第四章 霊媒師OJT45
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『貴子、おまえに土産があるんだぞ。ほれ、ユリ、お母さんもこっちこっち』
こっちが引く程のデレ顔で家族を集めるお父さん。
『持丸さんも是非ご一緒に』
70才のお父さんより8つ年上、78才の先代にはすこぶる礼儀正しく一礼するも、
『誠ぉ!テメェも食いやがれ!こっち来いやぁ!』
社長に対してはこんな感じ。
でもまだいい方よ?
僕にいたっては、
『岡村ぁ!テメェはケィキと紙皿持って来いぃ!みんなの分切り分けろや、馬鹿野郎!』
包丁も取り皿もフォークもないからって近所の100均までパシらされて(自腹で購入)、あげく馬鹿野郎呼ばわりって……ひどくないっすか?
でもまぁいいんだ。
だってお父さん、ものすごく楽しそうだもの。
僕に馬鹿野郎と言いながらも顔は緩みきって声も優しい。
田所さんもユリちゃんもお母さんもひっきりなしに喋りながら声を上げて笑ってて、こちらもすごく楽しそう。
それにベベのイチゴケーキ!
ここのケーキが食べられるんなら文句なんて言いません!
キッチンで手を洗い、100均のビニール袋から紙皿やらを出そうとしていると、
「岡村さん、手伝います!」
シュシュで髪をまとめたユリちゃんがひょこっと顔を出した。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。ケーキ切るだけだからすぐに終わる。ユリちゃんはみんなの所でお話しておいでよ」
こうやって家族が揃うのはきっとこれが最後だろう。
死者であるお父さんやお母さん、田所さんはそう遠くないうちに黄泉の国へと旅立たなくてはならない。
だけどユリちゃんは生者だ。
一緒に逝く事はできない。
この先彼女がうんと長生きしてお婆ちゃんになって大往生で亡くなるまで、再び家族に会う事は難しい。
先代に依頼すれば口寄せで呼び寄せる事もできるけど、その時は依頼という形になるだろうからお金もかかってしまう。
だからこそ、今この再会の場を大事にしてほしい。
僕なんかを手伝ってる時間がもったいないじゃないか。
「でも2人で用意した方が早いでしょう?」
ユリちゃんは話しながら手を動かし、買ってきた紙皿やペディナイフをサクサク開封してくれる。
確かに助かるけど、でもなぁ甘えちゃいかんよなぁなんて思っていると、
「ウチの爺ちゃんがごめんなさい」
ユリちゃんにいきなり謝られて僕はポカンとしてしまった。
「え?」
「だって!岡村さんにはママがすごくお世話になったのに、馬鹿野郎なんてひどいもん。さっき爺ちゃん、ママに怒られてたからきっと岡村さんに謝ってくると思う。私からもごめんなさい」
えぇ!
いいのに!
またあの謝ってるんだか脅してるんだか、よくわからんような斬新な謝罪を受けるのかと思うと……
「ぷっ!」
「え?なに?どうしたの?」
「いや、なんでもない、思い出し笑い。あのねユリちゃん、いいんだよ。僕はみんなが楽しそうに笑ってるのを見てるだけで幸せな気持ちになれるんだから」
「でも!ママが言ってた。岡村さんがいなかったら、もっとお化けみたいなママと再会する事になったのよーって。……ねぇ、そんなにすごかったの?」
「お化けなんかじゃなかったさ。そりゃ少しだけケガの跡があったけど、それだって治したのはお婆ちゃんだ。僕はなにもしていない。それにね、本当の事を言うと、僕はまだ霊媒師になって1週間のド新人なんだ。ユリちゃんのママにはたくさんの事を教えてもらった。お爺さんだって口は悪いけど優しい人だ」
「爺ちゃんを嫌わないでくれるんだね……岡村さん、ありがとう」
「や!ちょ!ユリちゃんがそんな事言わなくていいんだよ!」
「いいじゃない、ありがとうだからありがとうなの!さ、用意できたよ!お皿とかナイフとか持ってケーキはあっちで切ろう!ママにホールのままの見せてあげたいし!」
はっ!そうか!そうだよね!
僕はキッチンで切り分けてから持って行こうと思ったけど、ベベのケーキは見た目も繊細でキレイだと評判なんだ。
それを田所さんに見せる前に切っちゃダメだよな。
ユリちゃん……さすがは女の子だ。
草食とはいえこういう時、男って本当に使えない。
反省しよっと。
「ママ!ケーキだよ!これね爺ちゃんがママに買っていこうって言ったんだ。ママはイチゴのケーキが好きだからって!お店で一番大きくて一番高いの買えってうるさかったんだよ!……あっ、そうだった!まだテーブルなかったんだ……うーん、あ!これでいっか!」
ユリちゃんは一旦ケーキを床に置くと、自分のキャリーバックを豪快に横倒しにし、ポケットから出したハンカチを広げて敷いた。
てか、ハンカチ小っさ!
ぜんぜんクロス代わりになってないよ。
女の子らしい子だと思ってたけど、この大ざっぱさは混合型なんだろうか?
『わぁ、すごい!』
田所さんが歓声をあげた。
『本当、キレイだわぁ。やっぱり東京のケーキは違うのねぇ』
と、目を丸くするお母さん。
「いやはや私まで呼ばれてしまって申し訳ない。しかし見事なケーキ!まさに職人技!」
先代は絶賛後ケーキを前に拝み始めたけど、ちょっと待って、アナタは拝まれる側の人でしょうよ。
「おい、ユリ、ロウソクどこだ?」
だから社長も!今日のこれは誕生日会じゃないですから!年の数だけロウソクじゃないですから!
「あ!ごめん!ロウソクここー!」
って、ユリちゃん、ロウソクあるんかい!
『ユリ、ここに立てろ。真ん中の一番目立つトコによ』
ロウソクを手に持つユリちゃんに、『オラーイ、オラーイ』なんてガソリンスタンドのスタッフさんのような誘導をかけるお父さん、それに合わせて真顔でゆっくりロウソクを降下させるユリちゃんに、田所さんもお母さんもお腹を抱えて笑ってる。
社長も「そこだ!もう少し!いや待て!3時の方向に修正要す!」とか参戦中。
先代も盛り上げようとしてるのか、光の速さで電気ツチノコを量産しちゃあ、その辺に放ってる。
その電気ツチノコはクネクネと身をよじらせているけど……もしかしたら踊っているのかもしれない。
僕はといえば、そんなみんなをスマホのカメラで撮りまくっていた。
まだ自覚は薄いけど、高いと言われる僕の霊力なら気合い入れて念じればクッキリハッキリとした心霊写真が撮れるんじゃないかと思って。
画面を視れば生者となんらかわりのない家族や先代が映ってるけど、どうかこれが後から見るユリちゃんにも視えますように、そう祈りながら、僕は何枚も何十枚も撮り続けていた。




