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霊媒師募集  作者: たまこ
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第四章 霊媒師OJT18

「ユリーーーーーっ!!」


叫ぶような悲鳴を上げてユリちゃんに駆け寄る田所さんに、男は「これは躾だからな」と笑った。


「ユリ!ユリ!目を開けて!お願いよ!」


グニャリと意識のない娘を抱きかかえ、ユリちゃんの名を絶叫で呼び続ける田所さんは、ハッとして隣の部屋に行き携帯電話を手に戻ってきた。


「おい!それ俺の携帯だぞ!勝手にさわるな!」


「救急車呼ぶのよ!」


「だから!俺の携帯だっつーの!救急車呼びたいなら外に公衆電話があんだろ」


「なに言ってるの!ユリがこんなになってるのに!本気で言ってるの!?」


「俺さあ、携帯とか他人にさわられるのヤなんだよね」


「……っ!!あ、もしもし?娘が蹴られて意識が無くて!」


「オイ!貴子!蹴られたとか言うなよ!転んだって言えよ!……ったく、勝手に携帯使いやがって」


男は頭をガリガリ掻き毟りながらタバコに火を付けた。


「ふ~、タバコうまー。あーまったく女共は大袈裟だよなぁ、喉乾いたなぁ、ビール飲みてぇなぁ、もっと金があればなぁ、貴子はババアだから風俗も無理だしよぉ……」


自分で蹴り飛ばし意識の無い娘の心配をするでもなく、勝手極まりない独り言を垂れ流す男の視界にめくれ上がったオレンジ色のワンピースが見えた。


「……へぇ、」


男は改めて意識の無い娘を食い入るように見つめた。


横向きに倒れた娘は、血管が透けて見えそうな程の白い肌が滑らかで、めくれたスカートから覗く脚は幼いながらも艶めかしい……


「そいうや、コイツ7才になったんだっけ……その辺のガキよりはキレイな顔してるしなぁ、……もしかしてコイツ金になるんじゃね?こういうガキが好きな変態野郎は世の中いっぱいいるからなぁ、」


男は舌なめずりをしながら、ユリちゃんに近づいていく。


僕は愕然とした。

……冗談だろう?

仮にもユリちゃんはアンタの実の娘だろう?

ソレ、本気で言ってるのか……?


男はユリちゃんの顎を掴み、まじまじとその顔を値踏みする。

そして汚いその手で、ふくらはぎから太ももまで上へ下へと撫でまわすと、


「すっげ……吸いつくような肌だわ。コレなら相当稼げるぜ……あぁ、でもその前に父として最初に味見してやらねぇとなぁ、」


そう言ってニタァと下衆な笑みを浮かべた男は、意識のないユリちゃんの手首を掴み奥の部屋へと引きずっていった。



「はい、はい、なるべく動かさないようにですね、わかりました。急いで来てください!」


119番通報を終えた田所さんが後ろを振り返ると、あろう事かユリちゃんを引きずり移動させようとする男と目が合った。


「なにしてるの!」


紫色に変色した腫れた顔の田所さんは、どこからそんな声が出るのかというくらいの大声を上げた。


「チッ、うるせえな。ユリが具合悪そうだからよ、こっちの部屋に寝かそうと思ってな」


「やめて!ユリはなるべく動かさないようにして待ってろって119番の人に言われたの!そのままそこに寝かしておいて!」


「なんだよ、貴子、やけに元気じゃん」


「ユリにこんな事しといて、よくもそんな呑気な事が言えるわね!」


「ああ?テメェまた殴られたいのかよ」


「殴ればいいでしょ!好きなだけ!ホラ!殴りなさいよ!」


「はっ!調子こいてんじゃねぇぞ!」


ガッ!


男の拳が田所さんの顔面に入り、彼女の上半身がぐらっと大きく揺れた。

それでも田所さんは歯を食い縛って男を睨み、


「ユリから手をはなせ!」


と、掴みかかっていく。


「うっせぇな!黙れ!安心しろ、もうユリを殴ったりしねぇよ。テメェみたいなババアと違ってユリは金になるからな」


「お金……?」


「ああそうだ。こういうさ、キレイな幼い女の子はさ、需要があるんだよ。さっきユリが倒れた時に脚とパンツが見えてさ、それで気が付いたんだ。コイツ金になるぞってな」


「あなた……なに言ってるの……?」


「あ?そういう事だよ。でもよ、ユリを売りに出す前に父としてどのくらいの商品価値があるか俺が見てやろうと思ってさ」


「商品価値……?父として……?ふざけないで……」


「はぁ?だってオマエのパート代じゃ生活すんのがやっとじゃん。オマエのかわりに、娘のユリちゃんが稼いでくれるんだよ。まったく親孝行な子供を持って幸せだよなぁ」


「ふざけないでよ……」


「はぁ?聞こえませーん。あ?なにその顔、あ、わかった。オマエさ、娘に嫉妬してんのか?そーかそーか、そういう事か。でもよ、オマエみたいなガリガリの骸骨女、旦那の俺でさえ抱く気にもなんねーんだから、そんなオマエに風俗行けっつったって無理だろ?ははっ」


「ふざけんなーーーーーーー!!」


憎悪の炎を目に宿し猛獣のごとく男に飛びかかった田所さんは、何度も何度も殴られながらも男の腕に噛みついて、その肉を引き千切らんばかりに唸りをあげた。


「イテェ!!っ!!ふざけんな!!イテェよ!!はなせ!!」


男は腕に食らいつく痩せこけた猛獣の背中に数発の拳を叩きこみ、なんとか引き離すと血の流れる腕を押さえ後ずさった。


瞬間、田所さんはユリちゃんの前に立ち、痛い痛いと騒ぐ男に、燃えるような目を向けて両手を広げ立ちはだかった。


「ユリに指一本触れさせない……!」


男は眉も口角も八の字に下げながら、大量に掴んだティッシュを腕に押し付け血を止めようと必死だった。


「クソッ!なにすんだよ!イテェなぁ!チッ!すげー血が出てんじゃん!」


実際、あてられたティッシュには確かに血が滲んではいるものの、田所さんのケガに比べればかすり傷に等しいレベルだ。

この男、あれだけ田所さんに暴力を振るっておいて、自分が少しでも傷つけばこんなにも大袈裟に騒ぐのだ。

痛いだの、血が出ただの、無駄に喚きながら噛まれた腕を何度も確認する姿は、同じ男として本当に情けないし恥ずかしい。


当たり前だが腕の出血はすぐに止まり、がぜん調子を取り戻した男はお得意の大声で田所さんを威嚇しはじめた。


「貴子ぉ!オマエさぁ、俺にこんな事してタダですむと思ってる訳?覚悟しとけよ!オマエもう終わったからな!」


来る。


田所さんは暴力のタイミングを熟知しているのか、男が三下セリフを言い終えた三瞬後、首をすくめ身を固くした。


ガッ!!


男の拳が田所さんの顔面右側に入った。

その刹那、花火のような血飛沫ちしぶきを上げながら彼女は右方向に吹っ飛んだ。


「っしゃーーーー!入ったーーーー!へへっ、痛いか?痛いだろう?だけどな、俺はオマエに噛まれてもっと痛かったんだからな」


反吐が出そうな勝手な男の物言いに僕は瞬間的に頭に血がのぼった。

だが当の田所さんは男の挑発には乗らず、顔を歪め骨ばった身体をなんとか起こすと、ふらつきながら両手を広げ、再びユリちゃんの盾となった。


「なんだ、意外と根性あんじゃねーか。まぁ、せいぜい頑張んな。じゃないと俺、ユリに乗っかって腰振っちゃうよ?てか、オマエ!ぎゃははっ!なんだそれ!鏡見てみろよ!さっきより顔腫れてまんま化け物じゃん!顔グチャグチャ!キモーッ!マジ、ユリよりテメェの心配しとけよなっと!」


ガッ!!


さらにもう一発。

男の拳が田所さんの鼻を捉え、赤い血が噴霧となって宙に散り、彼女は糸が切れた人形のように床の上でグシャリと潰れた。


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