第四章 霊媒師OJT35
ギュイィィン!!
悪鬼のごとく__否、まさに悪鬼そのものといった形相で、エンジン全開のチェーンソーを僕に向かって構えているのだ!
えーーーーーっ!
ちょっと!それどこから出したのーーーー!?
ゲームのキャラが手ぶらに見えて、いろんな銃器装備してんのと同じノリですかーーー!?
それになんでチェーンソー!?って、ああ!あれか!お父さんの作業着、背中に”藤田林業”って書いてあったーーーー!
それだ!生前は林業かっ!だからチェーンソー!!
ムリ!ムリムリムリ!
チェーンソーなんかで切り付けられたら死んじゃうよ!
あ!でも、霊が持ってるチェーンソーだよ?生者の僕には無効なんじゃないの?
いやいやいやいや!やっぱりダメだって!
僕の霊力は霊体を物体として捉える程だって言われてるんだ!実際普通にさわれるし!
って事は、霊の持ってるアイテムも僕には有効、すなわち、あのチェーンソーで切られたら僕は死ぬ!
お父さん!さっき確かに”死刑”って言ってたけど、もう執行ですか!?早くないですか!?
僕の話を聞いてくださいってーーーー!!
悪鬼は脇を締め、チェーンソー本体を自身の腹筋に押し当てた。
爆音を奏でつつ激しい振動を続ける刃先が完全に僕をロックオン。
ああ、猫……猫飼いたかった。
あまりの恐怖に頭に浮かぶのは猫の事ばかり。
コローンと甘えて、警戒心の欠片もない僕の猫ちゃんは、見事な猫の開きとなって四肢をのばし腹を見せている。
そんな脳内に浮かぶあられのない姿の猫ににんまりとしていると、ダンッとお父さんが一歩前に踏み出した。
もう駄目だ……と、思っていたのに僕の視界は濃紺一色、チェーンソーを持つ悪鬼の姿が消えた。
視界を埋めるほどの濃紺色。
それが社長のデカイ背中と解ったのは数瞬後の事だった。
「爺さん、チェーンソーはさすがにやりすぎだろうよ」
社長の口調は軽い。
まるで子供の喧嘩の仲裁に入る、おせっかいなオッサンのような軽さだ。
『あぁ?どけ、若僧。岡村はよ、俺の大事な大事な一人娘を祓いやがったんだ……!貴子はもういない……!余計な事しやがって……!岡村ぁ、隠れてないで出てこい!ぶっ殺してやるからよ!』
やっぱり……あのチェーンソーは脅しじゃなくて、本気で僕を殺す気で出したんだ(どこから?)
「はぁ……。ったく、年は取りたくねぇな。人の話を半分も聞かねぇうちに、勝手にキレやがる」
『あぁ?若造なんか言ったか?人を年寄り扱いしてんじゃねぇぞ?』
「あぁ?どこどう見たって年寄りだろうよ、しかも、人の話を聞かねぇタチの悪い爺さんだ。アンタ見てるとウチのジジィの方がずっとマシだって思えるわ」
『テメェんとこにも年寄りがいるのか。じゃあよ、教わらなかったか?年配者を敬えってよ。とにかくそこどけ。俺は岡村に用があるんだ』
「あんだよ、岡村岡村ってうっせーな。だいたいコイツは岡村じゃねぇ。エイミーだ!」
いや、岡村です。
『え、えいみ?そいつ外国人なのか?』
「いや、日本人だけど?」
『ん?あぁ?そうなの?』
うわぁ、なんかこの2人噛み合ってないよ。
話が脱線しつつあるけど大丈夫かなぁ……
『ちっ!岡村でもえいみでもどっちでもいい!とにかくそいつをこっちに寄越せ!俺の大事な娘の仇だ!この手で血祭りにあげなくちゃ気がすまねぇ!』
「出せるか、ボケェ!いいか、アンタにとって娘さんが大事なのと同じように、俺にとってコイツは大事な大事なウチの社員だ!社長の俺が守らんで誰が守るんだ!」
『ほう、その若さで社長か、やるじゃねぇか。確かに社員の不始末は社長の責任って言うしな。おぅ、じゃあよ、おまえから血祭りにあげてあらぁ!』
「おぅ!年寄りだからって、死者だからって手加減はしねぇぞ!コラァ!」
『望むところだぁ!時に若造、おまえと俺との違い、わかるか?』
「死んでるか、生きてるか。それと年寄りか、若いかの違いだろ?」
『その通りだ。だが、それだけで話は終わらん。若造、おまえ、見た感じ……25~6才ってところか』
「え?……えぇ!?25~6ぅ!?ああ、でも、ハイ!僕、そのくらいです」
うわぁ、社長、25~6才って言われて、めっちゃ嬉しそう。
てか、思いっきり肯定しちゃったよ、しかも口調が丁寧だよ、"僕"ってなんだよ。
『おまえいつから身体鍛えてる?昨日今日でその身体にはならんだろう』
「まぁな、ウチは親父がプロの格闘家だった。だから3才の頃には親父相手にスパーリングしてたよ」
『ふん、なら20年以上は鍛えてるって事か』
「そういうだ」
本当は31年ですけどね。
『短ぇな』
「は?」
『若造、俺はな中学卒業と同時に家を継ぐため山に入った。ウチは代々林業で15の頃から毎日毎日斧を振ってたんだ。あの頃の林業はチェーンソーなんて使わねぇ。すべての木々、一本一本、手斧だけで倒してきた。樹齢100年の大物でも、だ。ただ木を切ってればいいって訳じゃねぇ。ありゃ俺と山との闘いだ。林業一筋55年、わかるか?若造、おまえの倍以上の年月だ。それともう1つ。俺はとっくに死んでいる。死ぬとな、身体がどうなるか知ってるか?年取って身体のあちこちに出てたガタがよ、きれいさっぱり治るんだ。この段階で年齢差は0じゃねぇけど縮まったも同然だ。なあ、おい。たかが20年ちょい鍛えた若造と、実践で55年鍛えた俺とじゃあ、一体どっちが強いんだろうなぁ』
お父さんは言いながら腰を落とし、拳を握るとファイティングポーズをとった。
唸りを上げていたチェーンソーはいつのまに消え……どこにしまったのかは聞くだけヤボというものだろう。
社長は首をコキコキと鳴らしながらジャケットを脱ぐと、振り向かないまま僕へ手渡した。
『なんだ、若僧。上着なんぞ脱いで。立派な背広が汚れるのはそんなにいやか?』
「うっせーな」
『あぁ?なんだと?』
「うるせぇって言ったんだよ。まったく年寄りの話はなげぇ。聞いてて飽き飽きしてくるぜ。話は単純だろ?俺は爺さんにエイミーを渡さない。だから拳で話をつける、そんだけだ」
『生意気な小僧よ、』
お父さんが地を蹴り、一瞬で間合いを詰めた。
そして振り上げた両腕を社長の脳天目掛けて振り落す。
社長の上半身が後ろに大きく反れた。
刹那、お父さんの固く握られた両手は社長の鼻先をかすめる。
ブンッ
古いパソコンの電源ボタンを押した時、こんな感じの発振音が聞こえる事がある。
なんの音だろうとまわりをみても、各当するような機器は見当たらない。
そりゃあそうか、なんたってここは外だ。
外でネットを繋ぎたければスマホかタブレットが妥当だろうけど、最近の端末は電源を入れた時にそんな渋い音は出ない。
気のせいかな……なんて思っていると、
ブンッ、ブンッ、
やっぱり起動音が聞こえる。
この音は一体どこから……?いやまて、その前に、なんか社長、光ってない?
いや、頭はいつだって光ってるけど、そうじゃなくて、両手と右足がオーラみたいに光を発してる、なんで?どうして光ってんの?




