第五章 霊媒師休日4
僕はさらに続ける。
「シロネコちゃんはこの神社の護り神なのかな?気品があるし神々しいねぇ」
神々しい、僕がそう言った途端、白猫は姿勢正しく(猫だから猫背だけど)優雅に座り、目を閉じて片手を上げた。
え!?
ブッタ!?
今のポーズはブッタ!?
僕は偶然とは言い難い、「神々しい」というワードと関連性の高いブッタポーズに、唖然とし黙り込んでしまった。
まさか……この仔、本当に人語を理解してるのか?
いやいやいや……まさか……でも……絶対にないとは言えないんじゃないか?
だって実家の猫、きなこ(茶トラ12才)は「ごはん」「おやつ」「あそぶ」この3つに限り完全に理解してるぞ?
「………………」
僕は偽香箱座りの格好から上半身を起こし、正座しながら白猫を観察する。
白猫は僕の視線に気付いてか、ごまかすように毛繕いを始めた。
ああやってベロンベロンしているのを見れば普通の猫なんだよなぁ。
大体、ブッタのポーズだ!なんてびっくりしたけど、あれは招き猫のポーズだったのかもしれないし。
いや待て、この際ポーズの種類はどうでもいいだろ。
それより……僕は実家の両親の言葉を思い出していた。
『きなこは12年も人と暮らしてるから、人語のヒアリングは完璧』
僕以上の猫バカ両親のいう事だから話半分にとどめるとしても、その意見を真っ向から否定することはできない。
でもなぁ、「神々しい」は「ごはん」「おやつ」「あそぶ」とは別次元のワードだ。
猫の好きな食べ物やおもちゃのどれとも掠ってもいない。
それに「神々しい」と声を掛けたあのタイミングでのブッタのポーズ(招き猫かも?)って信じがたいが意味がわかってやったとしか思えない。
そして固まる僕を前に、ごまかすような毛繕いもワザとらしい。
深まる疑惑。
僕はそれをハッキリさせるため、白猫にカマをかける事にした。
「シロネコちゃぁん、かわいいねぇ、」
うにゅん!
コクビカシゲー!
「ツヤツヤ毛並みがキレイだし、」
うなーん!
ウエムイテ トクイガオー!
「だけどお腹はタプタプでオッサンみたいだねぇ、」
オアァア゛!?
ニ゛ャッ!!ニ゛ャッ!!
シッポ ビタンビタン!!
おぉ!
切り分け成功!
白猫は腹のタプタプを気にしてたのか、それとも「オッサンみたい」と言われたのが気に入らないのか、「かわいい」「きれい」の時とは違って、あからさまに態度が違う。
長い尻尾をビタンビタンと地に叩き、桜色の鼻にシワを寄せた不機嫌顔で僕を睨みながらフシャーフシャーと文句を言っている。
間違いない……!
信じられない事だけど、この仔は人語を理解してる!
僕は「かわいい」も「きれい」も「タプタプオッサン」も同じ甲高い声でゆっくりと、リズムも変えずに笑顔で言った。
この3つの中で不機嫌になったのは「タプタプオッサン」だけだった。
て事は、この仔は人間の発する声のトーン、リズム、スピードだけで人語を判断してるのではない。
人語を、言葉を、文章を、なおかつ人間の文化も理解しているのだ。
「タプタプオッサン」が一般的に悪口だと理解してのお怒りなのだろう。
ただこれだけは言っておきたい。
猫という生き物は、(犬も鳥もハムもウサギもだけど)たとえ「タプタプ」でも、「オッサン」でも__もっと言えば、白目むいた不気味な顔で眠ろうとも、年を取っても、なにしてもかわいいのだ。
だから白猫に対しての「タプタプオッサン」は、僕の中では悪口ではなかったのだけど……
______と、いった事も含め、元お客様相談センター勤務だった僕は、相手が人でも猫でも関係ない、不機嫌な白猫に誠心誠意、心から謝罪した。
そして出逢ったばかりではあるけれど、僕がどれだけキミという白猫に惹かれてしまったかという熱い想いをこの際だからと延々と語らせてもらった。
序盤こそ気分良さげに愛の語らいを聞いてくれた白猫だったけど、いつまでも終わらない話に飽きたのか、ザッザッザッと、僕に向かって砂をかけるような仕草をし、長い尻尾をビタンッ!と地に叩き付けた。
僕はハッとする。
しまった!話が長くて白猫を怒らせてしまったようだ!
あぁ……そんなジト目で僕を見ないで……って、いや!やっぱり見て!
猫という生き物はキュルンとした黒目もかわいいけど、蔑むようなジト目もまたかわいいんだよなぁ!もうっ!もうっ!もうっ!
あぁ!かわいい!
だめだーーー!!
もうガマンできないーーー!!
紳士の仮面が砕け散り、猫欲にまみれてしまった僕は、両手を差し出し白猫の脇の下に手を潜り込ませるのと同時に、ヒョイとその体を抱き上げた。
突然の抱っこで白猫はいやがるかと思ったけど、意外にもすっぽりと僕の胸の中に収まってゴロゴロと喉を鳴らしはじめた。
良かった……嫌がっても怖がってもいないようだ。
あぁ、それにしても思った通りの手触りだ。
フワフワでなめらかで高級なベルベットのような質感に思わず溜息が出てしまう。
僕を見上げるその瞳は黄金色に輝いて、世の宝石がただの石ころに見えてしまう程に美しい。
この柔らかさ!この肉球!この猫耳!
そして、そして、
「ハックション!うー!寒っ!」
白猫を抱っこした僕の身体は全身鳥肌が立ちまくっていた。
この愛しき大きめの毛玉から、今この瞬間もリアルタイムで体温が奪われていく。
猫に触れた時に感じた氷のような冷たさ。
ひゃっ!と声を上げそうになったものの、ただでさえ突然の抱っこで驚かせているのに、大きな声で追いうちをかけたくなかったから必死に声を呑み込んだ。(それを上回るかわいらしさにやられてたのもあるけど)
猫ってさ平熱は39度くらいなはずだよね?
デフォルトでホッカホカなはずだよね?
なのにこの冷たさは、まるで氷か先代かっていうレベル。
うなぁん。
相変わらずゴロゴロとエンジン音を響かせて、甘えた声を出す白猫は体調が悪い訳ではなさそうだ。
じゃあなんでこんなに冷たいんだ?
あぁ、もしかして、これは可能性のひとつだけど……僕は白猫を抱いたまま、片手を湾曲させて精神を集中させた。
数秒後、線状の赤い光がバチバチとスパークしながら指に絡み始める。
僕は電気を帯びたままの人差し指を白猫の鼻先に向けた。
軽いご挨拶、そのつもりの白猫は人差し指にむかってウニュンと首をのばした。
その時、
バチバチ!
あぁ、そうか。
やっぱりそうだったのか。
僕の指先から放出された赤い電流は、しっかりと白猫の鼻先に繋がっていた。




