第四章 霊媒師OJT27
分身の術__と聞くとまるで忍者のようだけど、聞けば幽霊の身体を形成する電気信号を、自分の意志で半々、もしくは3等分ないし4等分に分け、その時々の必要数、自身の複製を造る事をいうらしい。
ただ、身体を分ける事はできても複数体同時に複雑な動作や会話はできない。
1体をメインで動かしたら、サブ霊体はなるべく動かないようにして、その場で見聞きした情報をメインに送り続ける。
メインはその情報を常に受信しながら行動し、サブ側に何かあれば瞬時に戻り対応するというのだ。
という事は……車の中で眠っていた先代はサブ霊体だったという事か。
「それでは改めまして……先代が弥生さんの所に行っていたのはアパートに着く前、車で移動中の時だった、という事なんですね?」
「そう、正解!私ね、霊の妨害を受けてる弥生ちゃんが心配だったの。それでアパートに向かう道中、私の分身を彼女の元に飛ばしたんだよ」
「そうだったんですね。でもなんでわざわざ分身とで分けたんです?僕達になにかあっても社長がいるからなんとかなったような気がするけど、」
「そりゃあ清水君がいれば大丈夫かなぁって思ったけど~。でもさ、その時はまだ、弥生ちゃんがどんな妨害を受けていたか聞いていないから、危険度がわからなかったでしょう?もしそれが本当に危ない霊だったら……やっぱり心配じゃない。だから念の為”私の半分”を車に残しておいたの。なにかあればすぐに対処できるように」
「先代……ありがとうございます」
「まあ、行ってみたら大した妨害じゃなかったし、陰からコソコソ覗いている奥さん見つけて事情を聞いたら、アパートに籠城してるお嬢さんの母親だって言うじゃない。奥さんは娘を助けたい、でもアパートに入れないから話もできない、逢う事もできないまま祓われてしまったら、とてもじゃないけど死にきれない。だから悪い事と知りながら弥生ちゃんの妨害をしていたんだって泣いちゃってねぇ」
「お母さんも辛かったんだ……」
「うん。だからね、私が娘さんに逢わせてあげるって、奥さんとアパートに戻ってきたの。そんな事情だから奥さんが私と一緒にいる限り岡村君達に妨害行為はしないだろうと思って、」
「それで僕達がアパートに着いた時、車にいたサブの先代も消えたんですね。一体に戻ったんだ」
「そう、だけどねぇ。アパートに入った岡村君がいきなりお嬢さんに引っ張られちゃったの見た時は焦ったなぁ」
「僕だって焦りましたよ、ここはどこだーって。先代も社長もいない暗闇にたった1人……いや2人か。敵意全開の田所さんがいたから、ははは」
「だけど上手くお話してたじゃない。さすがは元”お客様相談センター”の主任さん。私はね、岡村君の前職がなんであれ採用するつもりでいたんだけど、営業上がりの元クレーム処理班だと聞いて、小躍りしたくなるほど嬉しかったんだよ。それは清水君も同じ」
「あ……そう言えば面接の時、僕の前職に先代も社長も意味ありげに笑ってましたよね、」
「そりゃあそうだ。霊力だけじゃなく対人スキルも高いのかって思ったら、笑いも止まらなくもなるでしょうよ。すごい新人が来た!ってね。クレームのお客様を宥め納得させる交渉力、これは霊媒師にも必要なの。お祓いするにも、できれば滅するのではなく、納得して成仏してもらいたい。それにはじっくり霊の話を聞く事、霊と信頼関係を結ぶ事、霊に未練を断ち切ってもらえるよう説得し納得してもらう事。そういうのが大事なのね」
「なるほど、確かに。幽霊だって”人”ですものね」
「だから岡村君がお嬢さんに引っ張られた時、焦りはしたけど、なんとかなるんじゃないかって思ってた。実際、見事にお嬢さんと信頼関係を築いたしね。だけど……さすがに岡村君が首絞められてた時は助けに行こうと思ったんだけど、」
「え!?先代、僕が田所さんから殺されかけた時、あの場にいたんですか!?」
「いたいた。初現場で1人になっちゃったから、ちょこっと様子だけ見に行こうと思って……そしたらびっくり、首絞められてるからさぁ。これはマズイと思って助けに行こうとしたら……ホラ、岡村君、そのアレだ、お嬢さんに対してすごく破廉恥な事言って、戦意喪失させてたでしょ。”僕に抱かれる気はあるか?……”なんて!きゃーーー恥ずかしーーー!若いってすごいよねーーー!」
「ヤメテーーー!こっちが恥ずかしいーーー!違いますよ?アレは社長のマネしただけですからね!普段あんな事言いませんからね!仕方なかったんですからね!不本意ですからね!てか、いたなら助けてくださいよー!」
「いやいや、アレで私が飛び出して、実は本気で口説いてましたとかだと、お邪魔になっちゃうかも……なんて、ふふふ、冗談。だけど岡村君、私がいた事まったく気付いていなかったんだねぇ。あの後、お嬢さんが謝りながら泣いちゃって、岡村君は少し離れて座っててさ。この感じならもう大丈夫だろうから、外で待たせてる奥さんの所に戻ろうと思ったのね。その時、外に出る衝撃で派手に電気の火花が散ったから……それで気が付いたのかと思ってた」
「火花……?……あーっ!思い出した!そう言えば体育座りしてぼーっとしてたら一瞬何かが光った気がしたんだ!でも、すぐに消えちゃって。だからきっと、殺されかけて疲れてるんだと思って……それで流しちゃったんだ。なんだぁ。あの時、僕が気が付いていればなぁ」
「ふふふ、まぁ、いいじゃない。今回、私がいなくてかえって良かったと思うよ?岡村君だったから、お嬢さんは笑ったんだって」
「……そうでしょうか、」
「そうだよ」
そう言って笑う先代は、陰陽師よろしく印を組むと放電で小さな踏み台を造った。
そこにヨイショと乗っかると、
「頑張ったね」
「はい」
「えらかったね」
「ありがとうございます」
「不安だったかい?」
「最初は少し。でも、途中からは……」
「そうか、そうか。さすがは私が惚れ込んだ青年だ」
言いながら先代は、30過ぎたオッサンの……僕の頭を優しく撫でてくれた。
この歳になって人に頭を撫でられるなんて思いもしなかった。
ヤメテください、子供じゃあるまいに。
大の大人の僕の頭を撫でて、褒めるだなんて……本当にヤバイ……嬉しくて泣きそうだ。




