャ、キャッキャと……そう、例えるなら、ハチミツと練乳とチョコレートを混ぜ合わせたような甘くとろける幸せな時間を過ごしている。
昨晩だって、夜行性の大福と明け方4時近くまで眠れぬ夜を共に……にゃっはー!
思い出しただけでニヤけちゃうよ!
あ、帰りにアルミホイル買っていかなくちゃ。
昨日(今朝?)家にあったアルミホイルみんな丸めて投げまくったから、なくなっちゃったんだよねぇ。
大福はアルミボールで遊ぶのが好きみたい、アルミなんかで喜んでくれるなら、いくらだって買っちゃうよ!
「ねっ、大福!」
うなぁーん
僕の足元でエレガントに座る大福は、今日も宇宙一カワイイ。
あぁ……猫又って、幽霊猫って最高。
だって他の人には視えないんだよ?
って事は、ペット不可のアパートでも暮らせるし、物体をすり抜けるから交通事故の心配もない、そしてなにより電車に乗って一緒に外出できるんだから、もう……マーベラス!!
と、いう訳で、浮かれまくりで会社に連れてきちゃったけど……大丈夫かなぁ。
確かに一般の方々に大福の姿は視えないけど、ウチの会社の人達じゃあ全員確実に視えちゃうだろうし……。
入社して一週間の新人が猫連れて出勤って……どう考えてもダメだよねぇ。
でも……大福は霊体だ。
猫アレルギーの人にも無害だし、トイレだって行かない、人の言葉がわかるから静かにしてねといえばわかってくれる。
それにだ、今日も出社してるのは社長と僕と先代くらいなものだろう。
まだ会った事のない先輩霊媒師の皆さんは、基本直行直帰だって聞いている。
よし……ダメ元で行ってみよう。
「大福、おいで。ここが僕の勤めている会社だよ。もしかしたら……ダメって言われるかもしれないけど、大福が中で待ってていいか社長に聞いてみるからね。もしもダメだったら……お庭で待っててくれる?」
なぁん
大福は、目を細めて頷いてくれた。
か、かわいい。
どうか社長の許可がおりますように。
正面玄関のガラス扉を開けた。
僕は一歩中に入ると、扉を押さえて大福が入るのを待つ。
大福にしてみたら物理的な扉などすり抜け上等なのだが、これは僕がしてあげたいのだ。
だが、
大福の美脚が一歩建物内に入ったその時、
バチバチィッ!!!
ニ゛ギャッ!!
雷のような電気音がした!と思った時には既に遅かった。
体の小さな大福は、中に入ることなく弾けるように外に飛ばされてしまったのだ。
扉から2m程先、敷地内コンクリの上でグッタリと横たわる猫又の姿に僕は絶叫した。
「大福ーーーっ!!」
駆け寄って抱きかかえると、薄目の大福と一瞬目があったものの、そのままガクっと気を失ってしまった……!
「大福!大福!しっかりして!目を開けて!そうだ!病院!病院に行かなくちゃ!ああ!でもお医者さんに大福は視えないよ!どうしよう!どうしよう!」
僕が泣きながら大福をギュッと抱き、右往左往していると背後から声が聞こえてきた。
「モーニン、エイミー。てか、なに?休み明けの朝からテンション高っけーなー」
そこにいたのは黒地に金ラメの線が入ったジャージ上下姿の社長だった。




