第四章 霊媒師OJT28
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そういえば今は何時なのだろう?
左腕の時計の文字盤を見ると1時50分をさしていた。
H市のアパートに到着したのは12時50分頃のはずだが、あれから1時間しか経っていないというのか?
すごい……さすがだ……さすが異空間(似たようなものだよね?ここって田所さんの負の結界の中だって先代が言ってたし)
ここに来てから色々な事があって、僕の感覚としては数時間は経過してる。
だが、時計をみればそれほどでもない。
「先代!スゴイですよ!この異空間では時間の流れが違うんですね!」
なに時間?と、穏やかな顔を向ける先代は、ゴソゴソとズボンのポケットに手を入れて、使い込まれた懐中時計を取り出すと、その文字盤を見て固まった。
あれ?先代でも驚いちゃうの?
こういう時間の感覚のズレみたいな現象は以外と少ないのかな?
「岡村君、ここの部屋の新しい入居者はいつ来るんだっけ?」
「確か明日だって村越さんが言ってましたけど、」
「そりゃあイカン!もうあと少しで到着してしまう。急がねばなるまい!」
「え?だってまだ1時50分ですよ?ここに着いてから1時間しかたってないんだから、まだまだ余裕がありますよ」
そう言って僕は自分の時計を今一度確認する。
うん、確かに1時50分だ……って、ん?
さっきから1分も進んでないのっておかしくない?
この時計、今年に入って電池換えたばかりだから、止るはずないんだけどな。
でも、ん?んー?ちょっとこれ、秒針が動いてないよ!
あからさまに動揺する僕の心を読んだのか、先代がこう言った。
「岡村君、今度、お給料が出たらネジ巻時計を買いなさい。霊媒師は電気を扱う事が多いから、電池の時計は狂いやすいんだよ。しかも今回、電気桜を造ったり、霊視したりで、岡村君から相当な量の電気を発してるからね、それで多分止まってしまったんだろう」
そうだったのか。
けっこう気に入っていた時計だからショックだな。
時計屋さんに持って行ったら修理してもらえるだろうか。
とりあえず、今それを気にしても仕方ない。
僕は気を取り直し先代に聞いた。
「なら、今は何時なんです?」
「5時半だよ、」
なんだ__僕は安堵した。
言ったって数時間経過しただけだ。
新しい入居者の到着は、早くて明日の午前中だろう。
最悪、徹夜で対応すればなんとかなる。
お客様相談センターにいた時だって、何度か徹夜を経験しているから、そう驚く事でもない。
「先代、大丈夫ですよ。今夜中になんとかすれば間に合います!僕も頑張りますし、いったんみんなで社長のところに戻りましょう!」
僕のやる気に先代は、溶けた餅のような柔らかな、それでいて少し困った顔で笑った。
「ごめんねぇ、入社して5日目の現場研修でいきなり徹夜の残業させちゃった。ちゃんと残業代は出るから安心してね。それでね、1つ残念なお知らせがあるんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「あのね、誤解があるようだから訂正するよ。ただいまのお時間、明け方の5時半でございます」
「え……?あけがた?」
「そ。もうすでに”今夜中の対応”の最中なの。てへ」
「うそーん」
「ホント、きゃ!言っちゃった!」
なぜか恥かしそうに笑う先代と顔を見合わせた僕は、しばし恋人同士のように見つめ合った。
疑似甘い時間を数瞬堪能した僕達は(相手は享年70オーバーの男性で、上司で幽霊だけど)ほぼ同時に後方を振り向きながら叫んだ。
「奥さん!」「田所さん!」
「「今すぐ向こうに戻りましょう!」」




