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霊媒師募集  作者: たまこ
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第二十八章 霊媒師 三年後ー5


”みんな揃ってお腹いっぱい幸せランチ”、……の次の日。


僕は自分のデスクで ”現場報告書” と ”交通費精算” の雛型を作っていた。

エクセルは得意じゃないけど、とりあえず時間はあるしでチマチマチマチマ……頑張ってみたのよね。

で、


「社長ー、それっぽいのが出来上がりましたー。これで良いか、見てもらってもいいですかー? とは言っても、元々使ってる書式とほぼほぼ一緒なんだけどさ」


作った雛形を社長にメールで送ろうとして……やめた。

だって席近いんだもん。

呼びつけたって、社長の席から数歩も歩けば僕の席に到着だ。

それだったら、僕のパソコンを直接見てもらった方がだんぜん早いのだ。



身長190超えの一歩はデカイ。

社長は3歩で僕の席までやってくると、回転式のオフィスチェアーにドカッと着席。

同時、「低っ!」と驚き、ガチャガチャとレバーを動かし1番上まで高くした。

ま、僕と社長じゃ身長差が18センチもあるからねぇ(僕は175センチ、社長は193センチ)、こうなっちゃうわな。



僕が作った雛型を、隅から隅まで見つめる社長。

待ってる間の僕はと言うと、お姫の顎をコチョコチョするのに大忙しだ。


「どれどれ、……お! 良い感じに出来てんじゃねぇか! 今まで使ってたのと大体一緒だ。ああ、それで良いんだ。書式が大きく変わるとよ、やれ ”分かりにくい” だの ”前の方が良かった” だの、下手をすりゃあ、”新しいのがよく分かんないから報告書は書きたくない!” とか言い出すヤツがいるからな」


「ちょ、それ、そんなコトを言うのは弥生さんしかいないよねぇ。え? 正解? ああ、やっぱりね」


なんてコトを話しつつ、社長は、僕の作った雛形に合格点をくれたんだ。

わお、意外とアッサリだな。

これでこれから報告書や精算は、今までみたいな紙ベースの書類から、電子ベースに変更可能(ペンで書かずにキーボードをカチャカチャ打つの)。

作成したらユリちゃん宛てに、メールに添付でポチっと送信。

パソコンからでもスマホからでも、好きな時間に好きな場所で作成&提出が出来るのだ。


これまでのウチの会社はアナログで、書類はみーんな紙ベース。

時代を見事に逆走してる。

今時は紙削減、コスト削減、そういう事を考えたらさ、紙より電子に切り替えなくちゃ。

実はコレ、ずっと気になっていたのよね。

いつか社長に言ってみようと思いながらも、忙しさから放置をしてて、ココでようやく言えたんだ。


「エイミー、良いの作ってくれてありがとな。ウチの会社もこれでエコだぜ!」


ニカッと笑って親指立てて、社長はすこぶるゴキゲンだった(要は通常運転)。

僕も僕で、褒められちゃって良い気分。

人ってさ、いくつになっても褒められると嬉しいのよね。


岡村英海(ひでみ)、34才。

霊媒師は休業中で、本日は事務のサポート第一日目。

出だしは中々良い感じだよ。


事務のサポートに入って二週間が経ち、毎日毎日、同じ時間に出社するコトに少しだけ慣れてきた。


最初の3日はユリちゃん不在、お友達の結婚式でお出かけしてたからね。

結婚式は1日だけど、社長がさ、慣れないヒールで疲れるだろうと予想して、もう2日間はゆっくり休めと無理やり休みを入れたんだ。

てか、どんだけ奥さん大好きなのよ。

そんなユリちゃんも21才、本人曰く ”大人になった” と嬉しそうにしてるけど、実際は、いつまでたっても少女っぽさが抜けないの。

明るく優しく控えめで、恥ずかしがりやの女の子。

ユリちゃんはずーっとそのままいてほしい。



んで、先代はと言うと。

”みんな揃ってお腹いっぱい幸せランチ” の次の日から不在が続いてる。

どこに行ったか社長に聞いても ”さぁな!” しか言わないし、当然、休み明けのユリちゃんはもっと知らない。

一体どこに行っちゃったんだ……? と思うけど、これは 先代には良くあるコトなのだ。

小さい子供が散歩をしてて、”あっ! チョーチョ!” と走り出しすのと一緒なの。

好奇心の塊だから、夢中になると時間もなにも忘れちゃう。

先代が楽しいのならそれで良いと思うけど、会えないと僕がかなり淋しくなるのでそろそろ出社してください(切実)。



んでんで、僕ですよ。

事務仕事のサポート……と言ってはみたけど、ユリちゃんがあまりにプロで僕の出番がほぼほぼないし、あと、今は冬で依頼も夏ほどないからさ、交通費の精算なんかも件数が少ないの。

むぅ……やる事が少ないと手持ち無沙汰で落ち着かない。

昔なら、空いた時間は印の自主トレ! なんてコトが出来たけど、霊力ちからを使うと貧血になっちゃうもんで、下手な事が出来ないのだ。

むぅ……むぅ……と昼寝のお姫をナデナデしながら、なにか僕に出来るコトを考えて……むぅ……むぅ……あっ(ピコーン!)、1コだけ浮かんだぞ! 

そうだ、今までの依頼者さん達にお手紙を書いてみたらどうだろう?



さっそく社長に相談してみた。

僕はいわゆる転職組み。

前職は通信会社で営業とコールセンターに配属されてた。

お客様に手紙を書くのは営業時代のなごりになる。

商品をご購入いただいたお客様に、



____その後のお使い心地はいかがですか?

____なにかお困りごとはございませんか?



と、手書きのお手紙を年に数回お出ししていたんだ。

今時、紙ベースのしかも手書きのお手紙なんて時代に逆行するかもだけど、不思議なものでお客様には中々の評判だった。


僕の話を社長は真面目に聞いてくれた。

お試しとして、期間はここ1年くらいに ”おくりび” をご利用いただいた方が対象。

ファイリングの報告書には、依頼内容からどう解決したかもすべてが記載されている。

その中から、お手紙をお出ししても問題のなさそうな方をピックアップするの。

……って、ほら、業務の性質上、内容は霊的な事だしさ、依頼自体を家族や友人に隠したいって方もいらっしゃるから、そのあたりは慎重に。


手間はかかるが、お手紙を出す事で新たな依頼が来るかもしれない。

ご本人だけじゃなく、ご家族やご友人を紹介してくれるかもしれない。

霊現象で困った事が起きた時、ふと、ウチの会社を思い出してくれたらさ、何かの役に立てるかもしれない。


「正直、お手紙を出したからって依頼が殺到する事は……ははは、ないと思う。でも、長いスパンで見たら種まきになるのかなぁって。長文じゃなく、ゴリ押しの営業文でもなく、読んで負担にならないような短文で送りたいデス」


もう一押し言ってみた。

どうだろう、こう言うのって今まではしてなかったし、メンドクサイと思われちゃうかな。

もしそうなら引き下がろう、で、僕にも出来る別の仕事を考えよう。

腕を組んで考え込んでる社長を前に、お姫の顎をコチョコチョ撫でつつ待っていた。


んでんでんで、社長はニカッと僕を見て言ったんだ。


「いんじゃね? やってみろよ!」


ホント!? 良かったー! ささやかながら仕事をゲット!

さっそくチマチマ、いろんな人の報告書を熟読しながら、ひたすら手紙を書いたのだ。

いやぁ、こういうのって懐かしい。

営業時代、時間を見つけちゃお客様に手紙を書いてた。

大変だけど僕はこれが楽しくて、忘れた頃に ”手紙読んだよ、ありがとう” なんて言われると、営業に繋がらなくても嬉しかったりしたのよね。

こうなったらいっぱい書いちゃう! ……と思ったけど、気持ちとは裏腹にそううまくはいかなかった。

なぜなら……僕以外のみんなが書いた報告書、これがめちゃくちゃ面白いんだ。

こんな依頼があったのか、こんな風に解決したのか……と、読んでるだけで勉強になる。

僕の身体は1つだけ。

当たり前だけど、それゆえに行ける現場は件数が限られる、経験値の獲得には上限がある。

それがどうよ。

引っ張り出した山積みの報告書、僕にとっては宝の山だ。

得られるはずのない経験値。

過去の現場の数々が、僕の中にどんどん吸収されていく。

すごい……すごいや!

夢中になって読みふける、読めば読むほどお手紙が捗らないのに、どうしても止められないんだ。


お宝ファイルに夢中な僕は、自分から ”手紙が書きたい!” と言ったクセして止まらない。

あと1枚だけ、これを読んだらお手紙書くし、と言う独り言を何回言ったか分からない。


しかし……報告書も人によって色々だな。

同じ書式を使っているのに、個性が溢れて止まらない。

たとえば弥生さんだ。

彼女の報告書には毎回かならず決まったワードが書いてある。


____現場は大変だったけど、早く帰ってカラアゲ食べたいから頑張りました、

____長引きそうな現場だから家からカラアゲを持っていきました、

____すべてが終わった後のカラアゲとビールは最高でした、


ちょ、全部はまだ読んでないけど、今の段階でカラアゲの登場率100(パー)なんですけど。

どんだけカラアゲ好きなんだよ。



らんさんはこうだ。


____ソロの現場で1番大変なのは依頼者応対です、

____ボクは今日もサングラスと大きめマスクで挑みました、

____声を出すと震えちゃうのでタブレットに文字を打ってやりとりしました、

____依頼者さんに ”風邪気味なのですみません” と誤魔化したら喉飴を貰いました、


ああ、そうか。

らんさん、極度の赤面症だもんね。

僕も常々疑問に思っていたんだよ。

依頼者応対、ソロの時はどうしてるのかなぁって。

なるほど、風邪のふりしてサングラスとマスクで顔を隠して、タブレットで声を出さないようにしてたのか……やだ! めっちゃ努力してる!



キーマンさんはというと……ブハッ!

なんだこりゃあ!

いつものキーマン節は文字になっても健在じゃなーい!


____ロストアイテム(失くし物)ファインドアウト(見つける)

____そんなコトは俺にとってイージーヴィクトリー(楽勝)

____地雷からバービードールまで、カムエニシング(なんでも来い)だ!


や……コレ、ここだけ読むと報告書じゃないよ、ふざけてるとしか思えないYO!(これの後はちゃんと内容の記載アリ、ただしキーマン節で)。



ジャッキーさんは割とまともだな。


____依頼者を呪い殺すと、半分妖怪化した悪霊の対応、

____事情を聞けば依頼者に落ち度はなく逆恨みである事が判明、

____悪霊が持つ頭上の珠は闇に淀み塵一つ残す事なく滅するがベスト、

____当日中に滅する事を目標に対応するが、

____戦闘中の自分(本体)に双子の妨害が入り時間がかかってしまった、

____猛省し双子対策を練ろうと思う、


双子の妨害……それってもしかして、弥春みはるちゃんと茉春まはるちゃんがパパに甘えて突進してきたのかな?

あはは、笑っちゃいけないけど笑ってしまう。

在宅勤務あるあるだ(ジャッキーさん、おつかれさまです)。


そして水渦みうずさんはと言うと。


____AM9:24,現場に到着し依頼者から内容聴取,

____AM10:31,依頼現場に入った早々,2時の方向から攻撃を受ける,

____社内規定に則り,攻撃霊こうげきしゃに対し成仏の意思確認,

____AM11:02,成仏を断固拒否する姿勢を視せる,

____AM11:29,拒否だけに留まらず,

____AM11:37,本霊ほんにんによる過去の悪事の申告,

____AM11:58,反省もなく声を大に悪事を続行すると宣言,

____PM12:04,以上の事から救いが無いと判断し,霊矢撃ち込み開始……



まさかの分刻みの報告なんだ。

しかもさ、なんか文に違和感あるなと思ったら……句読点がカンマになってる(今気がついた)。

コレ、書く時のクセなのかなぁ……?

いや……うん、区切りには違いないし、別に良いんだけどさ。



はぁぁぁ……もうね、冒頭でコレだもの。

うっかり続きが気になっちゃって、どんどん読み進めてしまうのだ。

それぞれ個性は強いけど、本文は役に立つ事ばっかりで……だからあともう1枚! コレ読んだらお手紙書くからー! ってなっちゃうの。


……

…………

………………


黙々と読みふける僕。

事務所内で筋トレを始めた社長。

そんな社長を「恰好良い……(ハート)」と動画を撮るユリちゃん。


入社当時と変わらない、良い感じに自由な空気に包まれながら、それぞれが好きな事をしてたんだ(仕事は?)。


天井に取り付けた鉄パイプ。

社長はそこで懸垂しながら、あと3回で100を数える……その時だった。

デスクの上に放り投げてた僕のスマホが ”にゃーん” と鳴った(着信音は猫の鳴き声にカスタマイズ!)。


画面を見ればメールが1通届いてる。

誰だろう? それかダイレクトメール的ななにかかな?

条件反射でタップして、受信のメールを開いたの。

それはらんさんからだった。

わお、久しぶりだ。

ここんトコぜんぜん会ってないから、メールをもらって嬉しくなった。


さらにタップで本文を開く。

なにが書いてあるのかな?

遊びのお誘いかな? 

……と思っていたのに、そこには謎の文章があったんだ。



____岡村さん、さっきは助けてくれてアリガト。

でも、突然いなくなっちゃったからビックリしたの。

どこに行ったか分からなくて、霊視をしても視えなくて、だからメールをしてみたんだけど…………

 


ん?

んん?

んんんー?

なにこれ、……僕、らんさんを助けてないけど。

それどころかずっと事務所にいるんですけど。

僕達ずっと会ってないし、えと……誰かと間違えてない……?






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