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霊媒師募集  作者: たまこ
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第四章 霊媒師OJT17

「ママ……」


かすかな声で母親を呼ぶユリちゃんの表情は硬く強張っていた。

トイレの中から細い首をにゅうっと伸ばし、耳を澄ましてこちらの様子を窺っている。

だがいくら待っても、さっきまで聞こえていた母親の声がしない。

かわりに聞こえるのは一方的な父の怒声。


そわそわと不安気なユリちゃんの片足が一歩トイレの外に出た。

そして再び耳を澄ますも、望む声が聞こえない事に焦りの色が浮かべたユリちゃんは、口を真一文字に結び直し、意を決したようにもう片方の足を前に出した。


そろりそろりと摺り足で、地獄と化した居間へと近づいていくユリちゃん。

僕は両手を広げその進行を妨げるが、空しくも僕の身体をすり抜けて足止めは叶わない。


一歩また一歩と前進するユリちゃんの足がキッチンと居間を隔てる敷居の前で止まった次の瞬間。

ユリちゃんの喉から突き刺すような高音の悲鳴が発っせられた。


目にも止まらぬ素早さ__とは、こういう事を言うのだろう。


悲痛な叫び声を上げたユリちゃんは、暴力凄まじい男など見えていないかのように倒れる母親にしがみついた。

ユリちゃんは大声で泣きながら、意識の薄い母親の腫れた紫の頬を撫で、血を拭い、床に散らばった髪を集め、毛の抜けた剥き出しの前頭部地肌に押し当てた。


「ママ!ママァ!大丈夫!?痛いでしょう!?ユリがいま治してあげるからね、髪もこうしてたらくっつくから大丈夫だよ!ユリがぜんぶ治してあげるからね!痛くないようにしてあげるからね!」



シボッ。


母親の傷を治そうと必死な幼い娘の頭上で、百円ライターの安っぽい点火の音がした。


男はユリちゃんがいるにも関わらずタバコに火を付けるけると、毒ガスのような煙を娘に向かって吐き出した。


「はいはい、クサーイ三文芝居はもういいよ。ユリ、今日の祭りは中止だ。夏休みだからって遊んでばかりじゃだめだ。ユリにはパパのお手伝いをさせてやるぞ。ママのカバンに財布入ってるから、それ持ってコンビニ行って買えるだけビール買ってこい。今すぐな」


ヘラヘラと笑いながらビールを買ってくるように命令した男に、ユリちゃんは振り向きもせず母親の顔を撫で続けている。


「オイ、ユリ!聞こえてんだろ?返事しろよ」


娘に無視された男の声に凄味が加わった。

それでも返事をしないユリちゃんに、男は口の端にタバコをぶら下げながら、


「ユリ、あんまりパパを、大人をナメんじゃねぇぞ?返事しろ、コラ、おぅ、あぁ!?」


「…………」


「なんだそりゃ反抗期かぁ?ユリ、オマエにもママみたいに躾が必要みたいだなぁ!こっち向け、オラァ!」


男は乱暴に床で煙草を押し消すと、母親に寄り添う小さな肩を掴み強引に引っ張った。


やだっ!という短い声と共に後ろに倒れたユリちゃんだったが、跳ねるように飛び起きると両手を広げ倒れる母親を庇うように立ちはだかった。


「…………ぷはっ!なんだぁ?ユリィ?それナニやってんだよ?もしかしてパパに喧嘩売ってんのかぁ?ああ?」


「……パパは、」


ユリちゃんは力強く両手を広げ男を睨む、が、その膝はガクガクと震えていた。


「あんだ?声が小せぇぞ?」


見下ろす目線に嘲笑を含ませた男は必要以上の大声で幼い娘を威圧する。

ユリちゃんはハァハァと浅い呼吸を繰り返し、額に浮かんだ玉の汗もそのままに、燃えるような目で男を見上げた。

そして、


「パパは……嘘つきだっ!」


「ああ!?」


「パパは嘘つきだって言ったの!ママは悪い事なんかなにもしてない!なのにパパはいつもママをいじめるんだ!それにパパはいっつもお酒飲んでる!お仕事だってご飯だって掃除だってみんなママがしてくれてるのに!なのにパパはママにありがとうって言わない!ユリは、ユリは、パパなんか大っ嫌いだ!!」


ふーふーと、食い縛った歯の隙間から息を吐くユリちゃんを、男は首を斜めに顎を上げ、目線を下げて凝視している。

明らかに空気が変わった__男の強い怒りの感情が狭い部屋に飛散して息が苦しくなってくる。


その時、


「ユリ逃げて……早く逃げ、」


擦れた声が床の上からはっきりと聞こえた。

だが、それを遮るのは抑揚のない男の声。


「遅っせーよ」


ドカッ!!


鈍い音がした。

勇敢にも母親を身を挺して庇ったユリちゃんは男に蹴り飛ばされていた。

小さな身体が速度を持って宙を舞い、壁に激突した後、バウンドして床に落ちた。

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