第四章 霊媒師OJT39
社長の車の後部座席にユリちゃんとお父さんを乗せ、僕らはアパートへと引き返す。
車のルームミラーに映るのは、期待と緊張に頬を染めるユリちゃんだけで、そこにお父さんの姿はない。
僕の目に視えるお父さんは、生きている人となんら変わりはないのに、振り向けば確かにいるのに、それでもこの小さなルームミラーが語る現実に切なさを感じた。
高校を卒業したばかりの孫娘を、ひとり残して逝くのは心配で仕方ないだろうに。
それでも肩を寄せ合う祖父と孫娘は、楽しげに田所さんに会える喜びを分かち合って……ん?
……うん。
そう、確かに気持ちを分かち合ってる、よな。
お互いに顔を寄せ、ユリちゃんは花のような笑顔で、お父さんはそんな顔できるんだ?ってくらいのデレた表情で、ガッツリ目を合わせ笑い合っている。
んんん?
うん……あれ?
えっとー、
「ユリちゃん?」
僕はシートベルトをしたまま半身を捻って後ろを向いた。
「はぁい?」
か、かわいいな……!
田所さんにそっくりだ(ま、お父さんにも似てるんだけど)。
それにしても、まだあどけなさの残る少女で助かった……僕は美人相手だと緊張してうまく話せないのだ。
だけどユリちゃんならギリ話せそうな気がする。
美人というより子供のような、かわいらしい要素の方が強いからだ。
さすがの僕も子供が相手なら緊張しない。
まあ欲を言えば、常に鼻水でも垂らしてくれてればよりベストなんだが。
「ねぇ、ユリちゃん。聞いてもいいかな?」
ユリちゃんは「ハイ!なんでしょう?」と姿勢を正して僕を見る。
「あのね、今更なんだけどね、あまりにナチュラルでスルーしちゃってたんだけど、お父さん……いや、お爺ちゃんの姿、視えてるよね?」
僕の質問にキョトンとした顔でしばしフリーズしたあと、
「爺ちゃんの姿?はい、見えますよ?」
あ、やっぱりそうだよねぇ。
あまりに普通に喋ってるから受け流すトコだったわ。
と、そこにお父さんが話に割り込んできた。
『当たり前だ、岡村バカヤロー。俺とユリの絆の深さなめんなよ?俺が死んで、葬式も火葬も済んだあの日はな、あの世に向かって光る道を真っ直ぐ歩いてたんだ。なのによ、どこまで行ってもユリの泣き声が後ろから聞こえてきてよ、こりゃあ、もう放っておく訳にはいかねぇと思って、来た道走って戻ってきちまった。そん時からユリは俺が見える。この子は余所の子よりも純粋で感受性が豊かだからな、おそらくそれで見えるんだろうよ。すげぇだろ?この子は特別だ、なんたって俺の孫だからよ』
へっ!と鼻の下を指でこすって誇らしげに笑うお父さんの横でユリちゃんが続けた。
「そうなんですよ。あの日はびっくりしました。私が家で爺ちゃんの写真見ながら泣いてたら、死んだはずの本人が”泣くなユリ”って目の前に立ってるんだもの。私……最初訳がわからなくて、寂しくて爺ちゃんに会いたすぎて夢でも見てるのかなぁって思ったけど、考えてみれば昔からそうだったんです。私が泣いてると爺ちゃんは必ず駆けつけてくれたの。だけど爺ちゃん死んじゃって、さすがにもう来てくれないと思ってたから、すごく嬉しかったな、えへへ」
ユリちゃんの照れ笑いに、ほんわりしつつも思った。
という事は、お父さんが霊道を引き返し、現世のユリちゃんの目の前に現れた時、すでにお父さんの姿と声を認識できていたのか。
この子……もしかして……霊力持ちか?
「ユリちゃんは昔から幽霊が視えるの?」
「ぜんぜん!婆ちゃんが死んだ時はまったく見えなかったし。今まで1度も幽霊を見た事もなければ金縛りにもあった事ないんですよ。幽霊を見たのは今回の爺ちゃんが初めてです」
「そうなんだ」
僕だってそうだった。
先代に出逢うまで、僕に霊能力があるなんて夢にも思わなかったんだ。
「ねぇ、ユリちゃん。お爺ちゃんに触る事は出来る?」
「それはできないかなぁ。爺ちゃんが帰ってきた時、嬉しくて抱きつこうとしたのに、スカって爺ちゃんを通り抜けて床に倒れちゃったんだ。あれ痛かったなぁ」
「そうなんだ。じゃあユリちゃんの目にお爺ちゃんはどんなふうに視える?」
「どんなふうにって……普通だよ、昔と変わらない。ぜんぜんお化けっぽくはないの。テレビで見る幽霊とは大違い。青白くないし、足もあるし、ウラメシヤなんて言わないし。こんな日焼けしたマッチョマンが幽霊とか笑っちゃうよねぇ。あ、でも1つだけ幽霊っぽいっトコがある!なんかね、ぼわわーんって光ってるの!」
ふむ……ユリちゃんの目に映るお父さんは、身体のどこにも欠損がなく、生前と変わらない見た目に加えて、身体全体は光に覆われている、その視え方って社長とほぼ一緒なんじゃないか?
そして僕とユリちゃんのやり取りを聞いていた社長がおもむろに口を開き、
「おまえ、ユリだったっけ?」
今日会ったばかりの女の子をいきなり呼び捨てにした社長は、右手のひらをハンドルに添えながらミラー越しに言った。
「陽炎みたいに見えるのか?」
それに対しユリちゃんは、
「え……?陽炎……?あ!あー!そうです!そんな感じです!たき火の時とか、すごく暑い日に見える、ぼわわーんとした……」
「揺らめき、だろ?」
「そう!揺らめき!アレがね爺ちゃんを包んでるの。そこが唯一幽霊っぽいかなぁ。神々しい感じというか、」
「神々しいっつーか、スーパーサ〇ヤ人っぽいよな」
「サ〇ヤ人……?あーーー!陽炎よりしっくりくる!それが一番合ってるかも!爺ちゃん強いし!きゃー!すごい!爺ちゃんスーパーサ〇ヤ人だって!あっ!そうだ!ねぇねぇ、ちょっと、こう……拳を握って……そう、こんな感じで……そう、そう!これ!爺ちゃん!このポーズのまま『クリ〇ンのことかーー!!』って言ってみて!」
ブフォッ!
ちょ、ユリちゃん、いま僕、鼻水出たわ!
やめなさいって、それ70代には(30代にも)無茶振りすぎるでしょうよっ!
「ははっ!ユリ、おまえ良いセンスしてんじゃねぇか!27巻のあのシーンは泣くよな!オイ、爺さん!カワイイ孫のお願いだ!聞いてやれよ!」
出たー!社長の悪ノリー!
いいオトナができるわけないでしょ。
悟〇のモノマネ嬉々としてやるのは社長くらいなもんですよ。
まったくもう困らせちゃダメですって。
ね、お父さ、
『クリ〇ンのことかーーーー!!』
えぇぇーーー!
マジかーーー!
言ったーーー!
お父さん孫命だな!オィィィ!!
きゃっきゃとはしゃぐユリちゃんに、お父さんは顔面が融点に達した状態で、
『楽しいか?爺ちゃん今ので合ってたか?もう一回やろうか?』
と、デレッデレだ。
大事な大事な孫娘の笑顔はなによりも代えがたいのだろう。
それゆえの行動に微塵の迷いも感じなかった。
愛はあらゆる不可能を可能にするのだ。




