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霊媒師募集  作者: たまこ
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第四章 霊媒師OJT29

元の世界への帰り方。

先代曰く、「今回は至極簡単、この桜の道を真っ直ぐ歩いていけばいい」

今回のように祓う対象となる霊が造り上げた異空間に引っ張られた場合、その異空間内で霊を滅するか成仏させない限り、生者の霊媒師は元に戻る事はできない。

だけど今日は違う。

先代が異空間と現世を繋ぐ道を通してくれている。

この道を使えば、生者も霊も自由に行き来ができる。

もちろん異空間の主である田所さんを滅する必要もない。

僕はその説明を聞いて背中に冷たい汗が流れた。

もしも先代が来てくれなかったら……僕はこの異空間から永遠に出られなかったかもしれないのだ。

成仏はもちろん滅する方法もわからない僕は、下手すれば、いつまでもこの異空間で田所さんと一緒にさまよう事になっていたのかもしれない。

僕は改めて決心した。

もっとたくさんの事をなるべく早く覚えなくてはと。



足元の桜の花は踏みしめるたびに、サク、サク、と乾いた音をさせた。

先頭の先代の後ろには、腕を組む田所さん母娘、その後ろに僕が、縦に並んで薄紅色に光る道を外に向かって歩いている。


どのくらい歩いただろうか。

普段休みの日は1人で散歩する事が多い僕だけど、こんな場所でこんな道を、僕以外はみんな幽霊といった状況で歩くのは初めてだ。

なんだか面白いなぁなんて、思わず顔が笑ってしまう……と、これがいけなかった。

最後尾を歩く僕は、そんな事を考えながら歩いていたせいで、急に立ち止まった田所さんにぶつかってしまった。


「あっと、ごめんなさい。僕、ぼんやり歩いてました」


田所さんと腕を組む、お母さんごとよろけさせてしまった事を謝りながら、立ち尽くす彼女を覗き込んだ。

甘い香りがする。

薄紅色の光に照らされてる横顔は天女のように美しかった。

だめだ……美人すぎて正視できない。

僕は目線をお母さんに移し、ぶつかって痛くなかったか、ケガはないかと確認した。


『大丈夫ですよ。幽霊はぶつかったくらいじゃケガしないみたい。もし、したとしても、持丸さんから教えてもらた、おまじないがありますから。貴ちゃんも大丈夫でしょう?』


コクンと頷く田所さんは、それでもまだ立ち尽くしている。

僕は俯く彼女の頭を見ながら聞いた。


「どうしたんですか?」


『……いの』


「ん?」


『すこし……怖いの』


「怖い?」


『私が死んでから11年も経っているんですよね?』


「はい、」


『そんな事も知らないで……知らないうちに沢山の方達に迷惑をかけて……村越さんはご健在なんでしょう?どんな顔して会ったらいいのか……どんなふうにお詫びしたらいいか、わからなくて……それなのにユリやお父さんにも逢いたいなんて虫のいい事考えて……だけど私にそんな資格ないなぁって……そう思ったら、外に出るのが怖くなってしまって……』


「そんな事ないですよ!あなたは何も知らなかったんだから仕方なかったんです」


『違う、知らなければ何をしても許されるものじゃない』


「でも、あなたは被害者だ」


『加害者にもなりました……現に関係の無い入居者の方達を怖がらせてしまったもの。それに岡村さんにだって……首を絞めて怖い思いをさせた』


「確かに他の方は怖かったかもしれません。だけど僕は霊媒師です。あれくらいの事なんともありません。ねぇ、田所さん、大丈夫。僕と一緒に村越さんに謝りましょう。僕ね、霊媒師になる前は通信会社でクレーム対応の部署にいて、こう見えても主任だったんです。謝る事には自信があります!」


『謝る事に自信……?』


田所さんはきょとんとした顔をして僕を見る。


「ええ!どんなお客様でも鎮めてみせます!」


そうですよ、と、ズィっと先代が割り込んできた。


「安心しなさい、お嬢さん。岡村君の謝罪で鎮まらないお客様はいないですから。なぁに、万が一ダメなら、ウチにはもう1人、清水君といって沈めるのが得意なのがいてね、」


「先代、ちょっとあんまり物騒チックな事言わないでくださいよ」


慌てる僕に先代がやり返し、ぎゃいぎゃいと当社名物、不毛な会話を繰り広げていると、少しだけ田所さんが笑った。

そして、ずっと娘の腕を組んで離さないお母さんが優しく言った。


『ねぇ、貴ちゃん。まずは、お母ちゃんと一緒に謝ろう。それでもし許してもらえなかったら、岡村さんに助けてもらおう。大丈夫だよ、貴ちゃんはもう独りじゃないんだから』


『……うん、……うん。そうだね、そうだったね、私はもう独りじゃないんだ。お母ちゃん、ごめんね。私と一緒に謝って』


そう言って、ぎゅっとくっつく仲の良い母娘は俄然元気を取り戻し、早く行きましょうと僕達に声を掛けた。


「あ、はい!そうだ田所さん、外に出たら桜が咲いてますよ。こんなインチキ電気桜じゃなくて本物の桜の花!」


『桜見たい!でも、この電気の桜も私、大好きです!』


「お嬢さん、私のプードルは?大好きでしょう?」


『えっと、、そこそこ好きです』


「そこそこ……」


『あ!ちが!』


「いいの」


『ごめ』


……

…………


そうしてしばらく歩き続けた僕達の目の前に、丸く穴が開いたような、真っ白な光が見えてきた。

ああ、きっと、あれが出口なのだろう。

僕も田所さんもみんな、やっと戻る事ができるんだ。



はやる気持ちを抑え最後に後ろを振り返ると、歩いてきたはずの桜の道は、薄紅色の弱い光が不規則に点滅を繰り返し、遠くの方から徐々に光が消えていった。

僕の造った不揃いな電気桜は、ようやくその役目を終わらせようとしていた。

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