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霊媒師募集  作者: たまこ
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第四章 霊媒師OJT10

父にばれたのは高校の卒業式も終わって、上京する1週間前の事でした。

それまで父には進学も就職もしないで家で家事を手伝うって事にしておいたの。

一人娘の私を溺愛していた父は特に反対する様子もなく、むしろ嬉しそうで、


「母ちゃんと貴子にうまいもん食わせる為に一生懸命働かねぇとな」


そう言って笑っていました。

それからこうも言っていました。


「貴子はそのうち嫁にいっちまうんだ。それまで家にいてくれるんなら、こんなに嬉しい事はねぇ、俺は幸せだ」


と。

それはもう本当に嬉しそうに何度も何度も言うんです。

私が幼かった頃のアルバムを引っ張り出しては、こんなに小さかった貴子がこんなに大きくなったって、これからは貴子の作ったメシも食えるようになるのかなって。


そんな父を見て私はもう何も言えなくなりました。

自分の事ばかりの身勝手な嘘に後悔も覚えました。

いつ本当の事を話たらいいのか見当もつきません。

だけど私以上に母の苦しさは想像をこえるものだったと思います。

そしてとうとう耐えきれなくなった母が父に本当の事を話したんです。

その時の父の怒りようといったら震え上がる程でした。

それでも決して私に手をあげるような事はしません。

ただ、父の目が真っ赤になって今にも泣きだしそうだったのはよく覚えています。

身体が大きくていつも豪快に笑っていた父が少し小さく見えました。


それからの6日間、父は私と口をきいてくれなくなりました。

私と目が合っても怒った顔でそっぽを向いたり、かと思えば悲しそうに俯いて、話しかけても聞こえない振りで逃げてしまうのです。


最初に東京行きを知った時の勢いはどこへやら。

そんなおかしな行動をとる父を見たのはこの時が初めてで、私はひどく動揺しました。


思えば、それだけ父は寂しかったのだと思います。

私が家を出る事もそうですが、私が母だけに上京の相談をしていた事、母が私の気持ちを聞いてすぐに父に話さなかった事、母が私を庇った事……それらの事ぜんぶが父を傷つけてしまったのです。


私は消耗していました。

家の中は今までにないくらいピリピリしているし、父と私に挟まれた母は気を遣って辛そうなのに、それでも懸命に私を応援してくれるからです。


「貴ちゃんは頑張って立派な美容師さんになりなさい。お父さんの事は大丈夫。お母ちゃんが必ず説得してあげるからね」


昔から私を溺愛するあまり何でも自分の思い通りにしようとする父とは反対に、母は私の気持ちを第一に考えてくれる人でした。


私の身勝手な嘘を信じて心から応援してくれる母。

押しこそ強いけど私を宝物のように想ってくれる父。

それぞれ方向は違うけど、そこにあるのは確かに私への愛情です。

その愛情を改めて目の当たりにした私は、本当に悩んだし考えました。


美容師になんてなりたいと思った事もないくせに。

18才にもなって本来あるべき目標もないくせに。

東京に行って何がしたいかもわからないくせに。

ただ、田舎から逃げたいだけの口実のくせに、それなのに。


両親に嘘をついて悲しませて、そこまでして上京する事に意味があるのだろうか。


本当はわかっています。

答えは“否”です。


ああ、でも、このチャンスを逃したら東京で就職する事も、家を出て一人暮らしをする事も出来ないでしょうし、田んぼと畑に囲まれた小さな町で一生を終える事になるのでしょう。

もしかしたら後悔するかもしれません。


それでも……そうだとしても、やっぱり寂しそうな父を見たくないと思ったし、母に嘘をつくのも苦しくなって頭の中はグチャグチャになりました。

だけど、きっと、そうなんです。

私にとって家族はこんなに悩むほど大切なんです。

そう気が付いたら、あんなに憧れていた東京に行きたいと思えなくなっていました。




「お母ちゃん、私……東京に行くのやめようと思うの」


夕飯の支度をしている母の背中に、私がそう話しかけると母は驚いて振り向きました。

そして包丁をまな板の上に置きながら、


「貴ちゃん、お父さんの事なら大丈夫だよ。お母ちゃんが、ちゃんと話をしてあげるから。貴ちゃんは美容師さんになりたいんだろう?親の為に夢を諦める事はないんだよ」


疑う事を知らない母の真っ直ぐな言葉に、美容師になりたいというのは嘘だったとは言えなくなりました。

だからいかにも考えた風を装って、


「いいの。よく考えたら私、美容師になれるほど器用じゃないって思い出したの。それに東京で働きながら学費稼ぐのも大変そうだし。私、これからはお母ちゃんにかわって家事をするよ。そりゃあ最初は教えてもらわないと、うまくできないかもしれないけどさ」


「貴ちゃん、学費ならお母ちゃんが出してあげるよ?子供は親に甘えていいんだよ?」


「お母ちゃん……ありがとう。でも、ごめん、違うの、本当は、本当はね、私、自分の事しか考えてなくて、美容師になりたいっていうのだって……、」


私はもう罪悪感と自分が情けないのとが混ざり合い、涙が出てそれ以上話せなくなりました。

やっぱりちゃんと嘘ついててごめんなさいって謝ろうと、ううん、謝りたいと思ったのに、だけど結局、本当の事も、言い訳も、感謝の言葉も、涙にじゃまされて、何もかも出てこなくて、ただ母の胸で泣く事しかできませんでした。

母は何かを感じとったのでしょう。

私にそれ以上何も聞かずに強く抱き締めてくれました……。

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