第七章 霊媒師と大福ー大福視点ー2
スンスンスンスン……
清らかな水の匂いが強くなってきた。
やっと水が飲める。
えぇっと……あっ、あすこね。
私は前方に見える石甕いしがめを見た。
間違いない、石甕の横に立つ若い男が柄杓で水をすくってる。
ああ、なんておいしそうな水。
あの男がいなくなるまで待とうかと思ったけど、どうせ私の姿は見えないんだもの。
遠慮なんか必要ない。
ぴょんっと、ひとっ飛び。
私は石甕の縁に乗るや否や、水面に顔を突っ込んで夢中で水を飲んだ。
うわぁ、おいしい!
“虹の橋のふもと”の小川と同じくらいおいしい!
おいしいけど手足が濡れるのはチョット不快。
私は飲みながら途中、手足を交互にブルブルさせて水気をとる、そして、飲む、そして手足を……ふはは、これじゃあキリがないわ。
んべんべんべんべんべ……ぷっはー!!
うまい!
ごちそうさま!
トゥ!
清らかな水に大満足の私は、石甕の縁を蹴り地面に降りた。
さて、喉も潤った事だし、次は身だしなみを整えなくっちゃ。
猫たるものいつだって毛並みを艶々にしてないと。
私は迷う事無く参道の真ん中を陣取った。
テレビで見た事がある。
神社の参拝者は参道の端を歩くのが決まり事になっているって。
だからここなら落ち着いてお手入れができるわ。
まずは濡れた手足をペロンペロン。
次は……よいしょっと。
ちょっと深めに座りなおして、やわらかお腹をペロンペロン。
言っとくけど、猫のお腹がタプタプなのは決してだらしがないからじゃないのよ?
これはルーズスキンといってわざとだぶつかせてるの。
だって猫って動きが激しいじゃない。
手足をぱぁっと広げて飛び降りたり、瞬時に身体を伸ばしてジャンプしたり、そんな時お腹の肉に余裕がなければ突っ張っちゃって、柔軟な動きができなくなる。
このタプタプルーズスキンがあるからこそ、ジャッキー・〇ェンばりのアクロバットが可能になるんだから。
誤解しないでよね。
「ぷっ」
え……?
なに?
頭の上から小さく吹き出す笑い声が聞こえた。
私は思わず動きを止めて顔を上げる。
と、そこには石甕で隣にいた若い男が立っていた。
立っているだけなら気にもとめまい。
だけど、この男。
なにをどうしたら、そんなにだらしのないニヤケ顔になるのかってくらいの気持ち悪い顔で私を見ているではないか。
偶然か……?
たまたまこちらを見ているだけか?
人の子に幽体である私が見える訳ないだろうに。
私が見えてないとして、なら、なぜこの男は何もない参道を、そんなに気持ち悪い顔で見てるのか?
その時ふわりと風が吹き、私の肉球と同じピンク色の花びらが渦巻きのように舞った。
……
…………
ふむ。
まぁ、春だしな。
そういう事もあるのだろう……って、ニャニャーーーーーーッ!!
あろうことかこの男!
私に向かってゆっくりと瞬きを始めたではないか!!
キモ……
瞬き3回のうち1回の割合で白目になってる。
こやつ……やはり私が視えているのか……?
だとすると、この瞬きは男なりの友好のサインである事はなんとなく伝わるが……。
だけど、本当に私の姿が……?
いいだろう、確かめてやる。
私はすっくと立ち上がると長い尻尾を揺らめかせ、ゆっくりと男に近づいていった。




