第四章 霊媒師OJT9
~田所貴子の過去~
私ね18才の頃。
高校卒業と同時にN県の田舎から東京に出てきたんです。
田んぼと畑に囲まれた何もない田舎の町で育った私は、このままこんな田舎で一生を終わらせるなんて嫌だ、高校を卒業したら東京に行こう、きっと父は反対するけどかまうものかってずっと思っていました。
特にやりたい事も、目標も、夢も、ありませんでした。
ただ、ただ、田舎が嫌で、東京に憧れて、東京にさえ行けば後はなんとかなるって、楽しい事がたくさん待っているって……恥ずかしい話ですが、本気でそう思っていました。
今思えば浅はかですよね。
親元から離れて1人で暮らす。
その為にお金がいくら必要なのかもわからないのに、料理もまともに作れないのに、東京に知り合いの1人もいないくせに、そういった事には目を背けてなんでも1人で出来る気になっていました。
本当はずっと父と母に守られていたのにね。
毎日おいしいごはんが食べられて、借金取りに追われる事もなくて、暖かい布団で安心して眠れて……そんな幸せな日常があたりまえに繰り返されていた私は、それが働き者の父の努力と365日休むことなく家事をしてくれる母の優しさによって成り立っている事にまったく気が付けなかったんです。
親なんだから当然、まではいかなくても……ああ、違う。
岡村さん、私を笑ってやってください。
あの頃の私は本当は心の奥底で……どこか当然だと思ってたのかもしれません。
高校も3年になると、進学か就職か進路を選ばなくてはならなくなりました。
私は考えた末、就職を希望しました。
早く仕事がしたかった訳ではありません。
進学を希望したって、どうせ許してもらえるのは家から通える田舎の大学だけです。
東京の大学はおろか県外の学校だって反対されるのは目に見えています。
だったらいっそ就職してしまおう、自分でお金を稼いで好きな事をしよう、東京に社員寮がある会社ならどこだっていい。
そう思って、いえ、そう思いあがって、東京の社員寮がある会社を受けました。
その事を知っていたのは母だけです。
母は、お父さんにも相談しないと……って何度も言っていましたけど、私がそれを止めました。
「お母ちゃん、私ね東京で美容師になりたい。でもそんな事言ったらお父さんに反対される。だからまずは東京で就職して、自分で学費を稼いで美容師の学校に行く。昔からの夢だったの。お願い、応援して。お父さんにはギリギリまで内緒にして」
親不孝でしょう?
美容師になりたいなんて思った事もないのに、それらしい嘘ついて母を騙して、父に嘘をつかせて共犯者に仕立てたの。
母はね父に嘘をつきたくなくて相当悩んで、それでも結局私を信じて黙っていてくれたわ。
苦しかったと思う、でも、そんな母の気持ちも考えず私は浮かれていたの。




