第四章 霊媒師OJT12
僕は田所さんの話を聞きながら不思議な感覚に陥っていた。
淡々と語られる声だけでの情報。
それなのに……僕の脳内には話の内容とマッチした映像が、途切れ途切れではあるが、鮮明に割り込んでくるのだ。
抜けるような青い空。
遠からずの目線の先には、なだらかな曲線に雪化粧の山肌が見える。
ガタンゴトンと音をさせ、ゆっくりと目の前を横切るのはおもちゃ箱のような一両編成。
砂と砂利がほどよく混ざり固まったあぜ道は、果てない田畑に囲まれて、まるで映画の中に出てきそうな田舎の風景が見える。
最初に風景の映像が流れ込んできた時、僕は特に気にもとめなかった。
昔見たなにかの映像がイメージとして浮かんだだけだと思ったからだ。
だけど。
目を細め娘のアルバムを眺める中年男性……
その様子を複雑な表情で見つめる美しい少女……
キッチンで料理をする優しそうな中年女性……
いかにも女の子らしい部屋の中で言い争う二人……
大きな荷物を持って泣きながら家を飛び出す少女……
それらの映像がノイズ混じりに割り込んでくる。
これは田所さんの記憶なのだろうか……?
いや……記憶とは少し違う気がする。
映像の中では田所さんの全体像を見る事ができた。
あれが田所さんの記憶の映像というなら彼女の視点でないとおかしい。
あの映像はまるで……そう、まるで、僕があの場で田所さん達の様子をそばで眺めているような、そんな感じがしてならないのだ。
あれは僕の度を越した想像なのだろうか?
僕はそれを確かめる為、田所さんにいくつか質問を投げかけた。
「あの……お話を進めてもらう前に聞いておきたい事があります。田所さんのお父さんは、がっしりした体型の白髪交じりの方ですか?背がこのくらいで、こんな感じで……」
僕が手振り身振りでお父さんの容姿について質問すると、きょとんとした雰囲気でこう答えてくれた。
『え?あ、はい。そんな感じです。でも身体は人より大きいけど、あとはどこにでもいる普通のおじさんって感じですけどね』
やっぱり……あれは田所さんのお父さんだったんだ。
それなら、
「お母さんは……青地に白い花が描かれた……花の名前はわからないけど、そんな模様のエプロンをしてキッチンに立っていませんでした?髪をこう後ろで1つに結んで、背は低くて、このくらいで……」
今度は具体的に、身に着けていたエプロンの色やデザインの事も聞いてみる。
すると田所さんは息を呑み込んで、
『……え?そうです!母は誕生日に私がプレゼントした青いエプロンをいつもつけていました。花は母の好きな鈴蘭が描かれていて、田舎の町だから探すのが大変だったんです!でも岡村さん、どうしてそれを知っているんですか?』
やっぱりそうか……ほぼ確信が持てた。
次の質問で最後だ。
これが合致すれば、僕の見た映像は間違いなく田所さんの過去だろう。
僕はきっと彼女を霊視……したんだと思う。
意図なく視えてしまったものだから、改めて誰かを霊視しろと言われたら多分できなだろうけど、さっきのはなんらか波長が合って視えたのかもしれない。
「田所さん、あなたはあの頃、肩までのきれいな黒い髪で、透明感のある白い肌、桃みたいな薄いピンク色の頬に、まるで外国のお人形さんのような整った目鼻立ち。テレビに出ている下手なアイドルなんか霞んでしまいそうな美少女でしたよね?」
僕は懸命に思い出しながら視たままを伝えた。
これに対する答えが肯定なら疑う余地はない。
偶然とはいえ霊視を成功させたと言って良いだろう。
新しいスキル習得だ。
お給料の査定にいい影響がでるだろうか?
さあ、答えてください、田所さん!




