第四章 霊媒師OJT11
東京に発つ前の晩。
私は自分の部屋で、次の日の始発電車の時間を調べていました。
内定をもらっていた会社に、就職の辞退と社員寮の入居解約の手続きに行く為です。
本当は電話連絡ですませてしまおうとも思ったのですが、私を面接してくれた社員の方に直接お詫びしたかったのと、せっかくだから東京見物に行こうと計画したからです。
この事は昼のうちに母と相談して決めました。
父はまだ知りません。
仕事から帰ってきたら話すつもりでした。
あれからずっと口をきいてくれないけど、上京しない事にしたと言えば、きっとまた口をきいてくれるはずです。
私はまとめた荷物の横で、父と母に東京土産は何がいいか、東京に行ったらどこから見て回ろうか、そんな事を考えてワクワクしていました。
その時、後ろで部屋の扉が乱暴に開けられました。
振り返るとそこには父が立っていて、私と旅行カバンを交互に見ると、途端に顔を真っ赤にさせていきなり大声で怒鳴ったんです。
「本当に行く気か!そんなに東京が大事か!俺や母さんよりも大事か!だったらもういい!始発なんか待ってないで今すぐ出て行け!二度と帰ってくるな!」
私はびっくりして恐くなって固まってしまいました。
それでもなんとか声を絞り出し、
「ちょっと待って、私の話を聞いて」
「言い訳するな!行きたいんだろう!そんな大きな荷物造って!だったら今すぐ出て行け!さあ!」
「だから、待ってよ、お父さん、」
「思い上がるんじゃねぇ!親元離れて、貴子1人で何ができる!」
「ちがう、私は、」
「言い訳するな!」
「……!」
「貴子!」
「…………」
「貴子!なんとか言え!」
「……うさんは……」
「なんだ!はっきり言え!」
「お父さんは、昔から私を縛りたがるけど、私はもう子供じゃない!」
「なんだと!生意気言って、あっ!待て!貴子!どこに行く!」
私は父の怒鳴り声から逃れようと、荷物とコートを掴んで無我夢中で家を飛び出し、真っ暗な田舎道を泣きながら駅に向かって歩きました。
父が私の気持ちを理解してくれない事に失望し、怒鳴られた事にショックを受け、なにもかもどうでもよくなってしまったのです。
誰の為に上京を諦めたと思ってるの?
お父さんの為じゃない!
あんなに寂しそうな顔で口もきいてくれなくて、そんなお父さんを置いていけないって思ったからなのに!
こんな夜中に出て行けなんてひどい……!
もう、いい!
やっぱりこのまま東京に行って就職する。
社員寮に入る!
もう、ここには帰らないから……!
あの時。
もう少し冷静になっていれば、母が入浴中でなければ、どうにか上京を諦めていれば、私は殺されなかったのかもしれません。
でもね、後悔はしていないんですよ。
私が東京に行かなかったら、娘は、娘のユリは生まれてこなかったんですから。




