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霊媒師募集  作者: たまこ
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第二十八章 霊媒師 三年後ー55

隣に座る大福は、なにも言わずに霊体からだをピタリと寄せている。

前に座る水渦みうずさんは、目線を逸らして海を見て、まるで独り言のように、こう言ったんだ。


「……この仕事をしていると、生と死の境界が曖昧になる事がありませんか? 私達霊媒師は、死者の姿をこの目で視て、言葉を交わす事が出来ます。この霊力ちからがある限り、”人の死” は ”別れ” ではなくなる。現に先代がそうですよね。病気で命を失いましたが、いまだこうして一緒にいられるのですから。だけど本当は違うんです。一般人なら、霊力ちからを持たない人達なら、”人の死” は ”別れ” に直結するんです。……辛いですよね、大事な人を死に奪われて、残された人達は悲しみに溺れてしまう……それだけじゃない、もっとこうしてあげれば良かった、ああしてあげれば良かったと、どうにもならない後悔もするんです、……今の、岡村さんのように」


僕を見ない水渦みうずさんは、窓の向こうの海をジッと見つめてた。

寄せては返す、波の裾が白く泡立ちキラキラしてる。


霊力ちからを持たない人達は、どうやって悲しみを乗り越えるのでしょう。気持ちを強く持てば良いのでしょうか、無理にでも前を向けば良いのでしょうか、……いいえ、そんな事は綺麗事です。おそらく誰も、本当に乗り越えるなど不可能だと思います。……ただ、それを独りじゃ出来なくとも、誰かの手を借りれば……あるいは、悲しみを和らげる事が出来るかもしれません、」


そこまで言うと、水渦みうずさんは海から僕に目線を移し、深く大きく息を吸った、そして。


「…………以前私は、この世のすべてを呪っていました。自分も周りも好きではなくて、唯一、姉の事だけ大好きで、……ですが、その姉との関係を壊してしまった自分自身を1番に呪っていました。知っていますか? 呪いとは、悲しみの集合体です。自分ではどうにもならない負の鎖に縛られる事です。当時私は諦めていました。このまま一生鎖に捕らわれ呪い呪われ続けるのだと、二度と姉には会えないのだと、……ですが、そんな私を救ってくれたのが貴方です。岡村さんがいなければ、姉との再会は叶わなかった」


今度は彼女が泣きそうだ。

目を真っ赤にし、細かく口が震えてる。


「貴方は、……私の呪いを解いてくれたんです。私がどんなに酷い言葉を投げつけたって、それでも貴方は真正面から私に向き合ってくれました。…………覚えてますか? 昔、私が言った事。”私は貴方に救ってもらった。だからこの先、なにがあっても私が貴方を守りますと”、……そう言ったのを。貴方はきっと覚えてないかもしれません。ですが私はずっとそのつもりで生きてきました。だから今度は私が貴方を救います。私なんかに出来る事は少ないかもしれません。それでも、貴方が悲しく思うなら、貴方が辛いと思うなら、私がそれを全力で和らげます」


言葉が……出なかった。

赤い目をした水渦みうずさん、涙が溜まって今にも零れ落ちそうだ。

指先が震えてる、唇も震えてる、肩だって震えてるんだ。


深呼吸を1回、2回。

身体の奥から嬉しく思う、気持ちがジワリと沸き上がる。

ありがたいな、本当にこの人は変わったよ、……いや、元から優しい人だったんだ。


「……水渦みうずさん、ありがとう。僕は幸せ者だな、こんな風に一生懸命、アナタは僕を救おうとしてくれるんだもの、」


言いながら、取り出したハンカチを差し出した。

水渦みうずさんは素直に受け取り、零れそうな涙を拭いた。

気づけば2階は僕達だけで、かすかだけど波の音がここまで聞こえる。


涙を拭いて俯いて、そのハンカチを握りしめてる水渦みうずさん。

彼女は小さく、


「これ……洗ってからお返しします」


と言うもんだから、


「別に良いよ」


と笑って答え、手を伸ばしたんだ。

ハンカチを返してもらってポッケにしまうつもりでさ。

その時だった。

水渦みうずさんは、僕の手をジッと見て、


「……”ペルソナ” に言われたんです、」


躊躇うようにそう言った。


「え……? なにを? いつの話? ……あ、もしかして、水渦みうずさんの現場にひみちゃんが現れた時の事?」


そう言えば水渦みうずさん、そんな話をしていたな。

ただ、なにを言われたのかは教えてくれなかったけど。


「そうです、彼にはあの時……”生者だろうが死者だろうが式神だろうが、別れというのは突然にやってくる。だから後悔しないように、自分の気持ちに正直にね” って、そしてこうも。“僕にもしものコトがあったら思い出して、よくよく言葉の意味を考えてね”、……そう、言われました」


そうなんだ……そんな事を言われたんだ。

今聞けば、彼の言葉の重みが伝わる。

ひみちゃんは、すでに覚悟をしてたんだ。


そう、考えていた。

ひみちゃんの気持ち、ひみちゃんの優しさ、それを思うと泣けてくる……と。

だけど僕は、その後続く彼女の言葉に驚いて、強制的に思考が中断されたんだ。


「岡村さん……、それを踏まえて聞いてほしい事があるんです。……ああ、いえ、これは個人的な内容です。……元々は、一生隠すつもりでいました。絶対誰にも言わないと誓ってました。だって、私がこれから言う事は、もしかしたら貴方にとって、この上なく迷惑な事かもしれないから」


僕にとって迷惑な事……?

なんだろう……でも、優しいアナタが言う事だもん、迷惑なんてある訳ないよ。


「ですが、自身の消滅を覚悟の上で、それでも貴方に会いに行った彼の言葉は、私の中に深く沁み、彼が消えた今となっては言霊となり刻まれています。……誤解をしないでほしいのは、たとえこれを言ったからとて、貴方にどうこう望む事は何一つありません。ただ、”ペルソナ” の言う通り、私自身が後悔をしない為、そう……独り言のようなものです。聞いたらすぐに忘れてください。忘れたらいつも通りに接してください。そしてこれから貴方を守らせてください。それだけをお願いします」


一旦ここで言葉を止めた。

そして何度も息を吸い、僕の目を真っ直ぐに見て、


「岡村さん、大変申し訳御座いません。私は貴方を愛しています。4年前に出会った頃からずっと、」


え……?

え、……待って、

今アナタが言った事、

それって____


____聞こうと思った、


でも、上手く言葉が出てくれなくて、

そうこうしてると水渦みうずさんは、カップに残ったジャスミンティーを一気に飲み干し、


「お茶一杯の約束です。私はこれで失礼しますが、何かあったらすぐに連絡してください。何処にいようと駆け付けますので。それでは、」


まるでなにも無かったように行ってしまった。


……

…………


残された僕はというと……ただ茫然と、たった今言われた言葉を頭の中で繰り返していたのだ。







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