第四章 霊媒師OJT13
ドキドキしながら答えを待つ。
が、しかし、待てども待てども田所さんは一向に口を開いてくれない。
あれ?
僕の見た映像って間違えてた?
目の前の田所さんは、どこか居心地悪そうに口を閉ざしたまま横を向いている。
「あのーー田所さん?」
『は、はい』
「あ、えっと、僕、さっき田所さんの過去が視えたっぽいんですけど……田所さんの容姿、間違ってましたかね……?サラサラの黒髪に、くっきりとした二重瞼、まつ毛がすごく長いですけど、お化粧してる感じじゃないですよね?アイドルというより女優さんみたいにきれいな女の子が見えたんですよ。あの子は田所さんですよね?そうでしょう?」
僕は彼女の答えが聞きたくて、そっぽを向く田所さんの前に回り込む。
そりゃあもうしつこいくらいに。
逃げ場を失った田所さんは、一瞬動きを止め、だけど何か諦めたように大きく息を吸い込むと一気に僕にまくし立てた。
『もう!いい加減にしてください!確かに高校生の頃、肩まで髪を伸ばしてました!日焼けしにくい体質だから色も白かったかもしれません!目が二重なのは父に似たからです!でも、岡村さんが言うような、その、ア、ア、アイ……とにかく!そんなんじゃありません!田舎の平凡な女子高生でした!もう……わざとですか……?』
「え?え?え?なんで怒ってるんですか???」
『もう!さっきみたいな言い方されて、それ私ですって言える訳ないでしょう?岡村さんぜんぜんわかってない!でも、ありがとう!!』
「え!あ!な、なんかすみませんでした!」
なんだかわからないけど、田所さんを怒らせてしまったらしい。
僕は視たままを忠実に伝えたつもりだったのに。
でも、わからないけど、ありがとうって言ってたから大激怒って訳でもなさそうだ。
多分僕が悪いのだろう……申し訳ない、とりあえずあやまっておこう。
『もういいです!で、さっきの話の続きですけど上京して事務の仕事始めて1年後に同じ会社の上司と付き合ったんです!初めての恋人です!その後、子供ができて親に言わずに入籍しました!で、その後、夫がリストラにあって、仕事も探さずギャンブルとお酒で借金作って、暴力振るわれて、極貧生活の中なんとか子供育てて、最後には夫に殺されました!はぁ……』
え、ちょっと、すごぶるハードな内容を、そんな雑に話さなくても……。
「あの……田所さん?やっぱりまだ怒ってます?」
僕はおそるおそるお伺いを立てる。
怒ってません!と、明らかに怒った口調の田所さん……だったのだが、
『ごめんなさい……ただ……私……あまり誰かに容姿を……褒められた事がなくて……動揺してしまって、それに今はこんな顔をしてるし……からかわれたのかなって、、でも、岡村さんはそんな人じゃないし、でも、こっちが恐縮する程褒めてもらって、もうなんて言ったらいいかわからなくて……大声出してしまって本当にごめんなさい』
そう言ってしょんぼりと頭を垂れる田所さんに僕はハッとした。
ああ、そうだ。
今の田所さんは顔に大けがを負っているんだ。
それなのに……そんな女性に容姿の話を出してしまって僕はなんて無神経なんだ。
まただ、僕は浅はかだ。
霊視ができたかもしれないという裏付けがほしいあまり、彼女の気持ちをまるで考えていなかった。
「田所さん、僕、また無神経な事を言ってしまいましたね。本当にごめんなさい」
僕は深く頭を下げた。
さっきのような“怒っている理由はわからないけど、とりあえずあやまる”のとは違う。
本気の謝罪だ。
『え!いいの!そんな!やめて!私、最初から怒っていませんよ?動揺しただけ!』
「でも……」
『岡村さん、私、本当にこんなに誰かとお話しするのは久しぶりで……こんなにたくさん自分の話を聞いてもらうのだって初めてす。すごく嬉しいです。だからもう頭を上げてください。まだ最後の話が残ってますから。私が夫に殺された、私の最後の日の話が。だからもう少しだけ私に付き合ってください。大丈夫、もうさっきみたいに雑に話したりしませんから』
田所さんはそう言って笑い、僕の手を握った。
途端、僕の心臓を掴まれたような感覚に支配され、視界に映る電気桜の輪郭が曖昧に溶け出した。
フラッシュのような強い光が幾重にも重なる。
眩むような光にホワイトアウトする視界。
さっきまでひんやりとした田所さんの手が寒いくらいだったのに、いつの間にかそれが心地よく感じ始めていた。
すると突然、爆発するような蝉の声が四方八方から降り始めた。
額に玉のような汗が浮かび、湿度の高い熱された空気に身体をべろりと舐められた気がした。
3月とは思えない急激な気温の上昇。
僕はたまらずネクタイを緩めた。
暑い……
なんなんだ……
これじゃあ、まるで真夏じゃないか……
なにが起こっているんだろう?
僕は一旦落ち着こうと目を閉じて深呼吸を試みる。
こういう時はまず落ち着く事だ。
充分に酸素を取り入れ、多少冷静になれたところで、僕は再び目を開けてみると……
信じられない事にそこは件のアパートの室内だった。
たださっきと違うのは、部屋の中にはタンスやテーブルが配置され、カーテンが下がり、部屋の隅には赤いランドセルもあり、明らかに誰か住んでいる、そんな風だったのだ。




