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霊媒師募集  作者: たまこ
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第五章 霊媒師休日1

「岡村さーん!」


ヒマワリのような明るい笑顔で、両手をぶんぶん振りながら走ってくるのは藤田家のアイドル、ユリちゃんだ。

一面芝生の絨毯が広がるここは……公園だろうか?

上を向けば抜けるような青空に、綿菓子のような雲がぷかぷかと風にのって流れていて……ああ気持ちの良い天気だ。


「岡村さーん!」


楽しげなリズムで跳ねるように走るユリちゃんは、黒地に金ラメの線が入ったジャージ上下を着用中。

あれって社長も似たようなの着てなかったっけ?

深夜のコンビニ前でしゃがみ込む方々専用服みたいなヤツ。

18才の女の子の私服にしてはチョットどうなんだろう……あ、でも僕が知らないだけで若い子の間ではああいうのが流行ってるのかもしれないぞ。

どっちにしたって女の子の服装にアレコレいうのはいただけない。

黙っている事にしよう。


「岡村さーん!」


目測100m。

無邪気に走るユリちゃんと僕の距離は徐々に縮まっていく。

と、その時。

ユリちゃんは走りながらジャージの胸元のシッパーを少し下げるとおもむろに手を突っ込んだ。

で、次の瞬間。

ズザッと引き出したその手には、細長い……傘……?いや違うな、ステッキ……だろうか?

ラブリーなピンクのステッキの先端には拳くらいのハート型の赤い石が付いていて、ダイヤモンドのようにカットされているから太陽の光に反射してキラキラと輝いている。

かわいいなぁ。

でもなんでステッキ?

てか、ジャージの中にあんなの持ってたなんてびっくりだ。

にしても、どこかで見た事があるような雰囲気が……って、あれだ!

アニメとかに出てくる魔法少女の皆さんの大半が所持してる魔法のステッキに似てるんだ!

ユリちゃんってそういうのが好きなのかな?


なんて呑気に考えていると、サラサラの髪をなびかせた黒地に金ラメジャージのユリちゃんは、魔法ステッキを大きく振りかざし僕の目の前で足を止め、先程までのヒマワリのような笑顔から一変、黒バラのような美しくも冷たい表情に変わった。

そして母親である貴子さんより少し低い声でこう叫んだ。


「臨!兵!闘!者!皆!陣!列!在!前!」


えぇ!?

ユリちゃんいきなりどうしたの!?

魔法少女御用達のファンシーなステッキを、臨!で横に切り、兵!で今度は縦に切る。

闘!で横に、者!で縦に、と、一文字一文字叫ぶごとに横と縦を交互にステッキで風を切っていた。

魔法少女の呪文にしては渋すぎる。

それって本格的な呪文の九字切りだよねぇ?


「臨!兵!闘!者!皆!陣!列!在!前! 我に降りかかる厄災を薙ぎ払い、我を守り我に勝利を!九字切り!そして変身っ!」


変身!の掛け声と共にビシッとステッキを僕に向ける、と同時にぼふんと煙幕が立ち上がりユリちゃんの姿は煙のなかに消えた。


ちょ……えぇ……!?

意味がわからないまま茫然と立ち尽くしていると、まだ濃い煙の中から聞き覚えのある爆音が響いた。


ギュイィィン!!


やっ!!

ちょっと!!

この音は!!


ギュン!ギュン!ギュン!ギュイィィィィン!!!


『っだらぁぁぁぁ!!岡村馬鹿野郎!!』


耳を劈く爆音、そして振動、そして怒鳴り声。

そして僕の目の前で十戒のごとく煙が割れた。


中から現れたのは……あ、あ、あ、悪鬼だぁ!

脇を締め、愛機のチェーンソーを自身の腹筋に押し当て、唸る刃先を僕に向けている!


「お、お、お、お、お、おと、お父さん!いつお戻りに……?昨日向こうに逝ったばかりでしたよねぇ?はは……あはははは……おかえりなさい、なんちゃって。てゆーか、チェーンソーの電源オフにしませんか?」


悪鬼はギンッと鋭く赤い眼で僕を睨む!

こ、怖いぃぃぃぃ!!

ユ、ユリちゃん!ユリちゃんはどこ?この悪鬼を止める事ができるのは世界中探してもキミ1人しかいないんだ!お願い!助けて!今すぐ戻って!


『岡村ぁ、テメ、ちゃんとユリを守ってんだろうな?あぁ!?』


「はい!もちろん!昨日は社長と先代とユリちゃんの4人で、電気!照明!買いに行ったし、ごはんも一緒に食べたんですよ!安心してください!これからも守ります!だからお願い!成仏して!」


『いいか?岡村馬鹿野郎!ユリにかすり傷1つでもつけてみろ、そん時ぁ、テメェの血飛沫でコイツを飾りたててやるからなぁ!』


コイツってなんか擬人化っぽく言ってるけど、その使い込まれて手入れの行き届いたチェーンソーの事ですよね?

あ!はい!そうですよね!わかります!

って、なにそれ!

チェーンソーの本体に赤いハートの宝石が埋め込まれてる!

ユリちゃんが持ってた魔法ステッキに付いてたヤツですか!?

前回そんなの付いてなかったよね!?


僕の凝視に気付いたお父さんはニタァと笑うとこう言った。


『これかぁ?この赤い石はな、最初は白い石だったんだ。それがなんでこんなに赤いかって?そらぁな、昔ユリにちょっかいを出す不届きな奴らがいてよ、そいつらの血を吸って吸って吸いまくってこんな色になったんだ。岡村ぁ、テメェの血で上塗りしたくねぇだろ?だったら命懸けでユリを守れ、わかったな!』




キャァァァァァァァァァァァァ……


「ァァァァァァァァ!!!!」


長い長い自分の悲鳴で目が覚めた。

汗ぐっしょりの重い身体はすぐに動かす事ができなかった。

汗が目に入ったのかヒリヒリと染みる。

僕は力なく目を擦り、そのまま手の甲で首の汗を拭った。

見慣れた天井、見慣れたテーブル、大丈夫、ここは間違いなく僕の部屋、住んで8年のワンルームのアパートだ。

遮光ではないカーテンから春の陽射しが入り込む。

僕はベットの上でなんとか上半身を起こすと枕元のリモコンでテレビをつけた。

朝の情報番組ではお天気お姉さんが「今日は1日快晴です!」と笑っていた。


「夢……だったんだ……ヨカッターーー!!」


怖かった……お父さんの悪鬼っぷりがホラーすぎで泣くかと思ったよ。

ユリちゃんは出来る限り守ります。

だから迷わず成仏してください、とりあえず合掌。


「なんだ、まだ7時前なのか」


僕はテレビ画面のはしっこに表示されてる時間を見て笑ってしまった。

本当はもっとゆっくり朝寝坊する予定だったのに、こんなに汗かいたら気持ち悪くて二度寝は無理だ。

仕方ない、起きるとするか。

そうだ、せっかく早起きしたんだ、起きてシャワーを浴びたら洗濯して掃除して、気分転換に散歩に行こう。

だって今日と明日は休みだもの!

研修中は土日休みって言われてたけど、田所さんの現場ではなんだかんだと土日も家に帰れなかった。

その代休で月火はゆっくり休める事になったんだ!

怒涛のような一週間を乗り切ったご褒美に、散歩がてらベベに行こう。

ネットで見た春の期間限定、桜のケーキとカモミールティーを頼むんだ!

願わくば散歩の途中でかわいい猫(子)に逢えるといいなぁ。

そしたら写真いっぱい撮って、あわよくばちょっとモフモフさせてもらうんだ。


「なんか盛り上がってきたぞー!」


猫とケーキで頭が一杯になった僕は、鼻歌を歌いながらシャワーを浴びた。

まさか今日という日に運命の出逢いが待っているだなんて、この時は夢にも思っていなかったのだ……。

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