第六章 霊媒師-大福4
◆
あの世とこの世の境。
その中でも特別な場所がある。
そこは広大な大地にたくさんの花が咲き、流れる小川の水はいつだって清らかだ。
ここは”虹の橋のふもと”と呼ばれる一角で、生前、人に飼われていた動物達が、のんびりと遊びながら飼い主が迎えに来るのを待つ事ができる場所。
犬や猫はもちろん、ウサギに鳥に亀やヘビ。
ありとあらゆる動物達が争う事もなく、実にゆったりとまったりと、愛する飼い主を待ち続けている。
あれから____
どのくらいの時が過ぎたのだろう。
病と老いに蝕まれていた肉体を現世に残し、光る道をひた走りここに辿り着いた。
黄泉の国の役人に生まれ変わりを勧められたが、私はそれを断り”虹の橋のふもと”でお姉ちゃんを待つ事にしたのだ。
ここに入場するにあたり、たくさんの注意事項やら免責事項を説明されたのだが、それを理解できた動物はほんの一握りのようだった。
私のように人の言葉や文化を理解した動物が極端に少なかくて、同時期に入場したフェレットなんて途中で居眠りをしてたっけ。
まったく……あの世という場所は、たくさんの死者を受け入れてきたであろうから、頭の良い人間や、高い技術を持った人間だって大勢いたはずだ。
その人間達に依頼して、人語を理解しない動物達との意思疎通を図れるような道具は造れなかったのか?
まあ、いい。
きっとそんなものはいらないのだろう。
ここにいた動物達は時は違えど、次々に飼い主が迎えに来て感動の再会を果たしている。
いつぞやの居眠りフェレットも厳つい大男が泣きながら迎えにきていたのだから。
ここでの私は人間界で言う”ボス”のような存在になりつつあった。
新しく入った動物達は必ずと言っていい程、私に挨拶にくるのだ。
それだけ長いことこの場所にいるという証拠なのだが、それでもいいと思っていた。
迎えが来ないという事は、それだけお姉ちゃんが長生きしてくれているという事なのだ。
ある日、私の元に新入りが挨拶に来た。
それは私の毛皮に負けず劣らずの純白のハムスターで、猫である私を見てブルブルと震えていた。
「私はネズミを捕って食べたりはしないから安心していいわ。ここにはたくさんの食べ物と清らかな水があるんだもの。私だけじゃない、ここにいる動物達は争い事を好まないの」
白いハムスターは私の言葉は理解できていないようだったけど、香箱座りで爪どころか手も出さない私に安心したのか、やがて小首を傾げて尻の下に隠していたヒマワリの種を差し出した。
「私にくれるの?」
そう尋ねると、種を手に持ったまま恥かしそうにお尻をフリフリさせている。
「ありがとう、いただくわね」
あまり大きな口を開けたら怖がらせてしまうと思った私は、人で言うおちょぼ口で種を受け取った。
ハムスターは嬉しいのか、ピョンピョンと跳ねている。
「ハムスター、あなたの名前はなんていうの?私は小雪、雪のように白いからってお姉ちゃんがつけてくれたの、って言ってもわからないか……」
ハムスターは話を聞き終わる前に、ことわりもなく私の身体によじ登りはじめた。
そして背中まで到着すると、あろう事かそのまま寝息を立てて眠ってしまった。
「呆れた……」
初対面で、しかも最初は震えていたのに、このマイペースっぷりはなんなの?
この無礼なハムスターをどうしてくれよう……。
私は考えた末、生意気なハムスターを起こしてしまわないように、また背中から落ちてしまわないように、半日もの間、あたたかい陽だまりでただじっとしている事にしたのだった。




