第六章 霊媒師-大福2
単純なままで良かったのに。
私はそう何度も思った。
言葉がわかるという事は、聞きたくなかった、知りたくなかった事もわかってしまう。
15才を過ぎた頃から思うように身体が動かなくなったのは”老化”が原因なんだそうだ。
年を取ると徐々に身体が衰える。
衰えてくるとやたらと眠くなり、1日のほとんどを寝て過ごす。
食欲がなくなり、遊びに興味が持てず、高く飛ぶことも、早く走る事も難しくなる。
そして更に年を取ると、やがて身体は動かなくなり死んでしまうのだ。
私は恐怖した。
“死”というものがなんであるか、それは解っていたつもりだ。
だが、短い路上生活で見てきた仲間の死というものの大半は、交通事故によるものだった。
私は完全室内飼いの猫。
家の中はどこに行っても咎められる事はない。
後から知った事だが私がどの部屋に行っても危険がないように、お姉ちゃんが、家族が、家具や置物に相当の配慮をしてくれていたのだ。
ゆえに家の中は絶対的に安心できる。
当然、車だっていない。
私が交通事故に遭う確率はゼロに等しい。
だから勘違いしていたのだ。
“年を取って老化”が進んでも、身体がだるくなるだけで死ぬ事はないと、いつまでも永遠にお姉ちゃんと一緒にいられるのだ、と。
それが大きな間違いだと知ったのは、ある寒い日の事だった。
その頃の私は食べたモノを吐いてしまったり、おしっこの時にお腹がいたくなったりと散々で、お姉ちゃんはそんな私を心配して、嫌がる私を車に乗せて”大嫌い”な病院に連れて行ったのだ。
そこで__
私の毛皮同様、真っ白な服を着た男とお姉ちゃんの会話ですべてを知ってしまった。
「腎臓の数値が良くないです、これは……もう、」
腎臓というのはどうやら私の腹の中にある大事なモノらしい。
その数値がどう良くないのかは解らないが、「これは……もう、」と言いかけた男の言葉を遮るように、お姉ちゃんはこの世の終わりのような声を上げて泣きだした。
お姉ちゃん、どうしたの?泣かないで。
あぁ、そうか、わかったよ。
虫が出たんでしょう?
だいじょうぶ、また前みたいに私が捕まえてあげるから、だから泣かないで。
私は痛む身体をなんとか捩じり、重い頭を上げた。
私は目線をあちこちに投げ虫を探す。
どこだ?どこにいる?
お姉ちゃんを困らせる虫は私が許さない。
"老化"したって衰えたって、虫くらい捕まえられるんだから。
んー、おかしいなぁ。
いくら探しても見つからない、もうちょっと身体が動けば……と、思ったその時、お姉ちゃんが崩れるように、私の上に降ってきた。
私を潰さないように肘を着いて、耳元でわんわんと響く泣き声が切ない。
そして、
「嘘でしょう?先生!?小雪、死んじゃうんですか!?なんとかならないんですか!?」
この世の終わりのような悲痛な叫び声。
自分の耳を疑った。
え……?
私、死ぬの?
白衣の男の揺るがない肯定に、お姉ちゃんは力なくうなだれた。




