第四章 霊媒師OJT47
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霊道。
霊の為の道。
死者があの世に向かって迷う事無く進めるように、眩く光り、春の陽だまりに居るような暖かさに包まれる。
その道は進めば進む程、現世への未練が薄まって逝くべき場所へと進む事ができるという。
その道に導かれ家族はみんな逝ってしまった。
すっかりと陽が落ちて真っ暗になった部屋の中。
崩れるように座り込んだユリちゃんは声を殺して泣いている。
どのくらい時間がたっただろうか?
沈黙を破ったのは社長だった。
「おい、ユリ。電気のスイッチどこだ?」
「……電気?」
鼻をズルズル啜りながら健気に答えるユリちゃんは、こう続けた。
「そこのへやの入り口の壁のトコ。だけどスイッチ入れてもつかないよ」
「ああ?なんでだよ?」
「だって、まだ買い物行ってないから照明ないもん」
え?
そう言えば昼間みんなでケーキ食べた時も、テーブルがなくてキャリーバックを代わりにしたんだった。
言われてみれば今日1日、引っ越し業者はおろか、宅急便も来なかった。
何もない部屋の中、カーテンは?タンスは?食器は?着替えは?
まさか……丸腰?
僕は恐る恐る聞いてみる。
「ねぇ、ユリちゃん。荷物はいつ届くのかな?」
ユリちゃんは顔を上げ照れたように笑い、
「ベットとかタンスとか実家から送ってあるけど、届くのは明日だよ。照明はどうせ自分で付けられないから、こっちで買って取り付けまでしてもらおうと思ってたの。えへへ……だめ?」
うわーこの子めっちゃ大ざっぱだわ。
「いやぁ、ユリちゃんが不便じゃなければいいんだけど、真っ暗なまま布団もないのにここで寝るの?それにごはんは?あ!そう言えばガス屋さんも来てないからお風呂も使えないよね?」
「ごはんはコンビニあるし、ガス屋さんは明日来るよ!お風呂は1日くらい入らなくてもなんとかなるし!」
「ユリちゃん……いいの?それで?」
女の子が1日お風呂に入れないって大事件じゃないの?
「うん!仕方ない!今日はさ、ママに逢えると思ってたから、引っ越し屋さんとかガス屋さんの立ち合いで邪魔されたくなかったの。まさか婆ちゃんにまで逢えると思わなかったけど今日は本当に楽しかった!」
ああ、そうか。
だから、あえて今日は誰も来ないようにしてたのか。
ただの大ざっぱな子だと思っちゃってごめんね。
「ユリ!じゃあよ、今から照明買いに行こうぜ?俺の車出してやるから」
言いながら車のキーをクルクル回転させて見せるのは社長だ。
「この時間ならまだ店も開いてるしよ。取り付けも俺がやってやるから。で、ついでにどこかでメシ食ってこうぜ?」
「えぇ!いいんですか!?」
目を真ん丸にして喜ぶユリちゃんは暗がりの猫みたいでかわいらしい。
って、メシも食ってこうって、まさか社長餌付けする気じゃ……?
「ああ、いいよ。真さんにユリの事、頼まれてるしな」
「ありがとうございます!あ、でも、もう6時半ですよ……?もうお店終わっちゃうんじゃないですか?」
「ははっ!なわけねぇだろ。夜10時まで開いてるよ」
「嘘っ!!」
「マジ」
「ウチの田舎じゃ夜7時が限界だけど」
「おまえどんなトコ住んでたんだよ」
「さすが東京……」
「都下だけどな」
「じゃ、行くか。カーテンも買おうぜ」
「はい!」
飛び跳ねるように立ち上がったユリちゃんは、にこにこ笑ってとても嬉しそうだった。
僕もなんだかホッとした。
楽しかった家族の再会。
その夜に電気もないカーテンもない布団もない、そんな淋しい部屋に女の子をたった1人残してなんて帰れないもの。
「ほら、エイミーもジジィも一緒に行くぞ」
そう言って玄関に向かう社長の後を追いながら、僕らはそれぞれ元気に返事をすると社長のソウルカーに乗り込んで夜の買い物へと繰り出したのだった。
霊媒師OJT___了




