第四章 霊媒師OJT26
「お!岡村くん、いい所に気が付いたねぇ。それなら妨害してたのは誰だと思う?それがわかれば、どうして私が奥さんを知っていたのかの答えもわかると思うけど……あのねぇヒントはお嬢さんをお祓いで消滅させたくないなぁって思ってて、それでいて危険度の低い幽霊で、昔からお嬢さんの事知ってて……ふふふ、ねぇ、どう?わかる?ちょっと難しいかなぁ?」
僕は迷った。
なにがって……もちろん、この『わかるかな?難しいかな?もっとヒントいるかな?』ってワクテカの御大の顔を立て、答えがわからない振りをするか。
それとも、先代クイズ出すの下手過ぎです。
その問題の出し方じゃ、妨害してたのは田所さんのお母さんって丸わかりなんですけどってハッキリキッパリ言うべきか。
これ絶対、答えはお母さんだよなぁ、どうしよう、なんて答えよう……
先代は迷える僕の出す微妙な空気を察したのか、
「わ、わからなそうだね、じゃ、3、2、1!ハイ時間切れ!答えは奥さんが妨害してた、が、正解でしたー!」
と、早口で捲し立て……けっこう負けず嫌いな一面を見た。
そして、
「岡村君覚えてる?ここに来る途中、清水君の車の中で、私寝てたでしょう?」
……そういえば確かに先代は、後部座席で気持ち良さそうに眠ってた。
「それとアパートに到着した時、私、いなくなってたでしょう?」
そうそう、先代はどこに行ったのか姿がなくて。
それで社長が“どこかで居眠りしてるのかも”って言い出して、
それに僕が“こんな時に眠れるって先代大物だなぁ”って答えたんだ。
その後に、確か社長は“大物かー確かにそうかもなー。でもな、霊が眠るっていうのは”そう途中まで言いかけた時に、村越さんが現われて続きは聞けなかった。
「なんでだと思う?」
いきなりクイズ第2問。
どうやら今度はノーヒント。
ええっと、あれはただの居眠りじゃなかったのだろうか……?
「わかる?ねぇ、わかる?今度はわからないでしょう?」
子供のような得意顔で先代が僕の顔を覗きこむ。
「難しいですねぇ……でも、」
僕は初めて先代に会った時の事を思い出していた。
ハローワークの職員さんを装って、ちゃっかりカウンターに座っていた先代。
あの日、先代は僕を霊媒師にスカウトすると、『明日の10時に必ず会社に着てください!』と言い残し、パッと姿を消してしまった。
そこから推測するに幽霊の移動手段は瞬間移動なのだろう、映画や本でも似たような事が描いてあったし。
そして先代は弥生さんの話をしてくれたけど、彼女は群馬からこちらに向かっている最中で、まだ東京に到着していない。
それなのに先代はすでに事の詳細を知っていた。
て事は、アパートに着いた時に先代がいなかったのは、弥生さんの所に行っていたからではないだろうか?
そこで弥生さんから直接話を聞いた、うん、きっとそうだ。
それなら車で寝てたのは?
わざわざクイズに出すって事は何か意味があるんだろうけど……
「どう?わかった?それとも降参?」
なかなか答えない僕に、テンション高めな先代がせっついてくる。
「んー、半分わかって半分わからないといったところですねぇ。アパートに着いた時に先代がいなかったのは、おそらく弥生さんの所に行っていたからだと思うんですけど、どうかな?それから先代が社長の車の中で寝ちゃってた理由は……なんだろう?生きた人間ならうっかり寝ちゃう事はあるけど、幽霊は?普段の生活で眠る事はあるんですか?もしそうなら寝不足だったとか」
そう僕が自信なさげに答えると、
「幽霊も寝るっちゃあ寝るよ。でもね、車で寝てたのは通常の幽霊の睡眠とは別の理由。幽霊が眠る本当の理由は……まあ、いいや。それはまた今度。それより答え合わせするよ!岡村君の回答は……惜しい!半分当たってるけど正解じゃあない。答えはね、」
刹那、言いかけた先代は音も無くその場に崩れ落ちてしまった。
「ちょ!先代!?」
駆け寄ってミニマムな身体を抱きかかえるも、先代はヨダレを垂らさんばかりの平和な顔で眠りこけていた。
見た限りでは体調が悪そうな感じはしないから、どこか不調があって倒れた訳でもなさそうだ。
いや待て、そもそもすでにお亡くなりになっているのだから体調も何もないだろう。
僕は改めて先代の顔を見る。
ああ、そうだ。
車の中でもこんな感じで眠ってたっけ。
「先代……?あの、大丈夫ですか?」
なにがなにやらわからない僕は恐る恐る声を掛ける、が、反応は無い。
と、その時。
背後から田所さんとお母さんの笑い声が聞こえてきた。
それはもう本当に楽しそうな雰囲気で思わず耳を傾ける。
『やだもう、持丸さんったらぁ!それぜんぜんプードルに見えないですよ』
え?
持丸さん?
僕は後ろを振り返った。
「……!!」
嘘だろ……?
そこには眩く光る、光る……えっと……ツチノコ?
とにかくそこには、先代が造ったと思われる、プードルにはとても見えない電気ツチノコを片手に、田所さんを追いかる老紳士の姿があった。
「お嬢さんの目は節穴ですかな?どこをどう見たってコレはプードルでしょう?」
『持丸さんの造る電気手芸は味があると思います。でも……ふふふ、やっぱりプードルには見えないですよぅ』
そんな事ないでしょう~?
なんて、
キャッキャウフフと楽しげな先代はチラリと僕を見て笑った。
僕は瞬間、顔を下げ、腕の中で眠る先代を凝視した。
そしてまた顔を上げ、また下げる、上げて、下げて、何度も何度もこっちとあっちを見比べた。
「先代が……2人?」
女性陣の元でよく喋りよく動く先代と、僕に介護されている先代。
どちらも本物の先代……だと思う。
「そう!今、私は2人いる!」
眠り姫のごとくスヤスヤだった先代が、突如カッと目を開けた。
「うわぁ!びっくりした!いきなり起きないでくださいよ!危うく先代を落としてしまう所でした」
「あはは、ごめんごめん。だけど、わかった?」
そう言って、ぽんぽん腰を叩きながら起き上がる先代と、
「コレあげる。私の力作プードルちゃん」
いつの間に背後に来たのか、プードルという名の電気ツチノコを僕に手渡すもう1人の先代が、してやったりといった顔で僕の目の前に立った。
そして、2人は声を揃えてこう言った。
「「私ね、分身の術が使えるの」」




